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放課後、いつものように目立たぬよう図書館へ向かう途中、一ノ瀬栞は校舎裏の細い路地で立ち止まった。前方から聞こえる荒っぽい男たちの声。嫌な予感がしたけれど、視線を避けて通り過ぎようとした、その時だった。
「おーい、そこの地味なねーちゃん。ちょっとこっち来いよ」
数人の男子生徒が道を塞ぐ。他校の生徒だろうか、いかにも柄の悪い風貌だ。彼らはニヤニヤと笑いながら、栞を取り囲む。
「お前、ここの生徒だろ? ちょっと俺らと遊んでかねーか?」 「へへ、美人じゃねーけど、こういうタイプも悪くねーだろ?」
心臓が大きく跳ねる。陰キャの栞にとって、こんな状況はまさに悪夢だ。どうしたらいいか分からず、ただ視線を下げることしかできない。
その時、路地の奥から低い声が響いた。 「……おい、貴様ら。一体何を企んでいる?」
振り返ると、そこに立っていたのは高嶺 透だった。サッカー部の練習帰りだろうか、ジャージ姿の彼は、しかし纏う空気は完全に「高杉晋助」。鋭い視線が不良たちを射抜く。
「あ? なんだお前、邪魔すんじゃねーよ」 「邪魔? ……フン、貴様らのくだらぬ悪事が、俺の『世界』を汚すのは看過できん」
透はゆっくりと歩み寄る。その存在感だけで、不良たちは一瞬怯んだ。だが、多勢に無勢。一人が金属バットを構えた、その瞬間――
「あーあ、せっかくええ眺めやのに、空気読めん奴らがおるせいで台無しやんか」
今度は路地の入り口から、陽気だが威圧的な声が聞こえた。バスケ部のユニフォーム姿の扇 蓮が、フッと余裕の笑みを浮かべて立っている。
「邪魔するなや。俺の横に立つべき女に、手ぇ出しとるんちゃうぞ」 蓮は腕を組み、不良たちを一瞥する。その顔には「禪院直哉」の自信と傲慢さが貼り付いていた。 「お前らみたいな雑魚が、俺の気まぐれを遮るんじゃねぇよ。さっさと消えろ。でないと……痛い目見るで?」
不良たちは、学園の二大エースの登場に完全に狼狽していた。しかし、まだ諦めない者もいる。一人、蓮に向かって突っかかろうとした瞬間――
「やめとけって。怪我人増やすのは、俺も病院送りになるし、面倒くせーんだわ」
気だるげな声が、今度は路地の真ん中、不良たちの背後から聞こえた。 振り返ると、そこにいたのは、いつもの死んだ魚のような目で、しかし不良たちを睥睨している坂上 竜だった。彼は片手で耳を掻きながら、もう片方の手には、なぜか今川焼きの袋をぶら下げている。
「な、なんだよお前!」 「なんだよ、じゃねーよ。お前らがやってることが、俺の憩いの時間を邪魔してんだ。責任取れんのか?」
竜はゆっくりと不良たちに近づいていく。その表情はどこまでも無気力だが、一歩一歩踏み出すたびに、不良たちの顔から血の気が引いていく。
「さっさと消えろ。……ま、消えなくてもいいけど、その場合は俺が、お前らの存在をこの路地裏から『消してやる』けどな」
三者三様の「推し」が、それぞれのやり方で栞を守るために集結した。 不良たちは、人気者たちからの尋常ではないプレッシャーに耐えきれず、蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
静まり返った路地裏に、三人の視線が栞に集中する。
「……大丈夫か、一ノ瀬。貴様が無事なら、それでいい」 透はそっと栞の肩に触れ、安堵の息を漏らす。
「フン、まぁ、俺が来ればこんなもんよな。一ノ瀬さん、怪我ないか? もし怪我したんなら、俺がその傷、治したるで」 蓮はわざとらしいほどキザな笑みを浮かべ、栞の手を取ろうとする。
「ったく、お前も懲りねーな。こういう時は、俺を呼べっつったろ。……ほらよ、ビビったろ? これ食って落ち着け」 竜は、なぜか今川焼きを一つ取り出し、栞の目の前に差し出した。
人気者たちに囲まれ、助けられたものの、栞の混乱は深まるばかりだった。