テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「へ?」
アオイは思わず間の抜けた声を漏らす。
「聞こえなかったか? お前の勝ちだ」
魔神の身体は完全に再生し、無傷のまま。
依然として全身から放たれるオーラは衰えを見せない。
「え、えと……いや、なんか……随分あっけないなって、ちょっと思ったり思わなかったり……」
「何だ? まだ我を殴り足りないのか?」
「そ、そんな事ないよ」
「…………何をしても無駄と悟った。流石、異世界の勇者だな」
「……」
「不服そうだな?」
「え? あ、いや……」
「言ってみろ」
魔神は指を鳴らし、足元に玉座を魔法で出現させ、その場にゆったりと腰を下ろす。
「正直、その一言で片付けられたくない……かな? もちろん全部が全部って訳じゃないけど、こっちも命かかってるし、胃が痛くなるくらい色々考えて、毎日“死ぬかもしれない”ってプレッシャーに追われて……いや、ごめん、言い出すとキリないからやめとく」
「勇者であることが苦痛とは……つくづくお前は異端だな」
「自覚はある」
「それで?先ほど何か言いかけてなかったか?」
「あ! そうそう!」
「なんだ?」
アオイは、この場に来た本当の理由――そして、一番の目的を告げる。
「勇者によって殺された魔族や魔王を……全部、復活させてほしい」
「……?」
「僕達、お互いよく話し合えばやり直せると思うんだ、だから____」
「無理だ」
「……え?」
「死んだ者を生き返らせるなど有り得ない、我の力は【創造】作る事が出来てもそれは生き返った訳では無い」
「そ、そんな、え?え?」
「貴様が何を思って、何を提案しようとしたかは知らんが前提として無理だ、魔族や魔王を作ったのは我だが生き返らせるなどは到底無理だ」
アオイの顔は余裕がなくなっていく。
「え、じゃぁ僕がここまで来た意味って……え?未来見てくれたんじゃなかったの?え?」
「ブツブツ何を言ってる、もう用は無いみたいだな……ならば、我を殺せ」
「え?」
「貴様が我を殺せば、全て終わりだ」
魔神は折れている大剣を呼び出し魔法で修復し、アオイにつき出す。
「あ、あの……」
「この剣で我の首を斬れ」
「いや、やらないよ?」
「…………」
「いや、目を閉じててもやらないから、てかこういう空気で殺すのってアニメとか漫画だけだから」
「…………」
「あれ?魔神さん?寝ちゃった?」
「貴様!いい加減にしろ!今まで我に全力を出して戦ってきた勇者達に失礼だと思わんのか!」
「うるさい!勇者勇者って!ここはゲームの世界じゃないんだ!僕の決める事は僕が決める!」
「ならば我を殺せ!」
「殺さない!」
「そうか、ならば我は人間の国を__」
その言葉に反応してアオイはすぐに【糸』で魔神を玉座に固定した。
「ちっ!」
「残念だけど絶対にそれはさせないよ」
だが、魔神を拘束している『糸』が1つ、アオイの目を盗み、体内に入りこんだ。
「っ!……………………なるほど…………そう言う…………事だったのか」
「?」
魔神はアオイの方を向くが、アオイを見ていない。
まるで“後ろにいる誰か”を見て話しているかのようだ。
「これ以上、【貴様達】や『お前』の茶番に付き合うつもりはない、我も【運命】に従うとしよう」
「何を言って……!?」
………………
…………
……
アオイの手が勝手に動き床に落ちた大剣を拾う。
「て,手が勝手に!この感覚……まさか、あの時と同じ」
「とんだ茶番だったな」
アオイは意識だけある状態で身体は【神】によって強制的に動く。
「め、『女神』!止めて!」
その言葉を言うとヒロユキを包み込んでいた物と魔神を拘束していた『糸』が動き出し____
『……』
魔神を玉座から引き摺り下ろして“首を斬りやすい体勢にした”
「っ!?そんな!?」
元々『女神』と契約して力の比率が傾いたアオイは【糸』を操る際、女神を通し操っていた……つまり、この状況で糸が勝手に動いたと言う事は____
「僕の中の『女神』が【神】に味方した!?」
そう、かつて魔王ロビンの時に神の邪魔をしていた女神が協力したと言う結果なのだ。
「なんで!?どうして!?」
アオイの脳裏に蘇る魂を刈る感覚。
ヒロスケの最後。
「嫌だ……あの感覚は嫌だ」
今まで間近で死を見てこなかった訳ではない。
アオイの中で“仕方のない事”として無理やり処理して目を背けていたのだ。
自分は殺していない。
殺したのは他の人だ。
勇者として召喚されながら、一番最初に克服しなければいけない事を今の今まで放置していた。
「こんなの!間違ってる!」
せめてもの抵抗なのか、アオイの体勢は剣を振り上げた所で止まる。
「うぐぐぐぬぬぐぐ!ヒロ!起きろ!ヒロ!」
包み込んでた糸を解くと無傷のヒロユキが現れる。
「……っ!?」
「今すぐ俺をつきとばせ!」
「……え?あ、どういう」
「説明してる暇はねぇ!」
「……了解した」
急な状況で困惑したヒロユキだが、すぐに立ち上がってアオイの元へ向かおうとするが__
「……っ!?」
またしても糸が邪魔をした……ヒロユキの足に絡み付いたのだ。
「く、そ!」
そして____アオイの抵抗も虚しく、大剣が振り下ろされた。
「やめろおおおおおおおおおおおぉ!」
伝説の勇者が使っていた剣は容易く魔神の首を切断する。
「…………」
首が床に落ちてアオイの【LV】がどんどん上がっていくのを見つめながら魔神は意識を手放した……
魔神討伐__【完了】