テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
誰も知らない、高嶺の花の裏側3
第23話 〚助かったあとに残るもの〛(澪視点)
廊下で、
また距離が近かった。
西園寺恒一は、
悪意がない顔で、
でも一歩分、近い。
「澪、さっきの授業さ」
逃げ道を探して、
視線が揺れた、その時。
「——澪」
海翔の声。
はっきり、
私の名前。
海翔は、
間に入った。
「用件、俺が聞く」
西園寺恒一は、
少し驚いた顔で、
でも反論しなかった。
二人が話している、
その途中——
「お、なにこの集まり」
真壁恒一。
軽い声。
軽い笑い。
「守ってる感じ?
ヒーロー役?」
次の瞬間、
空気が変わった。
海翔の肩が、
ぴくりと動く。
西園寺恒一も、
顔色が変わった。
「……それ、今言う?」
海翔の声は、低い。
「笑ってないの、分からない?」
真壁恒一は、
きょとんとして、
でも続ける。
「いやいや、
場を和ませようと——」
「和んでない」
西園寺恒一が、
はっきり言った。
「澪の前で、
それ以上やめろ」
二人の声が、
重なる。
真壁恒一は、
一瞬だけ言葉を失って、
「あ、そっか」
軽く手を振って、
逃げるように去っていった。
残った沈黙。
海翔は、
すぐに私を見る。
「大丈夫?」
私は、
頷いた。
本当だった。
助かった。
でも——
西園寺恒一も、
その場を離れた。
「……ごめん」
小さく言って。
廊下に、
私と海翔だけが残る。
その時、
海翔の顔を見てしまった。
怒りが、
まだ消えていない。
目が、
鋭い。
(……こわ)
胸が、
きゅっとなる。
助けてくれた人なのに。
私の心臓は、
何も見せない。
でも、
初めて少しだけ、
不安が混じった。
「……澪」
海翔が、
声を落とす。
「あ、今の顔、 怖かったよな」
私は、
正直に頷いた。
「……うん、少し」
海翔は、
目を閉じて、
深く息を吐いた。
「ごめん」
「怒り、
向ける相手、間違えないって
決めてたのに」
その言葉で、
少しだけ、
安心した。
怒りがあることより、
向き合おうとしていることが、
伝わったから。
「……助けてくれて、ありがとう」
私が言うと、
海翔は、
いつもの距離に戻った。
近づきすぎない。
離れすぎない。
(この距離なら)
怖くない。
私は、
そう思えた。