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「偽装」という名の仮面を脱ぎ捨ててから
アイン様の私に対する溺愛ぶりは、もはやとどまる所を知らなかった。
公務の合間に廊下ですれ違う一瞬でさえ
彼は当然のように私の指先に自身の指を深く絡め、熱を分け与えてくる。
王宮の広大な食堂、煌びやかな食器が並ぶ食事の席でさえ
「君は食べている姿が一番可愛いな…もちろんいつも可愛いんだが」
と、まるで極上の宝石を愛でるような、蕩けるほど熱っぽい琥珀色の瞳。
その眼差しを向けられるたび、私はナイフを持つ手さえ震えてしまう。
けれど、どれほど深い愛を注がれ
正式な王太子妃としての教育を受けても
私の根底にある「ウブ」な性質だけはどうしても治る気配がなかった。
夜の帳が下りた、王城の静まり返った広い寝室。
私たちは今、正式な夫婦として、天蓋の付いた大きなベッドに横たわっている。
薄暗い部屋、月明かりがシーツを白く照らす中
アイン様は私の緊張を肌で察してか、無理に距離を詰めることはしなかった。
いつもただ、壊れ物を扱うような手つきで私を優しく抱きしめ
額に誓いのような軽いキスを落としてくれるだけ。
…このままじゃ、ダメだよね。私、アイン様に似合う奥様になりたいのに
「……あの、アイン様」
暗闇の中、隣で規則正しい
けれどどこか力強い鼓動を刻むアイン様の胸元。
そこに顔を半分埋めたまま、私はずっと胸の奥に溜め込んでいた疑問を
逃げ場を失った勢いでバカ正直に口にしてしまった。
「その……まだ、私たち、初夜というものを迎えていませんよね。……えっち、なこと…私ができるようになれば、アイン様は嬉しいですか…?」
あまりに直球すぎる、そして無防備すぎる私の問い。
その瞬間
触れ合っているアイン様の逞しい身体が、岩のように一瞬で強張ったのが分かった。
部屋を支配する、濃密で重い沈黙。
しばらくの後
彼は困ったような、けれど酷く甘い熱を帯びた溜息をついて、私をさらに深く引き寄せた。
「…シンデレラ。それは、男として嬉しいに決まっているだろう。だが……それは君が、心から『シたい』と、俺を求めてくれたときでいいんだ。俺の我慢なら、いくらでもきくからな?」
「えっと……でも、お世話係のメイドさんが『私から誘えばアイン様も喜ぶわよ』って、こっそり教えてくれたんです。アイン様が喜ぶことなら、私は何でもしたいなって思ったのですが……」
私はさらに身を乗り出して、至近距離にある彼の琥珀色の瞳をじっと見つめた。
あの地下室から救い出されたあの日から、アイン様のためなら、この命さえ惜しくないと思っていた。
彼が喜ぶ顔が見られるなら、どんなに不慣れで恐ろしいことだって頑張りたい───
そんな献身を真っ向からぶつけると
アイン様は耐えきれないといった様子で顔を真っ赤に染め、片手で自らの目を覆って天を仰いだ。
「そ、そうか……。いや、シンデレラ。俺が喜ぶことなら何でもする、というのは……この状況では少し意味が違うからな?…危ないし、何より、俺の理性が持たない」
「危ない……?何が、危ないのですか?」
不思議に思って首を傾げる私。
我ながら無知な質問に
アイン様はついに観念したように低く苦笑すると、私の後頭部を大きな掌で優しく引き寄せた。
「……そのうち教えてやる」
そう言って降ってきたのは
これまでのどれよりも深く、逃がさないという意志を孕んだ熱い口づけだった。
舌先が微かに触れ合い、口内の熱をすべて支配されるような未知の感覚。
私の指先はシーツを強く掴んだまま硬直した。
鼻腔をくすぐるアイン様の清潔な木々の香りと、肌を伝わってくる暴力的なほどの熱。
頭の中が真っ白な霧で満たされ、思考が溶けていく。
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