「お父さん!!遅い!!」
瑠美は玄関の前で、父の車がガレージとまったことを確認すると、ジャンプをして帰宅を喜んだ。
「瑠美、1人でいたの?!」
塁が声をかける。
「うん、そうだよ。お母さんずっと帰ってこない。お腹すいたよ~」
「はいはい。今、コンビニで買ってきた。どのおにぎりにする?」
晃は、きっと家には絵里香はいないだろうと予測して、夕ご飯用のおにぎりを用意した。
テーブルに置いたビニール袋からおにぎりがこぼれ落ちる。
「わぁい。私、鮭がいい」
「僕は筋子~」
「お父さんは何にする? 肉巻きおにぎりかな」
「あぁ、それでいいよ」
帰ってきて、すぐ晃はリビングを見渡す。いつも通りの様子で、変わりはない。置き手紙もない。でも、洗面所に行くと、洗濯カゴに大量の洗っていない洗濯物があり、台所には今朝の汚れた皿が大量に残されていた。洋服を片付ける部屋では乾いた服が乱雑に置いてあった。
お風呂場は栓がぬかれて、空っぽの湯船。トイレのトイレットペーパーは、切らしている。
ストックを置く倉庫にもない。念の為、確認した炊飯器には空っぽで中にはヘラだけが入っていた。
米びつにはあと1合あるかないかの量が入っている。冷蔵庫を見ると卵と豚肉があり野菜コーナーにはキャベツしかなかった。カレールーはあるのに主要野菜のにんじん、たまねぎ、じゃがいもがない。
(これって俺への当てつけなのか?)
郵便受けには1週間前に届いたであろうものが溜まっていた。末日までセールのハガキがある。今は月の上旬でとっくにセールは終わっている。自分は何を見て、何をしていたんだろう。独身の一人暮らしなら家のことを多少手抜きをしても、許される部分があるが家族となると話は別、使う食器、食べる量、着る服、履く靴、部屋の広さや迫り来るミッション、学校や幼稚園のお便りの山
参観日や面談の日時、PTA行事の把握 親というのはお金の稼げないミッションがたくさんある。そして、それをサボると子どもの心を傷つける内容ももちろんある。
給食弁当に使うマイ箸を持たせるのを忘れたり、歯ブラシを入れなかったり水着や上靴の管理 着替えの準備 服の名前書き
地味で重要なミッションが多すぎるのだ
病気になれば最寄りの病院に連れていくし検診に引っ掛かればそれを病院に連れてって結果を学校に見せないといけない
保護者会役員も辺りを見渡して学年の最初にやればあとは楽ちんとかいう人もいる
PTA交通整理の旗振りなんて寝過ごしてしまいそうなくらい早い時間から配置される
どれもこれも 手伝ってと声をかけても、晃は仕事だからと断ってきた
半ば諦めた絵里香は、自分でやると晃はいないものと決めてこなしてきた感謝なんて誰からもされない
でもやらないといけない給料なんて発生しないのだ
こどものためにという一心だけ。
ご飯作るのも笑顔になるならやり甲斐がある
あれ嫌いこれ嫌い他には無いのと買ったきたもの全部否定されると何を糧にご飯を作れば良いかわからなくなる
ましてや、旦那は夜遅くに感想さえも言わずに夕飯を完食する。
いや、いいよ。全部食べてくれるのは。
せめて、ごちそうさまの一言いうべきでしょ。
当たり前のように食べて当たり前のようにやり過ごす。妻はロボットでは無い。
れっきとした人間だ。求めようとすれば求めるし嫌がることもある。
毎日美味しいご飯なんて続けてできるわけがない。10回に3回はおいしく無い日があるだろう。
その日の体の疲れや精神状態で美味しい時もあればまずい時もある。
ロボットじゃないんだから、それでも料理というフィールドに真剣に向き合ったことを認めてほしい
すぐに外に食べに行こうと言っても今日は疲れているから家で食べたい
でも、食材は、誰が調理する?
お皿に茹でていないうどんの乾麺でも広げて出せばいいですか。
あなたも疲れているのならば私も同じにして疲れているそしたら、食べないで寝てしまおうと屁理屈を言う。
冷蔵庫に、食材はある。
炊飯器にご飯もある。
食べないの意味がわからない。子どもたちはピーピー
「お腹、空いたぁ」
お腹をおさえて、瑠美と塁は晃に、せがむ。
コンビニおにぎりでは足りないらしい。絵里香はいない。
こう言う時、絵里香はすぐに冷蔵庫から適当に2人が好きそうなオムライスや、親子丼を作ってしまう。
晃はそれを真似てしようかと思ったら鶏肉はない。
玉ねぎも、ベジタブルミックスも。料理というのは買い物をしないとできないんだということを考える。
妥協して豚肉でと思ったが子どもたちが許さない。
(確かに、これを毎日されたらたまったもんじゃないな。ミルクだけなら哺乳瓶に入れてお湯入れて冷ますだけだったのに……これ嫌だとか言われたら……仕事で疲れて帰ってきてるのにこの作業……俺は何見てたんだろう)
冷蔵庫のドアをパタンと閉めた。
「よし、買い物行こう。食べたいもの買ってこよう」
晃は子どもたちに提案する。
「えー、やだー。疲れてるもん。行きたくない」
「私は何でも良いよ」
「そんなこと言われても……」
晃は途方に暮れて台所で膝をついた。
背中に塁が横から瑠美が声をかけてくる。
逃げ出したい。疲れていた。両耳を塞いだ。
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