とある朝。
「おはようございますお坊ちゃま」
執事らしい燕尾服を着た金髪の男が頭を下げる。
「うん…おはよ」
この優しい笑顔の寝ぼけた顔をした彼が「お坊ちゃま」
「寝癖がついております」
「あ、うん」
「後でしっかりセッティングいたします」
「ありがとー…」
あくびをしながらトテトテと歩く。執事は朝食の準備をする。4枚切りの食パンの風を開け
バターを乗せ、トースタースイッチオン。マグカップにお湯を注いでティーパックを浸す。
お湯に紅茶が溶け出してジワァ〜っと広がっていく。
トーストの香ばしい香りがし、ピーピーピー。トーストを取り出す。
市販のジャムの瓶をポカンッっと開け、イチゴ、ブルーベリー、リンゴ、モモを四方に塗る。
マグカップからティーパックを取り出す。
その紅茶の入ったマグカップとカラフルなトーストを乗せたお皿をテーブルの上に置く。
砂糖の入った瓶と砂糖を掬うようのスプーン、かき混ぜる用のスプーンも用意する。
手を拭くタオル、膝掛け、食事用エプロンも用意する。
「どお?」
制服に着替えた御坊ちゃまがリビングへ来る。
「いや、まだ寝癖がついておりますので、後でちゃんと私がセットいたします」
「そっか〜。じゃ、お願い」
「はい。朝食の準備もできております」
「毎朝ありがとうね」
執事がイスを引く。
「いいのに。ありがと」
御坊ちゃまが腰を下ろすのと同時にイスをいい位置に押す。食事用エプロンを着ける。
「本日の朝食。北海道の最高級小麦を使用したしっとりと香ばしいパンに
青森県から取り寄せた最高級のリンゴを贅沢に使ったリンゴジャム
長野県から取り寄せた最高級のブルーベリーを使用したブルーベリージャム
そしてさらに栃木県から取り寄せた最高級のイチゴを使用したイチゴジャム
そしてこれまた山梨県から取り寄せた最高級のモモを使用したモモのジャムを
四方に塗らせていただきました」
?
「そんな高級なのいいよ。父さんにも言ったけど、普通のものも食べないとダメだと思うんだよね」
「続いて、お紅茶になります。イギリス上流階級にて嗜まれているブランドものの茶葉を使用しております」
御坊ちゃまがマグカップに顔を近づける。
「んん〜。いい香り」
「ありがとうございます。お手数ですがお砂糖はご自分でお好きな量をお入れください。
あ、ミルクが必要でしたらお申し付けください」
「うん。ありがと。いただきます」
執事が軽く頭を下げる。ガリッ。御坊ちゃまが食パンを齧る。
「んん!美味しい!さすが良いリンゴを使ってるだけあって
リンゴ本来の素材の味も生かして、甘さもいい感じ」
御坊ちゃま、それは市販の150g246円の極一般的なジャムです。
御坊ちゃまは続いて紅茶を飲む。鼻から息を吸い込み、鼻から吐き出す。
「んん。この鼻から抜ける芳醇な香り。落ち着く、けど特徴的で」
御坊ちゃま、それも市販の20袋451円のこれまた極一般的な紅茶です。
特徴的な匂いなのはアールグレイだからです。
「ありがとうございます」
この涼しい顔をしながら嘘をつく彼は鷺崎(さぎさき)幸(コウ)、21歳。
両目の下の涙ぼくろがセクシーな印象を受けるイケメンだ。
長い金髪をポニーテールにし、執事の服のYシャツを3つもボタンを開けている。
ピアスも両耳の耳たぶに1つずつ、軟骨に1つずつしている。いささか執事っぽくなさすぎる執事である。
「このパン自体も美味しいね!さすが北海道の小麦」
たしかに小麦は北海道産だがパン自体は市販の214円のものだ。
この騙されながらも幸せそうな彼は鴨条院(おうじょういん)司。16歳。
高級菓子「まる鴨」の創業者、名家、鴨条院(おうじょういん)家の1人息子。
司が「いずれ僕も菓子制作に携わるなら高級品だけじゃなくて
普通の値段の普通のものも食べておきたい!だから一人暮らしする!」というわがままを聞き
一人暮らしは心配なので執事の幸も一緒に住まわせている。
しかし、息子のわがままに庭付き一軒家をポンッっと一括で購入するあたり
とんでもない富豪でとんでもない親バカだということだろう。
今年から晴れて高校生。入学先は白樺ノ森学院。生徒のほとんだがお金持ちというザ お金持ち高校である。
「本日は入学式のみと聞いております。クラス分けの発表とホームルームで午前中で終了だそうです」
「ん。わかった。幸くんも食べればいいのに。昔みたいに」
「いえ。私は後ほどいただきます」
そう、司と幸は小さい頃からの仲である。
まだ司が幼稚園に入る前からよく一緒に遊んでいた。ほぼ兄弟である。
「ご馳走様でした」
「ありがとうございました」
幸は食器類を食洗機に入れる。幸はダイニングテーブルに小さめのスタンドミラーを持ってきて置く。
ヘアスプレーやワックス、櫛などを持ってくる。
「では始めます」
手術かな?幸は手慣れた手つきで司の髪をいじる。
「どうでしょう」
司の頭の上に髪で出来たお城が。
「どうって。すごいけど」
「今若者の間で流行ってるらしいですよ」
激動の嘘。
「そうなの?てか幸くんも若者でしょ」
「特に2次元好きの方の界隈では相当話題になるはずです」
司がソロでキャンプに行くとは思えない。
「てか、この髪どっから持ってきたの?」
「そこは聞きっこなしですよ」
今度はふざけずにしっかりとセットをする幸。
「御坊ちゃまは髪をブリーチしたことも染めたこともないのですごく綺麗な髪をしているので
本来はワックスやスプレーなどしなくても良いんですが」
そもそも幸がふざけるためにワックスやヘアスプレーをしたくせに。
「本日は御坊ちゃまの記念すべき入学式なので。お父様お母様もお越しになられますしね」
さすがは幸。高校生の頃、毎日髪型をセットしていただけの腕はある。
綺麗な黒髪の綺麗な御坊ちゃまカットの髪型が
ふわっと空気を含み、チャラくはないほどの遊びがあるオシャレな髪型となった。
「おぉ〜ありがと」
「いえ。では学校へ向かいましょうか」
「うん!」
玄関出たところでお待ちくださいと言われ待っていると、ガレージのほうから
ドルルン!ドルルン!ドッドッドッドッっというけたたましい音が聞こえてくる。
そして目の前に現れた。大型バイクに跨ったヘルメットから金髪のポニーテールが出ている幸。
親指で後ろに乗れ、と言う。司はヘルメットを手に取り、幸に近づいて
「せっかくセットしてもらった髪型台無しになるよ?」
「あ…」
どうやら幸も考えていなかったらしい。
「あれです。そのヘルメットは最新式のもので髪型が崩れないんですよ」
苦しい嘘。
「あ、そうなんだ!」
危険なほど騙されやすい司。司はヘルメットを被り、後ろへ乗る。幸の腰にしっかりと腕を回し掴まる。
「ないとは思いますけど、渋滞とかしてたらバイクのほうが抜けられるので」
「なるほどね」
幸はバイクが好きで小さい頃からいつかハーリー・デイビッドサンに乗りたいと思っており
18歳で大型二輪の免許を取ったとき、高校を卒業したら正式に司の執事になるということで
司のお父様からハーリー・デイビッドサンを買ってもらったのだ。
そのバイクのエンジン音を轟かせながら学校へ向かう。
白樺ノ森学院の門の前にはズラッっと高級車やリムジンなどが並び
その車の扉から制服を着た1年生たちが降りてくる。
そのお金持ち雰囲気をぶち壊すように司と幸の乗ったバイクが通過する。
お金持ちだらけだからといって全員が全員高級車などで来るわけではない。
自転車で来る生徒もいる。その生徒たちのための駐輪場付近に停まる。
まずは司が降り、幸が降りる。幸がヘルメットを取る。綺麗な金髪が靡き
少しクールでセクシーな涙ぼくろのある綺麗な顔がお目見え。女子生徒は釘付け。
幸はヘルメットをシートに置く。司がヘルメットを取る。髪型は爆発。まるでウニのよう。
幸に釘付けだった女子たちが笑う。男子も笑う。
「プッ…」
幸も思わず目を逸らし吹き出す。司が「?」な顔をしている。
すでに司のご両親も到着しており、司の髪型を見るなり、2人とも目を逸らして吹き出していた。
「ど…どうします…?このまま記念写真撮ります?」
幸はプルプルと笑いを堪えながらご両親に聞く。
「あ…あぁ…1枚くらいはありかもな」
「そ…そうね…。司…いらっしゃい」
ご両親もプルプルと笑いを堪えながら司を呼んだ。
「白樺ノ森学院 入学式」
と書かれた立て看板の側でキッチリ決めたご両親とウニヘアーの司の写真を撮った。
「幸くんも…こ…この息子と撮りな?撮ってあげるから」
と言われお言葉に甘えて、幸は自分のスマホをお父様に渡して、司の隣に行って写真を撮ってもらった。
その後、幸がしっかりとセットし直して、家族3人でのしっかりとした写真も撮った。
「では私は一旦家に戻ります。時間前までには必ず正門にいますので。
あ、それとも今日はご実家のほうに行かれますか?」
「あぁ、そうだな。今夜は私たちの家でと思っているから
一旦司を迎えに来てもらって私たちの家でというのでお願いできるかな?」
「かしこまりました。では、いってらっしゃいませ」
幸が軽く頭を下げる。司とご両親は踵を返し、校舎ほうへ歩く。
幸が頭を上げ、ポケットからスマホを取り出す。司とのLIMEのトーク画面に行き
「司、入学おめでとう」
と打ち込み、送信ボタンをタップした。カメラロールを開いて、先程撮った写真を見る。
「フッ」
思わず笑ってしまい、左手の拳の親指側を口元にあてる。
そのクシャッっとした笑顔にまた女子生徒は視線が釘付けだった。
スマホをポケットにしまい、司のヘルメットを後ろのシートの背もたれに入れ固定する。
自分のヘルメットを被り、慣れた仕草でキーを入れ、キックでエンジンをかける。
ドルルン!ドッドッドッドッ。スタンドを外し、アクセスを吹かす。愛車と共に家へと戻った。
玄関の鍵を開け、家へ入る。靴を脱ぎ、リビングへ。
ジャケットを脱ぎ、ジャケット掛けにかける。Yシャツも脱ぎ、ジャケット掛けに。
パンツも脱ぎ、慣れた手つきで折り目に沿ってピチッっと2つ折りにし
ジャケット掛けに掛ける。ぐぅ〜…。お腹が鳴る。幸は下着のパンツ一丁でキッチンへ行く。
朝、司に出した4枚切りのパンを1枚取り出し、バターを塗って、トースターへ入れてスイッチオン。
その間に冷蔵庫からオレンジジュースを取り出して、グラスに注いで飲み干す。
「っ…はぁ〜…うっま」
もう1杯注いでリビングのソファー前のローテーブルにグラスを置いてソファーに寝転がる。
テレビのリモコンでテレビをつける。
あくびが出る。これが本来の幸の姿である。スマホを取り出し、時計のアプリを開く。
「あぁ〜…入学式が?40分くらい?意外と長いんよなぁ〜。
で?ホームルームがあって?かな?。1時間半くらいでいいか?」
9時からの入学式から1時間半、10時半にアラームを設定する。
ピーピーピー。トーストの香ばしい香りと共にトースターができたよーと合図する。
「はいはいはい」
下着のパンツ一丁で飛んでいく。トースターを開けるとトーストの香ばしい香りが一層濃くなる。
イチゴジャムの瓶の蓋をポコンッっと開けてトーストに塗る。お皿など使わずに齧り付く。
「ん。うまっ。あぁ〜高校生のとき思い出すわぁ〜。
てかこのジャムでも充分よな。高いジャムってなにが違うん?」
ガリッっと齧るとパンの屑が溢れ落ちる。しかし執事にも執事がいる。
ゴミを検知し自動で働くお掃除ロボット「Limbo」である。
食べながらソファーへ行く幸の後に落ちたパンの屑を掃除いて歩いている。
パンを左手にスマホで検索する。Hoogleの検索欄に「ジャム 最高級」と入れて検索をかける。
「んー…864円…1516円、あぁ高いね。お!3千円越え!って3本セットか。
お!5774円!…や…野菜ジャム?あぁ、これは除外。たぶん製法が難しいんだろ。その…技術料だな。
こう見るとー…高いジャムってないんだなぁ〜」
幸のは元々、極々一般的な家庭で育ったが、司の執事になってから鴨条院(おうじょういん)家から毎月
普通の会社員より多い額のお給料をいただくようになってから少しだけ金銭感覚がバグった。
「ま、1瓶千円でも充分高いけどね」
金銭感覚は大丈夫なようだ。幸はベランダへのスライドガラスをスライドさせ、下着のパンツ一丁で庭に出る。
箱から1本出し、ZIPPOライターで火をつける。吸い込む。葉が燃え、灰になる。
「ふぅ〜…」
煙を吐き出す。煙が空へ消えていく。
「あぁ〜…このまま昼過ぎまで寝てぇなぁ〜」
一方、司は体育館へ行き、イスに座り、名前を呼ばれていた。
「鴨条院(おうじょういん)司」
「はい!」
「鴨条院(おうじょういん)ってあの?」
「まる鴨の?」
「だろうな。マジか。ヤモリ行くと思ってた」
「わかるわかる」
生徒が言っている「ヤモリ」とは家守神(ヤモリガミ)学院のことだ。
家守神学院は白樺ノ森学院と並び、お金持ちが行く高校である。
お金持ちが行く高校は家守神学院と白樺ノ森学院の2トップと言われていたりする。
ではなぜ生徒たちが司は家守神学院に行くと思ってたと言ったかというと
家守神学院は老舗旅館や老舗和菓子店、日本の昔からある伝統などの老舗と付く良いお家柄の子が通う高校。
一方、白樺ノ森学院はIT社長の子ども、弁護士の子ども偉い警察の子どもなど
お家柄が良いわけではないがお金持ちの子が通う高校。
簡単に言えば、家守神学院は和、白樺ノ森学院は洋、なのである。
組ごとに名前を呼ばれ、入学式が終了。担任の後を着いていき、教室へ。司は3組のようだ。
「えぇ〜、改めまして皆さんご入学おめでとうございます。
3組担当になりました、雀永(じゃくなが)です。よろしくお願いします」
拍手が起こる。
「えぇ〜、初日ということで、軽く自己紹介をしていただきたいと思います」
ということで自己紹介をする流れとなった。
「鴨条院(おうじょういん)司です。特に嫌いのこともないので
おすすめされれば見たり聴いたりやったりすると思うので皆さん仲良くしてください。よろしくお願いします」
「狐園寺(こうえんじ) 美音(みお)です。私もー…特に嫌いなものもないので
おすすめしてくれれば…ハマると…思います。皆さんよろしくお願いします」
「宝孔雀(ホウクジャク) 光(ヒカリ)です。えぇ〜私は…よくMyPipeとか見ます。
音楽聴くのも好きです。よろしくお願いします」
「法鹿(ほうじか) 助(たすけ)です!ドルオタです!好きな女優さんは海風(うみかぜ) 波歌(なみか)さんです!
別にアイドルとかしか聴かないとか好きじゃないとかじゃないので
皆さん仲良くしてください!よろしくお願いします!」
「遊雉(ゆうち) 遊(ゆう)です!とりあえず楽しいことが好きです!
ボードゲームとか、ふつーにゲームとか。あと体動かすのも好きです!
オレがいるからにはうちのクラスを日本1楽しいクラスにしたいと思ってます!よろしく!」
「あっ…ちょっと…。(ゴクン)はい。栗鼠喰(りすぐい) 栗夢(クリム)です。
食べ物が好きで食べるのも好きです。
一番は〜…決められないけど、シンプルにシンプルなショートケーキ好きです。
美味しいお店たくさん知っているのでよかったら行きましょう。よろしくお願いします」
自己紹介が終わった。
「このメンバーで1年間は過ごしていきます。極力、極力仲良く、楽しいクラスにしていきましょう。
今日はこれで最後になりますが解散前に皆さんで写真を撮りたい思います」
カメラマンの人が来てくれてイスを並べて全員での写真を撮った。
机やイスを元に戻し、その日はそれにて終了。
正門のほうからバイクのけたたましいエンジン音が聞こえてきた。
スマホのアラームが鳴り響く。
「はいっ!」
はっ!っと起きる。タバコを吸い終わって、ソファーでテレビを見ながら寝落ちしていたのだ。
解いた長い髪を鼻の下に持ってきて匂いを嗅ぐ。
「ちょっとタバコ臭いか?」
洗い流さないトリートメントをつけ、匂いを誤魔化す。
テレビを見ながら執事の服に着替え、長い髪をポニーテールにする。
先程ソファーで下着のパンツ一丁で寝ていた人と同一人物とは思えない
しっかり…ちょっとチャラい執事の出来上がり。テレビを消して、スマホを持って家を出る。
ガレージに行き、ヘルメットを被り、バイクに跨り、キーを差し回す。
キックでエンジンをかける。ドルルン!ドッドッドッドッ。
肩と腕をブラブラさせてから、ハンドルに手を置き、アクセルを吹かし、高校へ向かった。
高校の駐輪場付近にバイクを停める。エンジンを切り、ヘルメットを脱ぎ、バイクから降りる。
「入学式って終わりました?」
「え。あぁ、入学式は終わったはずです」
「そっか。警備員さんはここの警備されて長いんですか?」
「はい。えぇ〜、まだ係とか決めていないので、あ、ちなみに係決めは明日しようと思います。
なので今日は私が。起立!」
生徒が立つ。
「礼」
生徒が礼をする。
「明日からよろしくお願いします!解散!」
教室内がザワザワし始める。親にLIMEを飛ばす生徒、電話をする生徒、窓の外を見て
「見て見て。またあのイケメン来てる」
「ほんとだ!警備員さんと話してる」
と話をする生徒。司もスマホを取り出す。画面をつけると
「司、入学おめでとう」
と執事としてではない兄としての幸からのLIMEが来ており、嬉しくて思わず笑顔になる。
「なにニヤけてんのよ」
狐園寺(こうえんじ)美音(みお)が話しかけてきた。
「おぉ、美音。同じクラスだね」
「うん。…まあ!嬉しくもなんともないけどね!?」
この絵に描いたようなツンデレ娘。狐園寺(こうえんじ)美音(みお)。
全国的に展開する旅館「狐福(きつねぶく)」の創業者、狐園寺(こうえんじ)家の1人娘。
司とは幼稚園から一緒の幼馴染…?腐れ縁…?である。
「で?なににニヤけてたのよ」
「ん?幸くんからのお祝いメッセージ。
執事としての幸くんじゃなくてお兄ちゃんとしての幸くんから」
「う…嘘ね」
「嘘じゃないよ。ほら」
司は美音にスマホ画面を見せる。
「…いや、名前を「幸くん」に変えてるだけで、誰か女の子からのメッセージとかなんでしょ!どうせ!」
非常に疑り深い、非常に面倒くs
「は?」
あ、いえ、あの、非常に慎重な性格の持ち主である。
「ほら。幸くんとのこれまでのやり取り」
司が笑顔でスクロールして見せる。
司「幸くん、イチゴって英語でストロベリーだよね?」
幸「そう言う圏もありますけどIchigoという英語圏もあるそうですよ」
司「そうなんだ!」
司「True Kingって知ってる?」
幸「知ってますよ。MyPipeで活動してる音楽グループですよね」
司「そうそう。幸くんの友達にメンバーの人いないかなーって思って」
幸「いないというよりあの人たち本当に実在しないんですよ。
本当にインターネット上で生まれ、インターネット上で暮らす新しい生命体の実験らしいです」
司「そうなの!?さすが幸くん」
「…」
死んだ目をしながら会話を読む美音。
「ね?ちゃんと幸くんとのLIMEでしょ」
「あぁ、そうね。こんな不毛な会話はあんたたち以外しないもんね」
美音も認めざるを得なかった。美音と一緒に正門へ歩く司。
「あ、幸くーん!」
手を振る司。お辞儀をする幸。
「あ、狐園寺様。おひさしぶりで」
「ひさしぶり。って言っても高校の説明会以来でしょ?そんなひさしぶりでもないよ」
「たしかに」
「あ、そういえば帆歌(ほか)すぐそこにいると思うけど、会ってく?」
と視線を幸のほうに向けるとついさっきまでいた幸、司、バイクが消えていた。
まさに風のように去っていった。
「うっそぉ〜…。うわっ…排気ガスクサッ…」
鼻をつまみながら手でかき分けながら歩く。
「美音様。お疲れ様です」
高級なワゴン車の後ろのドアを開ける女性。
「ありがと、帆歌(ほか)」
そう、彼女は美音の執事の猫ノ宮 帆歌(ほか)。
司と幸と同様、帆歌(ほか)も美音と小さい頃から一緒で美音からしたらお姉ちゃんである。
「そうだ。さっき鷺崎くんと会ったよ。帆歌(ほか)いるよって話し終える前に消えたけど」
「あぁ、さっきスピード違反では?って思うほどぶっ飛ばしてったバイクがいたんですけど
あれ幸くんだったのか。まったく照れ屋なんだから」
クスッっと笑う帆歌(ほか)。
「そんなわけないでしょ。そんなスピード違反並みのバイクなんて
そう簡単に出会えるわけない。大嘘つきね。さすがは帆歌(ほか)。
本当にありそうな嘘をつかせたら右に出る者はいないわ」
事実である。
「いえ。嘘ではなくて」
「早く帰ろ。今日は帆歌(ほか)の好きな料理も出るよ。あ、今日波歌(なみか)ちゃん来る?」
「じゃ、車出しますね。動きます。さあ〜どうでしょう。
姉はー…まあ。美音様のご入学式ですからね。来るんじゃないでしょうか」
「そっかー。楽しみだなぁ〜」
美音は帆歌(ほか)の運転する車で家に帰っていった。
ドルルン!ドルルン!エンジン音を響かせ、風を切って家に帰った司と幸。
「どうしたの?どうせなら猫ノ宮さんに会えばよかったのに」
「いや。いいんです」
幸は帆歌(ほか)の顔を思い浮かべる。
「なんかあのなにもかも見透かしたような笑顔。苦手なんだよなぁ〜」
幸と帆歌(ほか)は小学生からの同級生である。同じ小学校に通い、同じ中学に入学し
同じ高校を卒業した。大学も同じだったが幸は中退し、帆歌(ほか)は現役の大学生である。
幸はスマホを取り出し、画面をつける。
帆歌「照れ屋なんだから、もう」
ブンッっと画面から目を逸らす幸。その通知は無視し、その下の
司のお父様「幸くん。今日19時からうちで夜ご飯だからよろしくね」
という通知をタップし返信する。
「ねえ。時間まで寝ていい?」
「はい。でもお昼ご飯はどうします?」
「あぁ、そうか。んん〜いいや。幸くんお腹減ったら食べて?」
「かしこまりました。では18時、6時頃にお起こししますね」
「うん。お願い」
司は部屋に戻った。幸は下着のパンツ以外すべて服を脱ぎソファーに寝転がった。
スマホのアラームを18時前にかける。テレビを眺めたり、タバコを吸いにベランダに出たり
お腹が空いてカップ麺を食べたりしているとうたた寝してしまい
スマホのアラームで目覚める。バッっと飛び起き、司の部屋へ向かう。コンコンコン。
「御坊ちゃま。お時間です」
「マジで?」
ガチャ。
「「あ」」
2人とも姿を見て呟く。司も幸も下着のパンツ一丁だった。
「御坊ちゃま。風邪ひきますよ?」
「それを言ったら幸くんだって」
「私は風邪をひかないDNAの持ち主なんです」
大嘘である。
「スゴ!そのDNA人類全員持ってればいいのにね」
眩しいほどの純心さである。
「では着替えて向かいましょうか」
「だね」
2人とも着替えてバイクに乗って鴨条院家へ向かった。
鴨条院家には親戚などが集まりちょっとしたパーティーだった。それは狐園寺家も同じである。
これはこんな桁違いのお金持ち、鴨条院家の騙されやすい御坊ちゃま司と嘘つき執事の幸
狐園寺家の疑り深いお嬢様、美音と本当のことしか言わない執事の帆歌を中心とした
クスッっと笑えるお金持ちコメディー。
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