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翌日、教室に入った瞬間、空気が明らかに違った。
みんなの視線が一斉に俺に向く。
「おはよー元貴!」
明るく声をかけてきたのはクラスの女子グループ。
けど、その笑顔の裏には
好奇心と面白がりが透けて見える。
「昨日の帰り、若井と一緒だったよね?
すっごい近かったって聞いたけど~」
「ねぇねぇ、やっぱり付き合ってるんでしょ?」
「……っ!」
机の端をぎゅっと掴む。
俺は否定したいのに、声が出ない。
昨日の若井の言葉――
「本当なんだからいいじゃん」
――が、頭から離れなかった。
「おい」
不意に背後から低い声が響く。
振り向くと、若井が立っていた。
鋭い目つきでクラス全体を一瞥し
俺の隣にどかっと座る。
「元貴、こっち来いよ」
当然のように手首を掴んで立たせる。
ざわめく教室を背に、俺は半ば
引きずられるように廊下へ連れ出された。
「お前……! なんで堂々とするんだよ!」
「だって本当のことだし」
「ちがっ……!」
心臓がバクバクする。
目の前の若井は、全然気にしてないどころか
楽しんでるように見える。
「なぁ元貴」
「……な、何」
「俺といるの、イヤ?」
「……っ」
その問いかけに、答えられない。
イヤじゃない。むしろ……。
だけど、みんなの視線や噂が怖くて、口が動かない。
そんな俺を見て、若井はふっと笑った。
「ほら、答えられない。ならそれで十分だろ」
「……!」
放課後、ギター部の練習を終えて、
部室から出ようとしたら、
廊下の端にまたざわざわと人だかりができていた。
「ねぇ、あれまた若井と元貴だよ」
「マジで堂々としてるよな」
「もう隠してないんじゃない?」
……俺たち、完全に学校の“ネタ”になってる。
若井は俺の手を当たり前みたいに繋いで歩いていた。
抵抗したいのに、強く握られて振りほどけない。
「……やめろよ……」
「無理。離したくない」
「っ……!」
視線に晒されて、顔が熱くなる。
だけど――その温かい手を、
心のどこかで求めている自分もいて。
スマホに涼ちゃんからメッセージが来た。
『元貴、大丈夫? 学校、大変そうだったね』
『噂はすぐ広まる。
でも……君が本当に困ってるなら、僕が助け舟を出すよ』
画面を見つめる。
……俺は、どうしたいんだろう。
若井といるのは苦しくて恥ずかしい。
でも、離れたくない。
ベッドに倒れ込みながら、
心臓の音がうるさくてこの夜は眠れなかった。