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私にとっての現実とは、「今」しかないのだ! そう自分に言い聞かせてみても、やはり「何かが違う」と思ってしまう。それは、私の中に生まれた「変化」に対する抵抗だろうか。それとも、私の中に宿った「新しい命」のせいだろうか。あるいは、私が「大人になった」ということかもしれない。いずれにせよ、自分が少しずつ変わっていくことが、少し怖いと思うことがある。しかし、同時にワクワクしている自分も確かにいて、それがまた少し怖かったりするのだ。

私の人生における「今」とは、一体いつのことを指しているのか。そもそも「人生」なんて言葉を使う必要はあるのだろうか。「今」以外の全ての時間は、私にとっては等しく無意味なものなのか。だとしたら、「今」だけが特別な意味を持つことになる。

例えば、今日は7月31日。つまり、あと30分で8月1日になる。もし仮に、今日の日付が変わる瞬間まで生きることができたら、私はきっと幸せだと思うだろう。そして、明日になれば、昨日の分も合わせて2倍幸せになれるはずだ。明後日は3倍に、来週は4倍……一年後は、一体どれだけの幸福を手にしているのか想像できないほどだ。しかし、それは同時に、私が生き続ける限り、ずっと続く幸せでもあるのだ。それなのに、なぜだろうか。ふとした時に感じる虚しさの正体は何なのか。考えれば考える程分からなくなる。こんなことを考えるのは、人生に疲れてしまったからかもしれない。そう思った私は、いつものように自殺を試みた。

「痛っ!」

ナイフを持った右手首からは血が流れ出していた。深く切ってしまったらしい。しかし、不思議と痛みを感じなかった。まるで麻酔をかけられているようだ。意識はあるはずなのだけれど、何も考えられない状態が続いている。このままだと出血多量で死んでしまうのではないだろうか。それでも構わないような気がした。なぜなら、今死ねない理由がないからだ。死にたいと思って生きている人間なんて、いないのだから。ただ漠然と生きていただけだ。それならいっそ死んでしまった方が楽なのかもしれないと思った。

「どうして死ねると思っているんですか?」

背後から声が聞こえてきた。振り返るとそこには、見慣れない少女がいた。

「こんにちわ!」

元気よく挨拶してきた彼女に、俺は戸惑いながらも応えることにした。

「あぁ……こんにちわ……」

「わたしの名前は、アマリリス!よろしくね!」

そう言って握手を求められた。

「えっと……俺は、スノウだよ。よろしく」

差し出された手を握り返すと、彼女はとても嬉しそうな顔をして言った。

「あのさ、ちょっと相談があるんだけど聞いてもらってもいい?」

断る理由もなかったので承諾すると、彼女は語り始めた。

「実は、お姉ちゃんのことなんだけどね……」

「お姉さんがいるのか?」

「うん、血は繋がっていないけどね」

どこか遠くを見るような目をしていた。きっと家族のことを思い出しているのだろう。

「それで、その女はどうなった?」

「うん……」

「まさか、死んだのか!?」

「う~ん……」

「なんだ!はっきりしろ!」

「だからね……」

「あぁ……」

「実は……」

「早く言えよ!!」

「あのねぇ……」

「ああ!!くそッ!!!」

「……」

「……」

「ふぅ~」

「なんだったんだよ!俺の人生!」

「お先真っ暗だよ!」

「うわあああん!!」

俺は思わず机の上に突っ伏して泣き叫んでいた。

こんなはずじゃなかった。

もっと楽しい人生を送るはずだった。

そう思ってからどのくらい経っただろうか。

ふと我に帰ると部屋の中は暗くなっていた。

窓から差し込む月明かりだけが部屋に差し込んでいる。

「……ん?」

なんかおかしい。

なぜ窓の外は暗いのか。

そもそも今は昼なのか夜なのか。

あれ?今っていつなんだっけ? 俺は何をしていたんだろう?

「あぁ……」

思い出した。

そうだ。俺は就職に失敗したのだ。

就職活動に失敗してフリーターになった。

それからというもの毎日が退屈で仕方がない。

何もかも嫌になって引きこもり生活を始めて早数ヶ月。

その間、ネットサーフィンをして過ごしていた。

そろそろ働かないとまずいなと思いつつも外に出るのは億劫だしやる気が起きない。

親にも迷惑を掛けていると思うと申し訳ないがどうしようもない。

せめて何か趣味でも見つかればいいのだが、それも見つからない。

結局こうして部屋に閉じ籠っているしかないのだ。

このまま一生を終えるなんてごめんだけどな。

そんなことを考えながらぼーっとしていると突然スマホが鳴り響いた。

画面を見ると見知らぬ番号からの着信だ。

一瞬出るかどうか悩んだがとりあえず出てみることにする。

「はいもしもし」

『こんばんは』

電話口から聞こえてきた声は若い女性の声だった。

しかし聞き覚えはない。

セールスか何かかなと思っていると相手はそのまま話を続ける。

『私はあなたの願いを叶えるためにやってきました。あなたは人生をやり直したいと思っていますね?』

「えぇ!?」

予想外の言葉につい驚きの声を上げてしまった。

まさか本当に神様とかそういう類の存在なのではなかろうか。

もしそうならぜひお願いしたいところだが、それは叶わぬ夢だった。

なぜなら、彼の脳はすでに死んでいるからだ。

それでも彼は必死に生きようとしていた。

心臓が動かずとも生きる方法はいくらでもあったが、彼はあえてそれを選ばなかった。

自分の肉体を改造してまで延命することは無意味だし、そもそも不可能だとわかっていたからかもしれない。

しかし、だからといって死ぬわけにもいかない。

彼はまだ生きたかった。

たとえ死んでも、また生まれ変わることができると信じて。

しかし、残念ながらその願いは叶わなかったようだ。

彼は死にたかったわけではない。

ただ単に生きていたくないだけだ。

つまりはそういうことだ。

彼は死んだ。………………

「おはようございます」

聞き慣れた声とともに、俺は目を覚ました。

目を開けるとそこにはいつものように、見知った顔があった。

俺の目の前にいる女の名前は『クロエ』。

年齢は20代前半くらいだろうか。見た目では判断できない。服装からしてどこかの学生さんかな?

「あぁーっと! またまたファールボール!」

「えぇ!?」

「これで3回目ですよ! しっかり避けてくださいね!」

「すみません……」

「はぁ~」

僕は思わず溜息をつく。

今年もこの時期が来たのか。

そう、プロ野球のシーズンが始まったのだ。

去年から続く連敗街道に、ファン離れが加速していると言われているが、それでも球場には多くの観客がいる。

それだけ野球が好きということなんだろうけど……。

「すみません、ちょっとトイレに行ってきます」

「あっ、はい」

僕はグラウンドへと駆け出した。

試合はすでに終盤に差し掛かっている。

相手チームのピッチャーがセットポジションに入る前に、バッターボックスに入った打者はバットを引いた。

『ストライクスリー!』

審判の声とともに、ベンチからは落胆のため息が漏れる。

しかし、次の瞬間――。

「よっしゃああああ!!!!」

ベンチにいた選手達が一斉に立ち上がりガッツポーズをする。

そして、そのまま飛び跳ねるように喜びながら、マウンドに集まった。

「やったぜ、兄貴!」

「おうよ!」

色鮮やかな記憶… モノクロームの未来…。

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