テラーノベル
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太中の太宰と中太の中也が出会った話です。何も考えずに読んでください。
ヨコハマの夜は、いつだって湿り気を帯びている。 バー・ルパンのカウンター。そこには、全く同じ顔をした二人の男が座っていた。
片や、中也を「支配し、翻弄し、その全てを暴くこと」に悦びを感じる太中の太宰。 片や、中也に「振り回され、蹂躙され、その熱に焼かれること」に安らぎを見出す中太の太宰。
「……ねぇ、信じられないよ。君はあの中也に、自分の主導権を明け渡しているのかい?」 先に口を開いたのは、太中の太宰だった。彼は嫌悪感すら滲ませ、ウイスキーの氷を揺らす。
「明け渡す、なんて人聞きの悪い。私はただ、彼の『重力』に身を任せているだけさ」 中太の太宰は、どこか恍惚とした表情で笑った。 「あのアホで直情的な男に、徹底的に組み敷かれる。暴力的なまでの生命力に、この空虚な身体を塗り潰されるのは……悪くない。君だって、彼の下腹部を蹴り上げた時の、あの絶望に満ちた顔は好きだろう?」
「それは同意するけれど、その後の展開が違うね」 太中の太宰は、冷笑を浮かべた。 「私はね、彼が泣き叫ぼうが、嫌がろうが、関係ない。中也の意思なんてものは、私の策略の中に組み込まれた一つのパーツに過ぎないんだ。彼を壊さない程度に、しかし再起不能なほどに、私の刻印刻印を刻みつける。あの小さな身体が、恐怖と快楽で震える様を眺めるのが、最高なんだよ」
「おや、独裁的な趣味だね。私はもっと……そう、蹂躙されたいかな」 中太の太宰が、自身の首筋をなぞる。そこには、夢想の中の中也がつけたであろう、烈しい痣の記憶がある。 「彼に無理矢理こじ開けられ、肺の中の空気を全部奪われるような口付けをされる。私という人間が、彼という熱量に溶かされて、消えてしまいそうになる瞬間……。あの時だけは、死にたいという願望すら忘れてしまえるんだ」
「……理解し難いね。私は彼を『所有』したい。君は彼に『消費』されたいというわけか」
二人の太宰は、互いに鏡を見るような、あるいは酷く汚物を見るような視線を交わした。
「でも、一つだけ共通点があるだろう?」 中太の太宰が、グラスを掲げる。 「相手が『あの中也』でなければ、こんなに狂えない」
「……ふん。それだけは、認めざるを得ないね」 太中の太宰も、不機嫌そうにグラスを合わせた。
「さて、そろそろ帰るとするよ。私の犬が、家で待ちくたびれて、牙を剥き出しにしている頃だ」 「私もだよ。私の主人が、今夜は一段と荒っぽく私を『躾けて』くれる予定なんだ」
二人の男は、全く同じ背中を見せて店を出る。 一人は支配の鎖を手に。一人は服従の首輪を隠して。
ヨコハマの夜に、二つの歪な愛の形が溶けて消えていった。
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