コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
重魚雷4本が被弾したたかなみの艦内は文字通り地獄だった。艦内の6割が海水に浸かり、天井の破裂した配管や電線から火花が飛び散っていた。そんな艦内の廊下を一人歩く若い自衛官がいた。今年入隊して2ヶ月という新米の自衛官だ。彼は、首から出血する血を片手で抑えながら歩いていた。これを聞いたらおそらく皆、彼は助からないと思うだろう。彼の右胸部に一本の形が歪な鉄筋が刺さっていた。彼は呟いた。
「父さん……母さん……姉ちゃん……。みんなが……俺が自衛官になるって言った事を反対していた……意味が分かったよ……みんな、これを恐れていたんだ……ね……」
彼は、その場に倒れた。地面一面の海水が彼が倒れた衝撃によって舞い上がった。それと同時に、彼の命も天に舞い上がった事だろう。
第4話 日本という名の白虎
米海軍のミサイル駆逐艦カーティス・ウィルバーは、海上で巨大な炎を上げているたかなみを遠くから見ていた。しかし、カーティス・ウィルバーはたかなみを救助しに行ける状況ではなかった。たかなみを攻撃した西統連邦の潜水艦が標的をカーティス・ウィルバーに変えたからだ。カーティス・ウィルバーのCICでは、これまでにない程の緊張に包まれていた。
「対潜戦闘用意!!この命の尊さも知らないクソ野郎をぶちのめせ!!」
緊張に包まれていたCICに響いたのはフランシスの鋭い声だった。
「キャプテン(艦長)!ソナー探知!潜水艦から魚雷発射管開口音!!」
「……来る……ッ!!」
「ソナー探知!!潜水艦、魚雷発射!!魚雷4本来る!!」
「※マスカー投下!!」
カーティス・ウィルバーは、舵をきりマスカーを投下する。※マスカーとは、誘導線魚雷を交わすために海中に投下する魚雷回避用の電磁妨害システムである。
「マスカー投下!魚雷4本回避!」
「こっからは俺たちのターンだ!右舷魚雷発射管より長魚雷発射用意!くそったれを海の底に沈めろ!! 」
「キャプテン!右舷魚雷発射管発射用意完了!!」
「撃て!!」
フランシスの指示で、カーティス・ウィルバーの右舷から一本の長魚雷が投下される。魚雷のスクリューは海中で勢いよく回転し、目標である西統連邦の潜水艦に向かって行く。長魚雷の先にはやがて潜水艦が見えてくる。潜水艦は舵をきり魚雷を回避しようと試みていた。しかし、長魚雷は潜水艦の機関部に着弾する。米海軍の長魚雷が潜水艦の機関部を完全に吹き飛ばし、潜水艦の残骸が海中にばら撒かれる。
「キャプテン!魚雷命中!!」
「まだだ。ソナー室、潜水艦の機関音は聞こえるか!!」
「こちらソナー室!潜水艦の機関音、完全にロスト(消失)!撃沈したと思われる!」
「よし!!航海長、このままTAKANAMIの救助へ向かう!」
その後、カーティス・ウィルバーはたかなみの救助を行った。しかし、救助できたのは乗組員250人中たった45人だけだった。カーティス・ウィルバーが向かった時にはたかなみは完全に沈没しており、近くに浮いていた救命ボートしか拾えなかったのだ。今回の戦闘で、海上自衛隊はさらに護衛艦を1隻失い。戦死した自衛官の数は約300人となった。日本政府は、今回の攻撃から、海上自衛隊の海上警備行動を取り消し陸海空の三統合自衛隊に防衛出動を命じた。西統連邦は日本という名の白虎の尾を完全に踏んでしまったのだ。日本海域には24時間体制で戦闘警備艦隊が配備され、日本政府からは
『日本海域に侵入した西統連邦の軍艦は全て排除せよ』
という命令が下された。
5日の午後3時25分。西統連邦の駆逐艦1隻が日本の領海に侵入した。しかし、その海域の警戒にあたっていた航空自衛隊のE-767早期警戒管制機がすぐに駆逐艦を探知した。警戒管制機は駆逐艦の艦艇種と場所を現場海域からすぐ近くを航行していた海上自衛隊の護衛艦”もがみ”に情報を提供。もがみは早急に航空自衛隊から共有された海域に向かった。情報の通り、そこには西統連邦の国旗を掲げた一隻の駆逐艦が航行していたのだ。本来なら、海上自衛隊は1度警告するのだが、政府の命中である『日本海域に入った西統連邦の軍艦は全て排除せよ』という命令の元、海上自衛隊が先制攻撃を仕掛けた。西統連邦は日本は攻撃出来ない国だと舐めていたのだろう。もがみのミサイル攻撃は駆逐艦の対空防御システムをすり抜け全弾が命中した。そして戦闘が始まってからわずか5分で勝敗が着いた。もがみは、沈んでゆく西統連邦の駆逐艦に見向きもせず、現場海域から姿を消した。この海上自衛隊の攻撃が効いたのか、西統連邦は日本に外交を申し出た。日本政府は断る義理もないと考え外交に応じた。そして─
第1回 日西首脳外交が始まった。
首脳会談は、西統連邦の首都である”ガバル”で行われた。日本の内閣総理大臣である咲馬幸雄総理には、SPではなく陸上自衛隊が護衛に着くこととなった。そして、首脳会談が始まった。
西亜統合連邦国 首脳 リーン・アラン
首脳会談が始まってすぐの事だった。西統連邦の首脳であるリーンは咲馬に握手を求めてきた。咲馬は、一瞬握手を拒んだが日本の礼儀を乱すわけにはとリーンの手を取り握手をした。ここから、首脳会談がスタートとなった。
「お目にかかれて光栄ですぅ!咲馬総理!」
リーンはとても愛想のいい男性に見えた。咲馬に対し何も不快感を与えない話し方で接して来ていたのだ。
「こちらこそ。リーン首相。」
「日本と西亜統合連邦国、初の外交が争いからのものとは残念に思います…本当に…」
「えぇ。それに関しては同感です。日本国としては、貴国がなぜ攻撃してきたのかお教えいただきたい。」
咲馬は、少し圧力を加えるようにリーンに大胆に詰め寄った。そもそも、この外交で日本は根本から仲良くする気などないのだから。
「攻撃?先に攻撃してきたのは日本からでしょう?」
「…!!何を言う…!先に攻撃してきたのは貴国ではないか!我が海上自衛隊の護衛艦みょうこうを沈め、多くの自衛官の命を奪った!忘れたとは言わせぬぞ!」
「…やはり……貴国は嫌いだよ…日本国…」
その時、リーンは隠していた拳銃の銃口を咲馬の目の前に突き出した。咲馬は目を見開き、後ずさりする。
「…何を…!!私を撃ったところで、我が陸上自衛隊はお前らを殲滅するだけだぞ!」
「陸上自衛隊?あぁ、これの事か。」
リーンは、無線機を咲馬の目の前に投げる。咲馬は、無線機の方に目をやる。雑音と共に無線機から声が聞こえてくる。
「こちら首脳護衛部隊!ただいま、謎の部隊から攻撃を受けている!至急、総理護衛に…うわぁぁぁ!!!!! 」
爆発音が聞こえてきた瞬間、無線機からは雑音が聞こえてくる。
「貴様ら……!!」
「ほう?まぁ、お前にもう用はないさ。私も最初から傍から話すつもりなんてないしな。」
「待って…!!」
その瞬間、リーンは引き金を引いた。銃弾が咲馬の頭を貫く。咲馬の頭は椅子から後ろに傾き、血が地面に滴り落ちる。そして咲馬の体からゆっくり力が抜けていくことが分かった。