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「も、勿論、今から言おうと思っていたんだ、ぞ、ゴホンっ! えー、えっと、そうだっ! まずはバアルだったな! バアルは今で言うユーラシア大陸東北部辺りに堕ちたんだ、そこからアジア全体の命を再分配してだな――――」
「ネエ、サンセンチ? アイツ、バアル、ノ、コト、ハナシテルヨ、イイノ?」
「そうね、まだ分かっていないみたいだね♪ もう殺しちゃお――――」
「我が偉大なる兄、ルキフェルがその美しい姿を現したのはインド洋上空であった! それまでのどんな天体よりも美しい輝きと共に降り注いだのは慈愛の光、地を這う全ての命を普く(あまねく)照らす祝福の光だったのである、その身を大気の摩擦で焼かれながらもその逞しき(たくましき)御手(みて)は、生きとし生ける物の救いとなるべく降臨なされたのである、纏った炎は黄金色に煌めきを放ち六対十二枚の翼を負った偉大な神、いや絶対神そのものであった!」 チラリ
コユキと善悪は満足そうに頷いている、少し涙ぐんでもいるようだ、対してスプラタ・マンユの七柱は相変わらずジーっとアスタロトを見つめていた。
アスタロトは小さく嘆息(たんそく)を漏らした後、言葉を続けるのであった。
「勿論、支配者にして帝王たる偉大な兄、魔神王ルキフェルが単体で顕現する事などあり得よう訳もない! その背を追う様に付き従った魔王達は七柱、色鮮やかな陪星(ばいせい)達は惜しみなくその姿を地上の生物達に見せつけ、目にした地の小さき者どもは漏れる事無く彼らの美しさに魅了されたのだ! 憧憬(しょうけい)を込めた瞳に満足すると、七柱の魔王達は思い思いの方角に飛び去って行った、彼らがスプラタ・マンユ、飛び散った魂魄(こんぱく)と呼ばれる所以(ゆえん)である、飛び去った七魔王は彼らが敬愛する魔神王ルキフェルと共に脆弱(ぜいじゃく)なる存在、人類を守る初めての守護神となったのであった! ふぅ、どうかな? こんな感じで?」
アスタロトの問い掛けに揃ってサムズアップで答える七柱、ほっとした表情でアスタロトは言葉を続ける。
「ふぅ~、因(ちな)みにこの時地球の衛星、ルナでは無くてもっと低高度の軌道にあった月、セレーナと言う小天体、太陽を牽引している様に見えた事から一部の生命から信仰されていたんだが、そいつに直撃吸収して落ちて来たのが末っ子のアヴァドンだな、他の兄姉(きょうだい)は上手に避けたんだが何をしているのやら、ははは、アヴァドンの魔力量が他の者より多い理由は単純にこれが原因なんだぞ、このドジのせいで地球の月は一つになってしまったんだな」
アヴァドンは黄金のオーラを小さくして口を尖らせている、多分拗(す)ねているか己の行動を恥じているのだろう。
アスタロトの言葉は続いた。
「だがこれが小さき命にとっては掛け替えの無い幸運だったんだな! それまで二つの月のせいで秒速数百メートルで吹きまくっていた強風が精々数十メートルまで抑えられ、地球の重力を僅か(わずか)ながら強める事が出来たんだぞ! お陰で小さい体でも表を歩ける様になり、逆に巨大過ぎる生物達は重力増加の影響で身を起こす事も出来なくなってしまったんだな、今度は小さな者たちが大きな者を狩る時代が来たと言う訳だ。 最初に我々魔神や魔王達が巨大生物を屠った(ほふった)事を指してティターノ・マキア、小さき者たちが巨獣を狩った時代をギガント・マキアと言うそうだぞ」
先程とは打って変わって胸を張るアヴァドンの後方から『忠節』の徳、グローリアが手を挙げて聞くのであった。
「アスタロト様、それは大体いつ頃の話なんじゃろうか?」
アスタロトは暫し(しばし)考えた後答えた。
「うむ、大体六千六百万年位前だな、それがどうしたんだ?」
「おお、それほど前からアスタロト様は我々人間と、その先祖をお守り頂いていたのですな、この上は私、グローリアの『忠節』はあなた様に――――」
「ん? 我が人間に興味を持ったのはごくごく最近の事だぞ! ルキフェル兄上の真似をしてみたのが数千年前かな? お前ら人間とその祖先を守って来たのはルキフェル兄者、コユキと善悪の根源だぞ!」
グローリアは聞き返すのであった。
「え、でも、さっき言っていたでは無いですか? 毛すら無い小さき哺乳類を守護したって…… 言いましたよね?」
「勿論だ! 守護したぞ~、可愛かったなぁ~、ハダカデバネズミ達……」
「あー……」
懐かしそうに目を細めるアスタロトと、無表情で固まり立ち|竦む《すくむ》アフラ・マズダ達……