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「藤原さん」

彼の低い声はとてもセクシーだ。会社でそう思ったことは一度もなかったのに。コーヒーカップを持ったまま動きを止めてすっと目を遣ると、パチンと視線が絡まった。


「……なに?」

「どうでしたか、セックスの相性」


ぶっ、と飲みかけたコーヒーを吹きそうになり、なんとか踏みとどまる。


「あ、あ、あぁ、せ、セックスね」

「まあ、聞かなくても分かりますけど、一応」

「な、なんでわかるの?」

「そりゃそうでしょ。あんなにイキまくって、よがってるの見たら……」

「ちょっと!! もう、何言ってんの!!」


顔から火がでそうになるくらいの、とんでもない言葉にうろたえる。

でも、それは嘘なんかじゃない。本当のことだ。


「で、どうしますか。サブスク契約」


私は食事の手を止めて、永井くんをすっと見た。


「復讐、ほんとに一緒にしてくれる?」

「いいですよ。できることであれば協力します」

「……じゃあ、よ、よろしくお願いします」

「サブスク契約付き?」

「付き……で」


計画話し合いましょうと、トーストを頬張る永井くん。

なんだか少しだけ嬉しそうに見えるのは気のせいだろうか。


復讐なんて、本当にできるのか心配だったけれど、敏腕な相棒を迎えて、なんとかできそうな気がしてくる。

復讐を成し遂げられるという予感とは何か違う。

淡く、ふわふわとした気持ちが胸の奥にある。

これは、なんだろう。

淫らで、甘くて、執拗に攻められた感覚が、お腹の奥で疼いていた。

「藤原さん」

「ん?」


キウイをごくんと飲み込んで、彼の顔を覗き込む。


「今晩もいいですか? サブスク」

「はぇ!? き、きょうも!?」

「予定ありました?」


予定はない。今晩も抱かれて、体がもつのだろうか。それでもきゅるんと目を潤ませて見つめられると、ダメとは言えない。

なんだこの圧倒的ワンコ感は。

あの強気で冷たい彼はどこへ行きました?


「わ、わかった……」

「よろしくお願いします」


ニコニコと微笑んで、トーストを、口に運ぶ。えっと……これは、誰?

冷たい印象だった永井くん、子どものようにかわいらしい笑顔に小さく息をついた。

 

週が明けて月曜日の朝。

自室の窓を開け、朝日が眩しくて思わず目を細める。

週末は彼に激しく抱かれて、完全に寝不足だ。

体も痛いし、頭は働かないし。夜のサブスク契約はとんでもない破壊力を持っている。


昨日の夕方、逃げるようになんとか帰宅してからは泥のように寝ていた。

二日間、何度も何度も彼に抱かれた。それはとっても気持ちよくて、いままでのセックスとは比べものにならなかった。


復讐計画は今日から始まる。

とりあえずは、彼の言う通りに進めよう。堂々と、背筋を伸ばして。


──それは一昨日、土曜日の朝のこと。

「ええっ!! と、泊まり?」

「まあ、藤原さんが帰るって言うならいいですけど。でもたぶん立てないですよ、あんだけイキまくっ──」

「もうっ!!!! それ以上言わないで!!!」

彼の家でのんびり朝ごはんを食べたあと、帰ろうと身支度をしているとそう呼び止められた。

「と、とにかく一度家に帰るから!! 洗濯物だってあるし、大物も洗いたいし」

「大物?」

「ほら、シーツとか布団カバーとか」


あれこれ話しながら、バタバタとカバンを持ちながら玄関へ向かう。

「おじゃま、しました」

バツが悪そうにそういうと、見送ってくれている彼が腕を組み、壁にもたれながらにやにやと笑っている。

「なによ、なんか面白いの?」

「いえ、別に。じゃあまた夜に。待ってます」


もう顔が熱くて火が出そう。バタバタと何も告げずに玄関を出て、エレベーターホールに向かう。

そして自宅で大物を片付けた夕方。私はまた、永井くんのマンションを訪れていた──


「ふぅ……」


大きく息を吐いて頭を振る。

朝とはまた違った雰囲気にみえる彼の部屋。スッキリと片付いていて温かみのあるファブリック。

なんか、すごく心地よい。


──夕飯、作っておきますね。

私が今から行くと連絡をすると、永井くんからそうメッセージが返ってきた。

料理上手なのは意外だった。

丁寧に作られたであろう肉じゃがに焼き魚、味噌汁に炊き立てのご飯と漬け物がダイニングテーブルに並ぶ。


「どうかしました?」

「いや、ものすごく美味しそうだなと思って」

「そう言われると嬉しいです、食べましょう」


彼に促されてイスに腰掛ける。

蜜音の花が開くとき~復讐のためにイケメン後輩と夜のサブスク契約結びました!?~

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