俺と狩りをしている時、ナオト(『第二形態』になった副作用で身長が百三十センチになってしまった主人公)は申し訳なさそうにモンスターを気絶させていた。
「なあ、ナオト」
「ん? なんだ?」
「お前はどうして獲物を狩る時、少し辛そうな顔をするんだ?」
「え? あー、まあ、俺たちと出会ってしまったせいでこいつらの寿命がゼロになるし、一方的に命を奪うことになるし、それに闘争心がないものの命を奪うのはなんか抵抗あるんだよ。まあ、生きるためには命をいただかないといけないから仕方ないんだけどな」
こいつは本当にあの大会で暴れていた化け物なのだろうか?
いや、違う。こいつは優しくてあったかくて他人の痛みが分かるやつだ。
そんなやつがあの大会で理由なく暴れるわけがない。おそらく何か事情があって……。
「そ、それはまあ……そうだな。だが」
「さぁ、早く家に帰ろう。俺は一応、賞金首だから長時間家にいないのはマズイ」
「あー、そうだったな。よし、じゃあ早く……」
俺が最後まで言い終わる前に火でできた槍のようなものがナオトの心臓を貫いていた。
「な、ナオト!!」
「やった! やったぞ! 賞金首を討ち取ったぞ!」
俺が空を見上げると全身から火を出している存在がいた。
「お前! いったい何者だ! いつからそこにいた!」
「あぁん? そんなのお前がそいつに出会う前からだよ。気づかなかったのか? まあ、それが追跡魔法のいいところだよなー。自分より強いやつには感知できない魔法、それが追跡魔法だ!!」
つ、追跡魔法?
たまに耳にすることはあったが、まさか実際に使ってるやつがいたとはな。
「そうか。お前は俺にその追跡魔法とやらを使って、ここまでやってきたというわけだな」
「その通り! そして俺はお前より先に賞金首を討ち取ることができた! いやあ、楽しみだなー。これから毎日遊んで暮らせるぜー」
ああ、こいつはナオトと出会う前の俺だ。
自分ならできる。楽勝。簡単。
そんなことしか頭にない状態だ。
けど、そんなものはもうすぐお前の頭の中から消え失せるぞ。
「おい、いつまでも笑っていると殺《や》られるぞ」
「はぁ? そんなことあるわけねえだろ。そいつはもう死んでるんだから」
いや、待て。なぜこいつは立っているんだ?
死後硬直か? いや、違う。
死人から命の波動は出ない。
というか、俺が放った炎の槍はどこに行ったんだ?
「まったく、俺が知ってる暗殺者はもう少し静かに確実にターゲットを殺すんだけどなー。どうやらお前はそうじゃないみたいだな」
「な、なぜ……なぜ生きているんだ? お、俺はたしかに炎の槍でお前の心臓を貫いたはずだ。それなのになぜ……なぜお前は生きているんだ!」
ナオトは頬を人差し指でポリポリと掻《か》く。
「え? あー、それはな、俺の心臓は蛇《へび》の神、つまり蛇神《じゃしん》の心臓だからだよ。俺の心臓に攻撃するってことはブラックホールに飛び込むのと同じことだ。あー、知らないかな? ブラックホール」
こ、こいつはさっきから何を言っているんだ?
普通の人間なら、とっくに死んでいるはずだ。
それなのになぜ……なぜこいつは生きているんだ!?
「おーい、聞いてるかー? まあ、いいや。あんまりおいしくなかったみたいだけど、補給はできたからいいって言ってるから」
「ば、化け物め! 今すぐあの世に送ってやる! 俺の特大火球をくらいやがれ!」
技名がない。ということはそんなに強くないってことだな。
「シャドウ」
「な、なんだ?」
「俺がいいって言うまで自分の影の中に隠れておいた方がいいと思うぞ」
「え? あ、ああ、分かった」
俺が自分の影の中に身を潜《ひそ》めた後、ナオトは一瞬でやつの目の前まで移動した。
「火遊びは危ないぞ?」
「ひ、ひいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」
「うるさい」
ナオトはやつのみぞおちに拳《こぶし》を打ち込んだ。
やつが意識を失うと同時にやつの全身から出ている炎も消滅した。
ナオトはやつをゆっくりと地面の上に置いた。
「あんまり強くなかったなー。あっ、もういいぞ」
「あ、ああ」
「こいつ、暗殺者だよな?」
「ま、まあ、一応……」
「ふーん、なんか強盗の方が向いてそうだな。さてと、こいつどうしようか」
「こ、殺すのか?」
「うーん、一応トラウマになるレベルの攻撃をしたからなー」
「じゃ、じゃあ、ここに置いていくのか?」
「うーん、まあ、そうしようかな」
「それは甘いぞ、ナオト。暗殺者は皆《みな》、そこそこ強い。精神的にも肉体的にも。だから、放置しておくといつか必ず復讐しに来る」
「そうか。じゃあ、一生目覚めないように催眠術をかけよう」
さ、催眠術?
「ん? 催眠術?」
「まあ、暗示みたいなものだよ。もっと分かりやすく言うと……洗脳、かな?」
「せ、洗脳」
「そんなに怖くはないよ。だって、こいつは夢の中で一生幸せな人生を送れるんだから」
ナオトはそいつに催眠術をかけると、俺と共にアジトまで戻り始めた。