テラーノベル
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ドォォォォォン!!
背後で凄まじい爆発音が響き、廃校の校舎がゆっくりと膝をつくように崩落していく。
炎の舌が夜空を舐め、10年分の腐敗した秘密を黒煙とともに吐き出していた。
「……っ、ハァ、ハァ……!」
九条刑事が私を抱きかかえたまま、校庭の端まで転がり込む。熱風が頬を焼き、舞い上がる火の粉が視界を遮る。
振り返ると、燃え盛る理科準備室の窓に、父のシルエットが浮かんでいた。
彼は崩れゆく床の上で、もはや塵となった「遺産」を求めて、虚空を掻きむしっている。
そしてその足元には、炎に巻かれながらも、最期まで父の愛を求めて縋り付く愛華の姿があった。
女王も、王も、自ら築いた偽りの城とともに瓦礫に埋もれていく。
「……終わったな、栞さん」
九条が地面に座り込み、血の混じった唾を吐き捨てる。
彼の警察手帳は焼失し、肩書きも名誉も失われた。
けれど、その横顔には、10年ぶりに手に入れた本当の安らぎが宿っていた。
私は、焼けるような喉の痛みを感じながら、空を仰いだ。
東の地平線が白み始め、深い夜を塗り替えていく。
10年間の冬が、今、物理的な熱を持って終わったのだ。
……はずだった。
手の中で、熱を持ったスマートフォンが微かに震える。
画面に浮かび上がったのは、結衣からの、透き通るような悪意を秘めたメッセージ。
【栞。お父さんの隠し場所、もう一つあったの。知りたい?】
私の心拍数が、再び跳ね上がる。
九条には見えないように画面を隠す。
結衣が送ってきたのは、一つの住所と、一通の古い診察記録の画像だった。
「渡邉 誠はね、あなたの喉に暗号を刻むだけじゃ満足しなかった。……彼は『スペア』を作っていたのよ。あなたの体質と波形を受け継ぐ、もう一人の最高傑作を」
画像に写っていたのは、私が生まれる数年前に、父が極秘で手続きを行っていた「特別養子縁組」の書類。
そこには、私の戸籍からは抹消されている、一人の弟の存在が記されていた。
「……な…っ」
声にならない音が漏れる。
結衣が次に送ってきた写真。
そこには、どこかの施設で、無表情に一冊の本を読んでいる少年の姿があった。
その少年は、10年前の私に生き写しで、そしてその喉には、私と同じ「拒絶の火傷」が刻まれていた。
「……どうした、栞さん」
九条が不審げに私を覗き込む。
私は咄嗟にスマホの画面を消し、震える手で首元の包帯を握りしめた。
父は死んだ。美波たちも、ミチルも、愛華も消えた。
けれど、父が遺した「呪い」の種は、私の知らない場所で、すでに発芽していたのだ。
パンドラは、終わらない。
私は朝焼けの光を浴びながら、力強く一歩を踏み出した。
今度は、守るべき「声」のために。
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深冬芽以