「今からですか? ごめんなさい……でも……わかりました。じゃあ、行きます」
隣の部屋から聞こえる双葉ちゃんの声。
よく聞き取れないけど、いったい誰と話してるんだろう? 何だか様子がおかしい?
「双葉ちゃん、大丈夫?」
「えっ!! あっ、びっくりした……。もみじちゃんどうしたの?」
「どうしたのって、双葉ちゃん大丈夫? 顔色悪いよ」
「へ、平気だよ。ごめんね、ちょっと出てくるね。結仁はもう眠ってるから」
「えっ、あっ、うん……わかった。気をつけて」
こんな夜遅くにどこに行くの?
まさか、男?
ものすごく気になる。
お母さん達がいるし、結仁は大丈夫。
そう思うと、私の体は勝手に動いてた。
家から5分ほど歩いたところに大きな車を停めて話してる2人。
双葉ちゃんと会ってる人は誰なの? ここからじゃ暗くてあまりよく見えない。
かろうじて声が聞こえるところまでゆっくり近づく。まるで探偵みたいで、ミステリー小説の中に迷い込んだ気分になる。
「理仁さん」
「悪かった、出てきてもらって」
「いえ……」
理仁?
誰、理仁って。
「この前のこと、やっぱりもう一度、きちんと話をしたくて。朱里ちゃんにここから電話してみればいいと言われて……」
「そうですか……。理仁さんに話してしまったって、朱里から聞きました。すごく謝ってくれて。でも、私のために言ってくれたんだってわかってるんで……」
「俺が無理やり双葉のことを聞き出したんだ。朱里ちゃんは君のことを本気で心配してた」
えっ、何? 双葉?
双葉ちゃんのことを呼び捨てする男がいるなんて。
「……そうですよね。本当に私を大事に思ってくれて、朱里には感謝しかないです」
「俺、どうしても知りたかった。双葉がどうしてるのか」
「クシュンッ」
あっ! しまった。
「……も、もみじちゃん? どうして?」
嘘、この見つかり方、コントみたいじゃない。
これじゃあ探偵失格だよ。
「あはは~。見つかっちゃった」
私は、仕方なく、双葉ちゃんの前に姿を晒した。
「着いてきたの?」
「えと~。さっきの双葉ちゃんの様子がおかしかったから心配で……」
その時、奥の暗闇から飛び出してきたあまりにもイケメンな男性に、私は思わず腰が抜けそうになった。
ちょっと待って!
な、何、この人、モデルさんなの?
こんな素敵な人がこの世にいるなんて。
「べ、別に何もないよ。大丈夫だから」
双葉ちゃんの顔、全然大丈夫そうじゃない。こんな超絶イケメンとコソコソ会って、何を隠してるの?
「でも、電話してて、すごく顔色悪かったし。もしかして悪い人に脅されてるのかなって」
「ち、違うよ。この人は……」
「はじめまして、常磐と申します。あなたが双葉さんのいとこのもみじさんですか?」
「えっ、私のことご存知なんですか?」
「双葉さんから聞いています」
「あのね、もみじちゃん。この人は、私が通ってたスイミングスクールのインストラクターさんなの。それでお友達になって……」
「お友達? 双葉ちゃんに男友達がいたなんて知らなかったよ」
「……お友達っていうか、知り合い……かな。海外から帰ってきて私にお土産を渡したいからって、わざわざ来てくれたの。だから心配しないで」
「そっか、ただの知り合いだったんですね~。常磐さんみたいな素敵な人と知り合いだなんて、双葉ちゃんすごい~。スイミングスクールってどこのですか? 私も行きたいな~」