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「……魔力の水に問題はありません。むしろ少し魔力濃度が上がっている気がしますけど、大丈夫でしょう」

「濃度が上がった?」

「はい、普段と見比べないと分からないですが、確かに魔力が濃くなっています」


ミューゼ、パフィ、リリの3人は、納品した魔力の水について話し合っている。

その姿を真剣な顔で見つめるアリエッタ。慣れた手つきで紙に絵を描いていく。


「でも、私達に何かわかる訳ないのよ。久しぶりに泉まで行っただけなのよ」

「ですよね。常駐でもしない限り、いつ変化があったのかは分からないですし……」


森の奥での常駐など、普通は不可能である。


「じゃああのキノコの家に1人常駐とか?」

「誰がやりたがるのよ。私は嫌なのよ」


ミューゼが考えたのは、アリエッタが住んでいた家に、誰かが常駐する事。

しかし、ずっと子供が1人住んでいたとはいえ、大人には小さ過ぎる女の子の家で、しかもキノコの中で、何故今まで襲われなかったのかも不明で、道も無い茂みの奥という、危険と不確定要素の温床みたいな場所に、町暮らしの人がわざわざ1人で行きたがる訳が無かった。


「その家の調査もしてみたい所ですが、それなら塔を拠点にして5日に1回程度の定期調査した方が現実的ですよね。この件は今度の会議にでも出してみます」

「家までならミューゼが付けた印があるのよ。私達のどっちかが手伝えば大丈夫なのよ」

「その時はお願いしますね」


既にアリエッタを森に連れて行くという考えは無かった。というのも、普通に考えて子供を猛獣がいる森に連れて行く事は、あり得なかったのである。

そんな会話内容を知らないアリエッタは、ずっと手元に集中している。


(この鉛筆って、炭で出来てるんだな。手でこすらないようにしないと……)


グレーで色を表現する時は、指を使って炭を伸ばしていく。絵好きなのは伊達じゃない。

世間話を交えて森の事で話を進めているうちに、アリエッタの作業も大分進んでいた。


「アリエッタったら真剣ね。一体何を描いているのかしら」

「邪魔しちゃ悪いのよ。後でのお楽しみにしておくのよ。それで報酬は?」

「はい、5000フリカお支払いします。いつも通りパフィさんのカードでよろしいですか?」

「お願いなのよ」


丸が2つくっついたような形の小さな台座をテーブルの上に置き、リリとパフィがそれぞれカードを出して上に乗せた。

2人がそのままカードに指を添えていると、台座が少し光り、すぐに収まる。


「確かにお支払いしました。お仕事ご苦労様でした」

「ありがとうございます」


パフィがカードを手に取り、じっと見る。


「ばっちり入っているのよ。これでアリエッタの服も買えるのよ」


パフィが見ているカードは、ファナリア住人用の個人カードで、身分証になる他、お金のやり取りも出来る物である。

使うには本人が触っている必要がある為、盗られる心配は少なく、紛失した場合はカードの魔力を追跡出来るという、なかなか高性能な物だった。

そして先程の台座で、お金のやり取りも出来る。緊急時以外は送る側の操作しか出来ない優れものである。


「アリエッタちゃんがこの町に住むなら、やるべき事は多いですね。言葉が分からない事でややこしい事になりそうですから、困ったらここに来てくださいね」

「助かるのよ」

「ありがとうございます」


大人達の話が終わりかけてる一方で、アリエッタの絵も完成に近づいていた。


(あとはここをこう……おっ、イイ感じのシャドウになった。うんうん、これならみゅーぜ喜んでくれるかなー)


なかなかの出来らしく、思わずアリエッタはニッコリ。


「アリエッター、できたのかな?」


そんな笑顔を偶然見たミューゼは、とりあえず声をかけてみた。


(むっ、話終わったのかな? じゃあ僕もこれでおしまいだ。また描けるといいなぁ……)


名残惜しくもあるが、確かな達成感を感じたアリエッタは、板と炭筆を置いて立ち上がり、紙を持ってミューゼに駆け寄った。


「みゅーぜ! みゅーぜ!」

「なぁに? 見せてくれるの? どれどれー?」


アリエッタはミューゼに絵を描いた紙を渡す。それを見て……


「………………」

「? どうしたのよミューゼ。何が描いてあるの?」


言葉を失ってしまった。


「みゅーぜ?」(どうかな? 上手くかけてるかな?)

「……ハッ!! ご、ごめん、かなりビックリして……これ本当にアリエッタが描いたの!?」


ミューゼは慌てて絵とアリエッタを交互に見る。驚きのあまり、顔がおかしくなっている。

まだ絵を見ていない2人は、どういう事か気になって仕方がない。

再び絶句しなおしたミューゼは、驚きの顔のまま、アリエッタを撫で始めた。


「ふにゅ♪」(誉められたぁ)

「褒めるか驚くかどっちかにしてほしいのよ」

「その絵見ても良いですか?」

「え……あ……ごめん……どうぞ」


変顔をそのままに、アリエッタの絵をテーブルに置いた。


「………………は?」

「………………へぁっ!?」


そしてミューゼと同じく、驚愕で顔がおかしくなった。


「は? え? これ!?」

「ひ!? あのあのあのあのあの!」


ついでに言語もおかしくなっていた。


「ぱひー? りり? ……みゅーぜ?」

「ハッ!」


一番早く我に返ったのは、最初に驚いたミューゼだった。


「アリエッタ貴女……絵、上手すぎない? こんな凄い絵、観た事無いんだけど」


そう言って、パフィとリリが変な顔で凝視している絵を再び見る。

そこに描かれていたのは、ミューゼの似顔絵だった。

前世で絵を学び、趣味としていたアリエッタは、社会にこそ埋もれてしまっていたが、画力自体はかなりのものだった。人の似顔絵もお手の物である。

しかも新たに生を受けたこの地は、芸術面はいまいち発達していない。ミューゼ達が壊れる程驚くのも当然だった。

なにしろ人の手で描いたのに、そっくりなのである。それも真面目な話をしている時の凛々しい顔で。


「みゅ…みゅ…ミューゼさん……この絵を使ったら、縁談が殺到しますよ!」

「お見合いの姿絵!?」


いつの間にか、リリの目は血走っていた。獲物を見つけた野獣の目である。

外域探査組合リージョンシーカー ニーニル支部受付嬢 リリ・エルトナイト(26) 現在彼氏募集中。趣味はマンドレイクの自家栽培です。


「アリエッタちゃん、私の事描いてくれないかな! とびきり美人に!」

「いや、言っても分からないのよ」


言葉が分からないのも忘れ、必死に姿絵を求め始めている。


(えー……なんか思ってた反応と違う……)


ミューゼに喜んでほしいと思って絵を描いたアリエッタは、想定外の反応に驚くが、めげずに声をかけることにした。


「みゅーぜ?」

「あ……うん、ごめんね、凄すぎて褒めるの忘れてたよ。凄いよアリエッタ! こんなに綺麗に描いてくれたんだよね! もう大好き!」


思いっきり抱き着いて、撫でて、頬ずりして、頬にキスまでしちゃったり。


「ひああぁぁぁ!?」(うわあぁぁぁ! 褒められてると思うけど、これも思ってたのとちがぁぁぁう!!)


この後、滅茶苦茶もみくちゃにされた。

その横で、一見冷静に見えるパフィも、アリエッタの描いたミューゼの絵を見て、自分も描いてくれないかなと、チラチラ視線を送ったりしている。

リリに至っては、あからさまにキラキラした視線を向けている……が、もみくちゃにされているアリエッタに、それを受け取る余裕は無かった。




「……はぁ、すっかり取り乱してしまいました。アリエッタちゃん凄すぎますね」

「もうこの絵は家宝にしなきゃ。何か飾る物買って帰る?」

「落ち着くのよ。私はまだ描いてもらってないのよ」


内心一番落ち着いていないのはパフィだったりするが、その為には絵を描く道具を買って帰る必要がある。

朝の時点での予定では、この後服屋にいってアリエッタの採寸をして帰り、ミューゼが全力で治療する筈だったが、治療は先程やってもらった為、この後は何の心配も無く、服や道具を買いに行く事が出来るようになった。


「用件は終わってたし、買い物してお昼にしましょ。アリエッタの身の振り方も、ゆっくり考えていかないといけないし」

「そうなのよ。今日はまだまだやる事がいっぱいなのよ」


あまり長居してもリリが受付から離れすぎている為、今日の所はこれで組合を出る事にした。


「うぅ…私はいつでもアリエッタちゃんの絵のモデルになる準備は出来てますからね。待ってますからね!」


なんだか必死なリリと別れ、3人は町へと繰り出した。足が完治したアリエッタは、ミューゼとパフィに手を繋いでもらい、自分で歩いている。真ん中のアリエッタはちょっと困惑気味だが、両側の2人はニコニコしている。

ちなみにミューゼの似顔絵は、杖の中に仕舞ってある。水を全て出したから、代わりに収納したのだ。

ミューゼの杖の先端にある玉は、組合にあった収納玉程高性能ではないにしろ、物を1つだけ収納可能な魔道具だった。液体もある程度の量まで可能である。もちろん杖なので、魔法の媒体としてもそこそこの性能を持っている。

ミューゼはアリエッタに貰ったたからを汚したり無くしたりしないようにと、丁寧に杖に入れていた。


「まずは服を買わないといけないのよ。まだシャツだけで可哀想なのよ」

「うん、可愛い服を着せてあげましょ!」


可愛い女の子に可愛い服。それは本人にとっては地獄になるというお約束。

この後の事を少しだけ想像し、2人は笑顔になる。


(今からどこに行くんだろう。2人とも楽しそうだなー)


釣られて笑顔になるアリエッタ。

この後とんでもない目に合うとは知らずに……。

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