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「え? なに?」
不思議そうに俺を見る陽雅さんを見て、ハッとする。
「あっ、いや。なんでもないです。すみません」
「本当? なんか変だよ。恭也」
変。確かに今の俺は変だ。胸はモヤモヤするし、今、陽雅さんといられる事が嬉しいとも思っている。
何か話さないと、この胸のモヤは取れない気がする。
「…陽雅さんの能力の事、知りたいです。ドルでしたっけ?」
俺の言葉を聞いて、陽雅さんは驚いた表情を浮かべる。
「あれ。俺、ドルって言ったっけ?」
「あ、いえ。さっき泰輝さんから聞いて。どんな能力なのかは聞いてないんですけど」
「勝手に教えるなっていつも言ってるのにな…まぁいいや。いずれ伝えなきゃいけないことだし」
陽雅さんが俺の横に座る。
「ドルはね、特定の行動をすると相手を従わせることが出来るの」
「相手を従わせる?」
「うん。この前恭也の羞恥心が消えたのも、今日、恐怖心が消えたのも俺のドルの力を使ったからだよ」
やっぱり、陽雅さんの能力のおかげだったんだ。
「そうだったんですね。ありがとうございます」
「ううん。でも、今の話聞いて嫌だと思わないの?」
「え? 何がですか?」
「自分の感覚とか、行動とかコントロールされるの、嫌じゃない?」
「いや別に…陽雅さんなら嫌じゃないです」
「俺なら…か」
陽雅さんはそう呟いた後、ニコッと笑う。
「恭也、俺の声だけじゃなくて、俺自身の事も好きなんじゃない?」
陽雅さん自体を好き…。
正直、そうなのかもしれない。嫌いでもないし、なんとも思ってない訳では無いし。
「まぁ…そうかもしれないですね」
「さすが俺のお気に入りだね」
陽雅さんが嬉しそうに笑い、俺の頭を撫でる。
この撫でる手も、結構好きなんだよね。
「恭也、そろそろ帰ったら? 終電やばいんじゃない?」
陽雅さんにそう言われ、俺は時計を見る。
「うわっ。やばいです。俺、帰りますね」
「うん。玄関まで送るよ」
「ありがとうございます」
そして俺は陽雅さんに見送られ、陽雅さんの家を出る。
「気をつけて帰ってね」
微笑みながら手を振る陽雅さんに、俺も手を振り返した。
次の日、大学へ行き講義室の席につく。
講義が始まるまでボーッとしているけど、何故か昨日の夜からずっと、陽雅さんの事を考えてしまう。
(今日も陽雅さんに会いたいな…)
ふとそう思った時、横に誰かが座る。
「おはよっ。恭也」
彼はいつもの元気な声でそう言う。友達の快(かい)だ。
「うん。おはよう」
「何、恭也。恋なんかしちゃって」
「え? 恋? してないよそんなの」
「嘘。見えるよ。″好き″の感情」
そう。彼は人の感情が見える。フィールズだ。
「でも俺、好きな人なんて…」
「あー。自覚してない感じだ。さっきまで誰かの事考えてたでしょ」
さっきまで考えてた人…陽雅さん。
「まぁ、いるけど」
「その人に恋してるよ。恭也」
「えっ…?」
俺が陽雅さんに恋…?
「いやいや。ないって」
「それは恭也が自覚してないだけだよ。俺には全部見えちゃうからね。その人が自覚してない感情も」
快は指で輪を作り、片目を覗かせながらそう言った。
「恋…」
俺、陽雅さんに恋してるのか。
「で、どこの誰なんだよ〜。恭也の好きな人」
興味深そうにそう聞かれたが、正直に言える訳がない。
快はゲイだし、男なのは気にしないと思うけど、陽雅さんは傍から見たら危ない人だろうし。
正直に言ったら多分、快は怒るだろうな。
「…快の知らない人だよ。ちょっとお世話になってて」
「へ〜。なんか気になるんだけど」
「まぁ、いいじゃん。俺の好きな人なんて」
と言うと、快は俺をしばらく見つめた後、見透かしたような顔で言う。
「恭也さ、なんか隠そうとしてるでしょ。なんか変な人にでも恋した?」
快の指摘に俺は慌てて否定する。
「い、いや? 全然そんなんじゃないよ」
「じゃあそれ何。いかにもって感じなんだけど」
快が指を差した先は、″お気に入りの印″を隠すために絆創膏を貼った所だ。
「いやこれはその…ちょっとヘアアイロンでやっちゃって」
「恭也、ヘアアイロン使ってるの? 初めて聞いたんだけど」
「ま、まぁ、いいじゃん。俺の話なんて。そう言う快は恋とかしてないの?」
「俺? 俺は別にいないけど」
「え〜。快のサークル、かっこいい人いっぱいいるのに?」
「いやまぁ、いるけどさ〜。って、話逸らそうとすんな」
「逸らそうとしてないよ。単純に気になるの〜」
と誤魔化してみると、快は呆れた顔で言う。
「バカ。フィールズを騙せると思うなよ? 全部見えるんだから」
「あ〜、うるさいです〜」
「お前なぁ…」
「あー、ほら、もう講義始まるから」
誤魔化すようにそう言うと、快はまだ何か言いたそうにしながらも、前を向いた。
夕方、最後の講義を終え、電車に乗る。
(やっぱり陽雅さんに会いたいな)
でSNSを開き、陽雅さんにDMをする。
『今日もお願いしていいですか?』
返信がすぐに来ると思っていた。いつもそうだから。
でも、今日は中々来ない。家に帰るまで、返信は来なかった。家に帰ってから俺はDMを開き、通話ボタンを押す。
どうしても、早く会いたくて。何度かコールが鳴った後、通話が繋がる。
『もしもし。恭也、どうしたの?』
『あの…今日、これから会えませんか』
『ごめん。ちょっと今…お客さんっ…来てて』
電話越しから聞こえる陽雅さんの声が、普段話している声ではなく、色っぽい声に聞こえる。
『…そうですか。昨日みたいに夜でもいいんですけど…』
『んっ…ちょっと今日は…ごめんね。明日なら…会えるんだけど』
やっぱりおかしい。まるで、そういう事をしてる時みたいな声だ。
『じゃあ明日…』
と言いかけた時、電話越しに男性のよがり声が聞こえた。
少し間が空いた後、陽雅さんの声がする。
『…ごめんね。ちょっとお客さんが。気にしないで』
そう言われたけど、気にしないなんて無理だ。
多分、今お客さんとそういう事をしているのだろう。
『…明日、お願いします』
『わかった。じゃあ…んっ…また明日ね』
『はい』
そう答えると、通話が切れた。
胸の辺りがモヤモヤする。
分かってる。あそこはそういう所だから、他の人とだって平気ですることくらい、分かっていた。
それでも、実際にそれを感じてしまうと、嫌なものなんだな。
(…お気に入りなのに)
お気に入りなんだし、優遇して会ってくれてもいいのに。
お気に入りなんて、なんの効力も無いんだな。
「はぁ…」
その日の夜も次の日の授業中も陽雅さんの事が頭から離れなかった。
コメント
1件
わあ、第7話、読み終えました……! 恭也くん、ついに自分の気持ちに気づいちゃったんですね。そばにいるだけで頭から離れなくなる感じ、すごく共感しました。 でも最後の電話シーン、モヤモヤが痛いほど伝わってきて切なかったです。「お気に入りなのに」っていうタイトル、その言葉が胸に刺さりますね……。陽雅さんにとっての“お気に入り”って、恭也くんにとっては特別な意味に変わってきてるんだろうな。 続きがすごく気になります!素敵な話をありがとうございます🌷
.✴︎ 凛緒@ペア画中
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ちぃ✩.*˚
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