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最後の講義が終わると、俺はすぐに陽雅さんの家へ向かった。チャイムを鳴らすと、少しして扉が開く。
「いらっしゃい。どうぞ。入って」
「はい。お邪魔します」
陽雅さんの部屋に向かっていると、陽雅さんが呟く。
「昨日はごめんね。会えなくて」
「あ…いえ。大丈夫です」
忘れようとしてたのに。
思い出したくなかったのに、昨日の事を思い出す。
胸の辺りがモヤモヤする。今、陽雅さんに会えてるのに。
部屋に入り、陽雅さんがベッドに座る。
「恭也もこっちおいで」
陽雅さんの横に座ると、陽雅さんはこっちを見る。
「俺の声が恋しくなっちゃった?」
「えっ?」
ドキッとした。見透かされた気がして。
「また上手く出来なかったんでしょ? 恭也は俺の声がないとダメみたいだね」
陽雅さんが嬉しそうに笑う。
あぁ。そっか。ここ、そういう所だもんね。
俺、ただ陽雅さんに会いたいってだけで連絡しちゃった。
でも、そんな事言えないし、誤魔化さないと。
「…そうみたいです」
「じゃあ、今日も俺がいっぱい気持ちよくしてあげるね」
陽雅さんに囁かれるたび、頭がぼんやりしていく。
支払いの時になり、俺は陽雅さんに身を委ねた。
「今日の恭也、一人でした時も俺とした時もイくの早かったね。昨日出来なかったからかな」
違う。好きを自覚したせいで、好きが溢れて、感度が上がっていただけだ。
「多分、そうだと思います」
「そっか。恭也は可愛いね」
陽雅さんが欠伸をする。
「ちょっと寝るね。シャワー浴びてな」
「はい」
俺に微笑んだ後、陽雅さんは眠りについた。
眠る陽雅さんをじっと見つめる。
(この寝顔、独り占めしたいな…)
そんな事を思ってしまう俺に首を振って、部屋を出た。
シャワーを浴びて、ソファーに座る。
(陽雅さん…)
ボーッとしていると、横から声がする。
「よお、あお」
ハッとして横を向くと、零斗さんが立っていた。
「あっ、零斗さん」
「なんだあお。そんな顔して」
そんな顔。俺は今、どんな顔してるんだろう。
「…別になんでも無いです」
「嘘つけ。なんか暗ぇぞ、お前」
「あぁ…」
顔に出ちゃってたのか。
「しょうがねぇな。俺が話聞いてやるよ」
零斗さんは俺の横に座り、こっちを見た。
零斗さんって意外と優しいんだ。
なんだかその優しさに甘えたくなった。
「…お気に入りってなんなんですかね」
「あ? お気に入り?」
「お気に入りだから優遇してくれるかなって思ったんですけど、昨日会ってくれなくて」
「陽雅の話か。まぁ、あいつにも事情があるんじゃねーの? あいつはお気に入りはとことん甘やかすからな」
「そうなんですか?」
「あぁ。大体今日だって本当は他の客の予定だったんだぜ? でも、あおが会いたいって言ったから元々のお客さん断ってあおに会ったんだよ」
知らなかった。ちゃんと俺を優先してくれてたんだ。
昨日の行動だけで決め付けて勝手に落ち込んで、何してんだろう。俺。
「…俺、勝手に落ち込んでるだけでした」
「そう。まぁ、解決したなら良かったわ」
「ありがとうございました。話聞いてくれて」
「ん。…俺、恋とかした事ねぇし分かんねぇけどさ、相談くらいなら乗ってやるからいつでも言えよ」
少し照れくさそうにそう言う。
「恋、した事ないんですか?」
「あぁ…まぁな」
零斗さんは苦笑いしながらそう言った。
そしてふと思う。
(てか、俺が恋してるって気付いてたんだ)
陽雅さんにもバレてないか心配になったけど、多分今日の感じからしてバレてないんだと思う。
それから少しして、陽雅さんがリビングに来た。
陽雅さんがシャワーを浴びている間に零斗さんのお客さんが来て、零斗さんは席を外した。
陽雅さんはリビングに戻ると、俺の隣に座る。
「はい。これ」
差し出してきたのはひとつの鍵。
不思議に思いながらも鍵を受け取る。
「なんですか? これ」
「ここの合鍵。これからはチャイム鳴らさなくていいから。これ、お気に入りの特権ね」
陽雅さんはニコッと笑う。
「昨日、前のお気に入りの子に会っててさ。その鍵返してもらうために」
前のお気に入りの子。お気に入りは一人だけなんだ。
「だから昨日会えなかったの。ごめんね」
昨日会えなかったの、ちゃんと理由があったんだ。
「これからはいつでも恭也に合わせるから、許してね」
陽雅さんは手を合わせてそう言う。
いつでも俺に合わせてくれる。俺だけの特権。
鍵を見つめながら、笑みがこぼれる。
「ありがとうございます」
「うん。いつでも連絡してね」
陽雅さんはニコッと笑った。
それから数日も経たないうちに陽雅さんに連絡をし、会うことになった。
陽雅さんの家に着くと、鍵を取り出す。
鍵穴に差して回すと、カチャッと音がする。
ドアノブを持って引くと、扉が開いた。
それだけでなんだか嬉しくて、俺は笑顔になる。
リビングの扉を開くと、ソファーに座っていた陽雅さんがこっちを見てニコッと笑う。
「恭也。いらっしゃい」
陽雅さんが立ち上がり、こっちへ来る。
「部屋行こっか」
陽雅さんの部屋に入ると、二人並んでベッドに座る。
「早速始めよっか」
ニコッと笑う陽雅さんを見て、俺は俯く。
今日もまた、陽雅さんに会いたいだけで来てしまった。
もう、一人でするとか、どうでもいいのに。
陽雅さんが不思議そうに俺の顔を覗き込む。
「恭也、どうしたの?」
「えっと…」
本当は正直に言いたいのに、中々勇気が出ない。
俯いたままの俺の耳元で陽雅さんは囁く。
《今思ってる事、教えて?》
「俺、ただ陽雅さんに会いたかっただけなんです」
スっと口から言葉が出る。
「会いたかっただけ?」
「はい。一人で上手く出来なかったとか、陽雅さんの声が無いとダメだとかどうでも良くて。ただ、陽雅さんに会いたかっただけでここに来ちゃいました」
言わない方がいい事も全部、勝手に口から出てしまった。
陽雅さんはしばらく黙り込んだ後、口を開く。
「でも、ここはそういう事をする場所なんだよ? 俺たち、友達でも何でもないんだから」
心臓がズキっと痛む。
そんなの、分かってるよ。
だから言いたくなかったんだ。
「…すみません。俺、帰ります」
俺が立ち上がると、陽雅さんが腕を掴む。
「ちょっと恭也。帰らないでよ」
「なんでですか? 俺、ここにいる資格なんて無いじゃないですか」
「確かに、ここはそういう所とは言ったけど、帰れなんて言ってないでしょ?」
「でも俺…」
「帰って欲しくないの」
俺の言葉を遮るようにそう言う。
「俺の声を買うっていうのでどう? それなら支払いも出来るし」
その言葉を聞いて、俺は振り向く。
「…お願いします」
気付いたらそう言っていた。
求められた気がして嬉しくなってしまったから。
.✴︎ 凛緒@ペア画中
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ちぃ✩.*˚
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コメント
1件
第8話、読み終わりました…! 恭也くんの「会いたいだけ」っていう純粋な気持ちが、胸にじんわりきました。合鍵をもらうシーン、すごく嬉しかったです。陽雅さんもちゃんと恭也くんを優先してたんだなって分かって、零斗さんのフォローもあって、ちょっとほっとしました。 お互いに譲れない距離感と、それでも近づきたい気持ちのバランスがすごく丁寧に描かれていて、続きが気になります。