テラーノベル
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温泉から帰った翌週。オフィスのビルを見上げた瞬間、いつものように胃がきゅっと縮んだ。
(……行くか)
深く息を吐いて、フロアへ足を踏み入れる。相変わらず空気は重い。視線を合わせない部下たち。
(……前の僕なら、ここで逃げてた)
でも、今は違う。
「……ちょっと、いいか」
声をかけると、わずかに空気が張り詰める。僕はチーム全員を会議室に集めた。
沈黙と警戒する視線。その中で、一人ひとりの目を見て、口を開いた。
「例の仕様変更の件だけど――このままじゃ、無理だと思ってる」
ざわ、と空気が揺れた。戸惑いの混じる視線。
「だから、上層部とかけ合ってきた。納期一ヶ月でやるなら、システムの根幹に関わる4割に絞らせてくれって。そのラインで了承を取った」
一瞬、静まり返る。
「……直接、掛け合ったんですか?」
部下の一人が、信じられないというように言った。
「ああ。残りの6割は、リリース後の追加対応に回す。僕の伝え方も悪かった。無茶な仕様を全部飲むのが、リーダーじゃない……それを、分かってなかった」
空気が、わずかに変わった。
「僕も今日から現場に入る。テストコードも書くし、バグの責任も持つ……だから、もう一度だけ、力を貸してほしい」
深く、頭を下げた。しばらくして、一人の部下が、小さく息を吐いた。
「……春川さんがそこまで泥かぶるなら……しょうがないですね」
別の部下が、苦笑する。
「4割なら……まあ、気合で通しましょうか」
空気が、ほんの少しだけ緩んだ。みんな不満が消えたわけじゃない。でも、誰も下を向いていない。完璧には程遠い。それでも――ほんの少しだけ、前に進めた気がした。
#独占欲
#ワンナイトラブ
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