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「(あー….)」
雑踏に入った途端,耳鳴りがする.そして色んな声が聞こえきて,得体のしれない何かが足下に纏わりついてくる.彼女はそっとヘッドフォンをして何食わぬ顔で歩きだす.
だってそれは今に始まったことではないから.でも今日は違った.
「(鈴??どこから…!!)」
ヘッドフォンをしてても聞こえてくる鈴の音.出どころを探そうと駆け出すと足下の何かが消えていた.
「(音も止んだ.)」
謎の現象を究明できなかったモヤモヤを残しながらも,軽くなった足で彼女は再び歩き出した.
それからしばらくして.
「(学校でなるのは久しぶりだ….)」
高校生の彼女,お昼休みに人気のないいつもの場所に向かっているとまた鈴の音が.
「どこで鳴ってるの.」
たどり着いたのはいつもの場所,そしてそこには.
「よっ.」
と気軽な挨拶をする先客が居た.
「ごめん,邪魔しちゃったね.」
「あぁ,邪魔じゃないよ大丈夫.君よくここに来るの?? 」
「うん,1人になりたい時よく来るよ.アンタは??」
「オレは初めて来た.」
「そうなんだ,意外.」
「なんで??」
「陽キャも1人になりたい時あるんだと思って.」
「オレ陽キャっぽい??」
「うん.」
「そういう君も陽キャな感じ.」
「私はそんなんじゃないよ,ただの根暗.」
とお弁当を広げる.
「そのヘッドフォン良いね,何聴いてるの??」
彼はカフェオレ片手にパンをひとかじり.
「 これ周りの音が気になる時に付けるやつで,音楽聴く用じゃないの.」
「そうなんだ.」
「あ,でも今流行ってるので気になる曲はパソコンでよく聴いてるよ.」
“こんな子うちの学年にいたっけ”と思いながらも,流行りの話に花が咲く.
「じゃあ私、次移動教室だから先行くね.」
「うん.頑張って.」
予鈴を合図に彼女はその場を後にした.
その週の休日,いつもの現象を落ち着けようと公園のベンチに座ると.
「(もー.なんなのこの鈴の音.)」
鈴が鳴ると止む耳鳴り,そして居なくなる得体のしれない何か.俯いて気分を落ち着けていると.
「おっすー.」
といつしかランチ友達になった彼がやってきた.
「あれ,どうしたの??」
「遠目から見て,もしかしてと思って….大丈夫??」
「うん.ちょっと耳鳴りが酷いから座ろうと思って.」
「そっか.ちょっと待ってて!!」
その場を離れる彼.戻ってきて手に持ってるのは2人分の飲み物.
「はいミルクティー.」
「ありがとう.良かったら隣….」
「いいの??じゃあお邪魔します.」
座る彼を横目にミルクティーをひと口.
「アンタも買い物してたの??」
「うん,そんなとこ.君は??なんか良いの買えた??」
「うん.」
彼はカフェオレを飲みつつ.
「耳鳴りの酷さって日によって違ったりするの??」
「うん.今日のはちょっとキツかった.」
「そうなんだ.」
「でもアンタのおかげで楽になった.ありがとう.」
「いえいえ.」
少し話して帰る頃,1度断ったものの心配だからと2人は一緒に帰ることとなった.
あれから,彼と親しくなって気づいた.
「(鈴が鳴る時,いつもアイツがいるような….)」
ここまで会う回数が増えて,偶然という理由が当てはまらなくなってきた.だとしたら.
「(アイツ,何者??)」
お昼休みにあの場所に行くと案の定彼は居た.
「今日も耳鳴り酷いの??」
「いや違うの.あのさ.」
「どうしたの??」
「私,耳鳴りがするのと同時に足下に何か変なものが纏わりついてきて,それが見えるの.ある時から鈴の音が聞こえるようになって.それが聞こえると耳鳴りも止んで変なものも居なくなるの.で,鈴の音の出どころを探すと必ずアンタに会うの….アンタいったい何者??」
彼は視線をゆっくり彼女に向けて微笑む.
「俺もね君にしか見えない“何か”だよ.」
「え….」
「でもこれだけは覚えてて,この先もずっと君を守るってことを.」
突然の強風に目を瞑る彼女.目を開けると彼は居なくなっていて,居たはずのところに鈴がついたブレスレットが落ちている.
「“何か”ってなによ.ちゃんと人のかたちしてたじゃん.てか私にしか見えないって,あの時1人で話してたの!?はっず!!」
多くを語らずに姿を消した彼への怒りが独り言として吐き出される.そしてため息をついてブレスレットを拾って腕に着けた.そこで予鈴が鳴る.
「次姿を現した時は覚えときなさいよ.」
ブレスレットを見て呟いてその場を去った.
それ以降,彼女が耳鳴りに悩まされることは無くなった.