テラーノベル
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episode #1 start
┄
長尾謙杜side
その日は、ほんまに普通やった。
大学終わって、
ちょっと近道しよかなって思って、
人通り少ない道に入っただけ。
——それだけ。
背後で、
足音がした気がした瞬間。
「……え?」
振り向く前に、
視界が暗くなった。
声も出せんまま、
意識が遠のいていく。
┈
目、覚ましたとき。
「……っ」
最初に思ったのは、
知らん天井。
次に、
手首。
「……え」
ベッドの端に、
軽く固定されてる。
ガチガチじゃない。
痛くもない。
でも、
確実に“拘束”。
心臓が、
一気にうるさくなる。
(……やば)
「起きた?」
——声。
びくっとして、
そっちを見る。
そこにいたのは。
……拍子抜けするくらい、
可愛い顔の人。
笑顔で、
手振ってる。
「おはよ。……じゃないか」
「こんにちは、やな」
(……誰)
「びっくりさせてごめんな」
そう言いながら、
普通に椅子引いて座る。
距離、
ちゃんとある。
「俺、西畑大吾」
……名乗った。
「で」
「謙杜を攫った人」
(……即言うんや)
頭、
追いつかん。
「……え」
「安心して」
「今から説明するから」
そう言って、
立ち上がって。
俺の手首の留め具、
カチャって外した。
「はい、自由」
「……え、いいんですか」
「うん」
「逃げんやろ?」
冗談っぽく言うけど、
目は、ちゃんと俺見てる。
「ここ」
「俺の家」
部屋を指差す。
「今おるんが」
「謙杜の部屋」
「……俺の?」
「ベッド新品」
「Wi-Fiある」
「冷蔵庫も自由」
(……誘拐……よな?)
「ここどこですか」
聞いたら、
すぐ答える。
「大阪の端っこ」
「住所も教えるで?」
ほんまに、
隠す気ゼロ。
「俺な」
「謙杜のこと、前から知ってて」
一瞬、
怖くなる。
けど。
「ストーカーではある」
あっさり。
「けど」
「嫌なことはせえへん主義」
「……誘拐してますけど」
「それはごめん」
即謝る。
「でもな」
「外で見てるだけじゃ足りんくなってん」
……正直。
この人、
おかしい。
でも。
声は落ち着いてて、
距離感も守ってて。
何より。
「寒ない?」
「腹減ってへん?」
「喉乾いてるやろ」
……めっちゃ過保護。
「……あの」
「ん?」
「俺、どうなるんですか」
聞いたら、
少し考えてから。
「一緒に住む」
即答。
「嫌なら」
「嫌って言って」
「……言ったら?」
「考える」
「即解放じゃないんや」
「せやな」
笑う。
「でも」
「無理はさせへん」
……誘拐されたはずやのに。
怖いはずやのに。
この人。
何もしてこない。
むしろ、
居心地、
悪くない。
(……なんなん、この人)
それが、
正直な感想やった。
┄
episode #1 finish
𝐍𝐞𝐱𝐭…❤️💛𓈒 𓏸
コメント
2件
めっちゃ書き方エモい?感じで好きです!!🫶これからが楽しみです!