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episode #2 start
┈
長尾謙杜side
朝、目ぇ覚ましたとき。
一瞬、
「あ、帰ってきたんや」って思って。
——すぐ、違うって気づいた。
知らん部屋。
でも、ベッドはふかふか。
カーテンの色も落ち着いてる。
「……ほんまに誘拐されたんよな、俺」
そう呟いた瞬間。
コンコン。
「謙杜、起きてる?」
ドア越しの声。
「……起きてます」
「入るでー」
勝手に入ってくるんやなくて、
ちゃんと許可取るんや……って
そこでまた変な感覚になる。
大吾くん、
普通にエプロン姿。
「朝ごはん作ったけど」
「和と洋どっちがええ?」
「……選択制なんですか」
「そらそうやろ」
当然みたいに言う。
(ほんまにここ、どこ)
┈
生活は、
拍子抜けするほど“普通”やった。
・外出は一応禁止
・でも家の中は完全自由
・スマホも取り上げられてない
・鍵は大吾くんが持ってるけど、監視はされてへん
「ルール少なすぎません?」
って言ったら。
「謙杜が嫌がることはせえへん」
「それが一番のルール」
……ずるい。
昼。
リビングで課題やってたら、
後ろから声。
「目、疲れるやろ」
気づいたら、
ホットアイマスク置かれてる。
「……大吾くん」
「ん?」
「過保護すぎません?」
「今さら」
即答。
「攫った以上」
「大事にせなあかんやろ」
理屈、
意味わからんのに。
妙に、
納得しそうになるのが怖い。
┈
夜。
ソファでテレビ見てたら、
横に座ってくる。
近いけど、
触れへん距離。
「……怖ない?」
急に聞かれる。
「……正直」
考えてから。
「最初は、めっちゃ」
「今は?」
「……混乱してます」
正直に言う。
大吾くん、
少し笑って。
「それでええ」
「無理に慣れんでいいし」
「嫌になったら言って」
「……ほんまに?」
「ほんま」
その横顔。
可愛い顔してるのに、
どこか落ち着いてて。
声も、
低くて優しい。
(……なんでやねん)
誘拐犯やのに。
怖がるべき人やのに。
「……大吾くん」
「ん?」
「なんで俺なんですか」
少し、
間が空く。
「理由、聞きたい?」
「……はい」
「長なるで?」
「聞きます」
大吾くん、
俺のほう見て。
「謙杜が」
「自分で思ってるより」
「ずっと無防備やから」
ドキッとした。
「それと」
「笑うとこ」
「……笑うとこ?」
「無自覚で人を安心させる」
——その言い方。
からかってるんちゃう。
ちゃんと、見てる。
(……この人)
ちょっとだけ。
ほんのちょっとだけ。
「……嫌いじゃないかも」
そう思ってしまった自分に、
一番びっくりした。
——誘拐されて、数日。
ここは檻のはずやのに。
不思議と、
息がしやすくなってきてる。
それが、
一番怖かった。
┈
episode #2 finish
𝐍𝐞𝐱𝐭…❤️💛𓈒 𓏸