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泣き虫なお兄ちゃんへ
病室のベッドの横に置かれたパイプ椅子。そこに座ると、俺の長い足は少し窮屈そうに折れ曲がる。
「ラウ、また背伸びた? なんか来るたびにおっきくなっとる気がするわ」
ベッドの上にいる康二くんは、鼻に酸素チューブをつけながらも、いつもの関西弁でへらへらと笑った。カメラが大好きで、いつもメンバーの笑顔をファインダーに収めていたその手は、今はシャッターを切る筋力さえ失われつつある。
「もう伸びてないよ。康二くんが小さくなっただけでしょ」
俺はわざと生意気な口調で返した。そうしないと、今にも泣き出してしまいそうだったから。
加入したばかりの右も左もわからなかった頃、泣いていた俺の隣にいつもいてくれたのは康二くんだった。「ラウ、一緒に頑張ろうな」って、自分のことみたいに俺のケアをしてくれた、特別なお兄ちゃん。
その康二くんが、もうすぐいなくなる。
「余命」という言葉が、まだ20代前半の俺にはあまりにも重すぎて、現実味がなかった。
「ラウ」
康二くんが、ベッドサイドの棚から使い古されたデジタルカメラを、おぼつかない手で手に取った。
「最後にな、ラウの写真、撮らせてや。世界一カッコいい、俺の自慢の弟」
「……最後なんて言うなよ」
堪えきれず、俺の目から涙がポロポロと溢れ落ちた。
「康二くんのバカ。いつも僕のこと泣き虫って言うくせに、自分だってすぐ泣くくせに……なんでそんな風に諦めたみたいに言うのさ!」
俺が子供みたいに声を上げて泣くと、康二くんはカメラを置いて、困ったように眉を下げた。いつもなら一緒に泣いて「ごめんなぁ」って抱きついてくるはずなのに、今日の康二くんは泣かなかった。ただ、ものすごく優しいお兄ちゃんの顔をして、俺の大きな手を握りしめた。
「諦めてへんよ。ただな、俺、ラウが大人になって、もっともっと世界に羽ばたいていく姿を、一番近くで見られへんことだけが、ほんまに悔しいんや」
康二くんの親指が、俺の頬の涙を優しく拭う。
「でもな、ラウ。俺の魂は、お前の影にずっとおるからな。お前がステージに立つときも、海外のランウェイを歩くときも、俺がお前の足元から、ずーっとスポットライトを当てたる。だから、寂しくなったら足元見いや。俺、いつでもおるから」
「康二くん……っ」
「ラウール。お前はSnow Manの、俺たちの、最高のセンターや。誰が何と言おうと、胸張って、その長い足で世界中を歩き回れ。……俺を、お前のファンでいさせてくれて、ありがとうな」
康二くんはそう言って、最後に見事なカメラ目線で、クシャッとした最高の笑顔を見せた。
それが、俺の記憶に焼きついた、お兄ちゃんの最後の表情だった。
その数日後、康二くんは眠るように旅立った。
最期まで、大好きなメンバーに見守られながら、穏やかな顔をしていた。
それから、数年が経った。
俺は今、海外の大きなファッションショーのランウェイの袖に立っている。
心臓がバクバクと音を立てる。世界中のカメラマンがレンズを向ける、緊迫した空間。
「……康二くん」
本番直前、俺はふと自分の足元を見た。
ステージの強い照明に照らされて、俺の長い影が真っ直ぐに伸びている。
『寂しくなったら足元見いや。俺、いつでもおるから』
あの日の言葉が、頭の中で鮮明に蘇る。
不思議と、緊張がスッと消えていった。あいつが今も、ファインダー越しに俺のことを見て、シャッターを切り続けてくれているような気がしたから。
「行ってくるね」
俺は前を向き、顔を上げた。
涙はもう流さない。康二くんがくれた、世界一カッコいいセンターの姿のまま、俺は光の中へと堂々と踏み出した。
コメント
1件
読了しました…もう、冒頭から涙が止まらなかったです。 「泣き虫なお兄ちゃん」というタイトルに、康二くんの優しさと強さがぎゅっと詰まっていて。 特に「俺の魂はお前の影にずっとおる」という言葉、そして最後に足元を見るシーンでそれが回収されたとき、心臓がぎゅっとなりました。 現実を受け入れながらも、ラウールを“最高のセンター”として送り出すお兄ちゃんの最期の笑顔が、まぶしすぎて苦しいです。とても美しいお話をありがとうございました。