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#幽霊
凛道桜嵐 新
193
#日常
がくじゅつてき・あかげ
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わーい
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千歳の作ってくれたお弁当をぶら下げて地下鉄に乗り、二人で俺の実家に向かった。和泉和漢薬の店舗と、その裏に一軒家、それが俺の実家である。
千歳が家を見回して言った。
『パッと見は大丈夫そうだけど』
「中入ってみなきゃわかんないなー」
チャイムを押して父親に「来たよ」と言うと、玄関が開いた。
父親は、きまり悪そうに言った。
「おはよう……いや、これでも片付けたんだが……」
玄関から覗くだけでもわかる、パンパンに詰まったゴミ袋と畳んでない段ボールが山盛りで、すごいことになっている。
『うわ……』
千歳が思わず声を出し、俺は諦めのため息をついた。
「なんか、捨てられない原因でもあったの?」
「その……お母さんが、ゴミを漁られて調べられるって言って溜め込み始めて……こっそり出したりはしてたんだが、ゴミの日を逃すことも多くて……」
病気の症状のひとつかな?
「そう……家事はどうしてたの、おばあちゃんが老人ホーム行ってから」
「食事は家政婦さんに頼んで、最初は掃除もお願いしてたんだがゴミが多すぎて……」
「そう……」
俺はまたため息をついてしまった。体壊してたときの俺の部屋のほうがまだマシなの、何?
とりあえず家に入れてもらった。千歳がゴミまみれの部屋を見渡す。
『このゴミ、分別してあるのか?』
「袋ごとに分別はしてあるが、袋の積み方はごっちゃで……もう業者に頼むつもりで……」
『うーん……』
おばあちゃんによると、アルバムは二階の祖父の書斎にあるとのことなので二階に上がる。うわ、ここもゴミぎっちり……隣の俺の部屋もゴミぎっちり。俺の部屋はともかく、おじいちゃんの部屋は立派な書斎なのに……。
俺は父親に話しかけた。
「おじいちゃんの漢方の蔵書、多少はお金になるかもしれないんだけどさ。俺、多田漢方薬局と仕事したことあるんだけど、そこがいい古書店教えてくれて、蔵書丸ごと送ってくれたら全部見て値をつけるって言ってくれてるんだけど……」
俺はもう一度祖父の書斎を見て、途方に暮れた。
「どっから手つけようか……」
千歳が俺の背中を叩いた。
『腹くくれ、ゴミ全部出すぞ』
「それしかないねえ……」
『どっか、他にゴミ詰め込められる部屋あるかな?』
父親が言った。
「可能なら、庭に全部積み上げてほしい、業者が二階のゴミは追加料金を取るって言ってて……」
『しょーがないな、やるか!』
千歳(朝霧の忌み子のすがた)は、ボンと音を立ててゴツいヤーさんの姿になった。
筋骨たくましくなった千歳は獅子奮迅の活躍を見せ、俺と父親も頑張って手伝い、昼にはおじいちゃんの部屋は片付いた。俺の部屋もとりあえず床が見えるようになった。
流石に疲れを覚え、時間的にもいい時間だったので、俺は父親に言った。
「いったん昼休憩しない? 千歳がお弁当作ってくれたんだ、お父さんの分も」
「えっ? あ、ああ、ありがとう」
まさか弁当持参と思わなかったのか、父親はやや困惑したが、千歳は自慢げに胸を張った。
『ワシはちゃんと和泉の面倒見てるんだ、まともな飯を作ってやって』
一階のリビングに降りて、テーブル周りのゴミを押しのけ、お弁当を開く。おにぎりたくさん、鶏のゆず照り焼き、小松菜と人参のごま和え、筑前煮。
俺は父親に割り箸を渡した。
「はい、お箸」
「ああ、悪い……」
千歳が、ここに来る前にコンビニで買ったペットボトルを出した。
『はい、お茶』
「ありがとう……」
父親は、困惑しつつも素直に受け取った。
適当にいただきますをして、千歳は早速おにぎりを頬張り始めた。父親は鶏のゆず照り焼きを食べて、目を見開いた。
「……おいしい」
『それ、和泉が好きなやつなんだ』
千歳がもぐもぐしつつ言った。俺も父親に話しかけた。
「柚子ジャム入ってるんだけど、それも千歳お手製なんだよ」
「すごいな」
しばらく三人でお弁当をつついていた。俺は、父親に俺と千歳のことをもう少し話しておこうかなと思って、口を開いた。
「……俺ね、新卒で入った会社がブラックでね。体壊して、自律神経失調症で過敏性腸症候群になっちゃって、油ものと刺激物控えないといけなくなっちゃったんだけど、千歳がその辺すごく気を使っていろいろ作ってくれて、ほとんどよくなってね」
「そうか……」
『ワシ、なかなかよくやってるだろ?』
千歳がうりうりと肘で俺をつつく。
「もう足向けて眠れないよ」
『どうやって向けるんだよ、並んで寝てるのに』
「あ、本当だ!」
俺は、思わず笑ってしまった。
笑う俺を、父親はなぜかじっと見て、そしてその目が潤んだ。
「……豊、お前、幸せなんだな……」
「え? ……うん、そうだね」
俺が頷くと、父親は俺に深く頭を下げた。
「……ありがとう。こうやって、いっしょに食事してくれてありがとう。……至らない父親で、済まなかった」
頭を下げたまま、父親は話し続けた。
「俺は、どうやってもおじいちゃんに漢方家として並べなかった。こういう生き方しかできなかった。だから、お前が離れていったのもわかってる。でも、お前がそうやって笑える相手がそばにいて、よかったと思うのも本当なんだ……」
頭を下げる父親の膝に、水滴が落ちた。
「……まあ、俺は俺でなんとかやってるよ。お父さんもお父さんで、なんとかやって」
「あんなこと言って、悪かった」
育ててやった分を返せ、の言葉のことだろう。
「もういいよ、でもあんな事二度と言わないで。……おばあちゃんに、あんまり心配かけないでね」
「わかった」
父親は、顔を上げてうなずいた。
「筑前煮もおいしいよ、食べて」
「ありがとう……」
父親は、鼻をすすりながら筑前煮に箸をのばした。
窓から覗く空は薄曇りだったけれど、その時少しだけ、日差しがのぞいた。
コメント
1件
みぅです🤍🥀 第633話、読み終わりました……。 お父さんが「お前、幸せなんだな」って言ったところ、胸がぎゅっとなりました。あの言葉は、全部のわだかまりをちゃんと見て、それでも認めたかったんだろうなって。何より、千歳さんが一緒にいてくれて、お弁当を食べる時間が当たり前になってる和泉くんの笑顔が、すごく温かかったです🌙 よかったね、本当に……。