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あめ猫@サボり魔
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#見捨てられた
リコりす@アナログタノピイ
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あの頃の森には、まだ静けさがあった。
カルトの集落では、毎日のように祈りが響いていた。
神への賛美。
狂った啓示。
誰かを捧げるために研がれる刃の音。
そのすべてが、少しずつ人の心を壊していく。
ツータイムも例外ではなかった。
エルダー・アマラの言葉は、日に日に重くなっていた。
神のため。
使命のため。
選ばれた者として。
そう言われ続けるたびに、彼の中にあった優しさや迷いは、少しずつ押し潰されていった。
けれど。
そんな場所にも、ひとつだけ逃げ場があった。
森だった。
深い森の奥。
カルトの声も届かない境界。
古い木々が空を覆い、柔らかな光だけが地面へ落ちる場所。
そこでは、狂った教えも、恐ろしい儀式も存在しなかった。
ただ風が吹き。
草花が揺れ。
二人だけの時間が流れていた。
「……アズール。」
ツータイムの声は弱かった。
いつもの自信もない。
いつもの笑顔もない。
ただ疲れ切った少年の声だった。
「ぼく……なんだか、もう……」
続きを言う力すら残っていない。
白い肌。
震える身体。
灰色のコートに包まれた姿は、まるで壊れかけた人形のようだった。
アズールは何も言わなかった。
責めなかった。
励ますこともしなかった。
ただ静かに隣へ座った。
「静かにしていいんだよ。」
優しい声。
「ここでは、何も考えなくていい。」
ツータイムの瞳が揺れる。
「神様の声も。」
「アマラの言葉も。」
「ここまでは届かないから。」
アズールは魔女帽子の影から、柔らかく微笑んだ。
そして自分の膝を軽く叩く。
「ほら。」
「おいで。」
「少し休もう。」
その言葉を聞いた瞬間。
ツータイムの張り詰めていたものが切れた。
彼はゆっくり歩み寄る。
そして、まるでそこだけが安全な場所だと信じるように、アズールの膝へ頭を預けた。
「……あったかい。」
小さな呟き。
それだけだった。
けれどアズールには、その一言が何より悲しかった。
この子はずっと寒かったのだ。
身体ではなく。
心が。
誰かに認めてもらいたかった。
誰かに必要だと言ってほしかった。
ただ、それだけだった。
アズールは手袋を外す。
植物を扱うために大切にしていた手。
その指先で、そっとツータイムの額へ触れる。
「大丈夫。」
ゆっくり撫でる。
「君は、頑張りすぎているだけだよ。」
ツータイムの眉間に刻まれていた苦しみが、少しずつ消えていく。
長い睫毛が震える。
やがて、その瞳が閉じられる。
「……アズール。」
「ん?」
「君のところにいると……。」
眠気に溶けた声。
「何も怖くない。」
その言葉に、アズールは胸を締め付けられるような痛みを覚えた。
だから決めた。
この子だけは守る。
どれだけ世界が狂っても。
どれだけカルトが彼を変えようとしても。
この小さな安らぎだけは、自分が守る。
「おやすみ、ツータイム。」
囁く。
「起きたら、冷たい果実水を作ってあげる。」
返事はない。
もう眠っていた。
木漏れ日の中。
穏やかな寝息だけが響いている。
アズールは、その寝顔を見つめ続けた。
そこにはまだ怪物はいなかった。
裏切り者でも。
狂信者でも。
殺意に染まった存在でもない。
ただ寂しくて。
ただ傷ついていて。
誰かに愛されたかった、一人の少年がいた。
「君を傷つけるものから、僕が守るよ。」
届かない眠りの中へ、何度も言葉を落とす。
「だから……もう一人で苦しまなくていい。」
森の光が二人を包む。
それは後に失われる、最後の平穏だった。
この時のアズールはまだ知らない。
自分が守ろうとしていた相手に、いつか胸を貫かれることを。
そしてツータイムも知らなかった。
自分が唯一安心できたその温もりを、自らの手で壊してしまう未来を。
金色の木漏れ日の下。
二人はまだ、お互いを救いだと信じていた。