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「うんうん、王妃はぶっ飛ばして良い生き物なのよ。わざわざお城まで蹴りに行っても、誰も怒らないのよ」

「いやそれもどうかと思うよ……」


ミューゼの家のリビング。のんびりと王族の悪態をつくのは、もちろんパフィ。もう恨みと不信感しか抱いていない。対面席でお菓子を食べているムームーが呆れ顔である。

その隣では、アリエッタとクォンが睨み合っていた。


「あの、クォン? そんな真面目にやらなくても……」

「いいえムームーさま。彼女もそれを望んでいます。これは女と女の真剣勝負。手を抜けば、彼女に失礼です」

(これがライバルってやつだな。ちゃんと僕も全力で応えないと、男が廃るってもんだ!)

「なんだかアリエッタ、楽しそうにしてる気がするね」

「なのよ」


ミューゼ、パフィ、ムームーが困った顔で見守る中、アリエッタとクォンがニヤリと笑い合った。

意思疎通が出来ているかは分からないが、考えている事は一致している。

そして同時に手に持ったそれを掲げた。


『………………』


掲げた紙を見つめ合う。しばしの沈黙の後、2人は手に持った紙を置いた。


「アリエッタちゃん、凄い」

「くぉん、すごい」(なるほど、誉め言葉だな)


そのままガッチリ手を取り合った。

ついでにアリエッタは『すごい』を覚えた。


「これはどうなったのよ?」

「なんか熱い友情が芽生えちゃったね」

「それもそうなんだけど、2人とも凄すぎない?」


ムームーは2人のやり取りよりも、テーブルに置かれた紙が気になっていた。

アリエッタが置いた紙には、ムームーが描かれている。花のフレーム絵に囲まれ、まるでお嬢様のような美しい人物画である。絶世の美女(♂)であるムームーを、アリエッタは見事に描きこなしていた。

対してクォン置いた紙には、ミューゼが描かれている。こちらは本を読んでいる姿がモノクロで写されている。クォンが身に着けている機械の機能で、指定した範囲を写実するという物である。所謂カメラ機能だが、アリエッタの前世で見た物に比べると、出力する画質が荒く、色は黒のみという代物。

それでも転生して初めて絵と呼べる物に出会い、アリエッタは喜んだ。そして友達になりたいと思っていた。

何故このような状況になったのか。それは、ムームーが王城であった事、クォンのリージョンで何があったかを、ピアーニャの代わりにミューゼ達に教える為に訪問した事が、きっかけとなった。リビングに通されたクォンがアリエッタの絵を見て、「このような精密なプリントが?」と言って実演。今度はアリエッタが反応し、一緒に絵を描きたいと、少ない単語とジェスチャーで必死に伝えたのだ。

なんとか念願叶って、一緒にお絵かきタイム。といっても、クォンは写すだけ。しかし、人物程細かい対象になると、プリント出力には時間がかかるようで、アリエッタがフレーム絵付きでムームーを描く半分の時間で、ようやく1枚が仕上がった。やはり絵という文明は全く栄えていないようである。


「で、結局どうなったのよ?」


パフィの質問に対し、クォンはアリエッタを抱きかかえ、親指を立てた。アリエッタも親指を立てた。


「クォン達、友達になりましたっ」

「あたし! くぉん! ともだち!」


2人揃っての素敵な笑顔は、パフィの心を打ち抜いた。


「ちょっ、パフィ、いきなり死なないでくれる!?」

「無理なのよ……可愛すぎるのよ……」


しばらくパフィが動けなくなったので、代わりにミューゼが2人の為に飲み物を用意。アリエッタが描いたムームーの絵は、クォンがいそいそと手荷物に仕舞った。


「で、何の話だっけ?」

「いやまぁ、クォンのリージョンの話に、これから入るところだったんだけどね」


丁度クォンが絵を描き終えた後だったので、ムームーは本題に入る事にした。




「クォンの出身リージョンは、金属だかなんだか分からない物で人の住む場所が作られていたんだよ」

「見た事も無い素材って事?」

「うん。他にも、森も違う感じだった。木に光の筋があったりして、よく分からない物だらけだったよ。草なんかは……──」


見た物をなんとか分かりやすく説明しようとするが、言葉だけでは全然伝わらない。ミューゼ達も返事をしながら「?」を浮かべる事しか出来ない。

クォンのプリント機能では、絵が単色で荒すぎるので、見た所で普通の風景にしか見えないだろう。


「逆にクォンは、エーテルが見えない植物とかを見て、ファナリアで驚いてたの。ネマーチェオンって所だと、驚く余裕とか無かったけどね」

「エーテルって魔力の事だよね? 植物に見えるんだ……?」


常識の違うリージョン同士の驚き。それに関してはミューゼ達も身に覚えがある。むしろ最近も体験したばかり。

ミューゼは植物がオーラを発して光る光景をイメージしたが、『光の筋』というのが分からない。パフィは考える事もしていない。真面目な顔で聞いているアリエッタに至っては、話の内容が分からない。


「……ま、まぁ、行けるようになったら行ってみるといいよ」

「行けるの?」

「まだその準備中だけど、なんとか前向きになってくれたよ。今は向こうの使者がファナリアを見学しているところ。クォンのお陰だね」


ムームーに言われ、クォンは恥ずかしそうに俯いた。


「いえ、そんな。その節は父がすみません……」

「何があったのよ……」

『あははは……』


当事者2人は笑って誤魔化した。少し顔が赤いので、これは絶対に話してくれないと察したミューゼは気を使って……


「【縛蔦網アイヴィーウェブ】」

「ぅわえっ!?」

「なんでえっ!」


2人を蔦で縛り上げてしまった。


「無理矢理聞き出せっていうフリかなと」

『ちがーう!』

「拷問するのよ? 痛いのは駄目なのよ」

「大丈夫大丈夫、いつものだから」

『いつもの!?』

(うわぁ、えっちぃ……)


別に無理矢理聞き出す必要など全く無いのだが、やたらと甘い空気を発する客人に、ミューゼはちょっとムカついていた。ちょっとイタズラをしてやろうという魂胆である。

パフィも納得し、アリエッタを抱っこした。


「ふっふっふー、さぁムームー。このいやらしい姿のクォンを助けたければ、いう事を聞きなさい」

「何しちゃうつもり!?」


ちなみに服を着ると恥ずかしがるクォンは、家の中という事もあって、普段のハイレグボディースーツである。蔦に絡まれていると色々危ない。


「あ、今ちょっと期待したでしょ」

「ちちちちがうし!」

「! ミューゼさん! 一思いにやっちゃって!」

「なんでクォンが拷問推奨すんの!?」


いきなり、何かされる対象のクォンが寝返った。ムームーを悩殺出来るなら、手段を選ばない姿勢である。

この時既に、アリエッタはパフィに連れられ、部屋で可愛がられている。つまりパフィによる助けは、期待出来ない。


「大丈夫! このスーツは破れても、自動修復機能で元に戻るから!」

「いやそれ駄目なネタだから! いろんな意味でアウトだから!」

「ではお望み通り、酷い目に合わせてあげよう。ひっひっひ」

「やめてえええええ!!」


手をワキワキしながら怪しく笑うミューゼ。センシティブなあれこれを危惧して必死に叫ぶムームー。そして妙に期待した目をムームーに向けながら、その瞬間を待つクォン。

ミューゼの手がクォンの胸元に近づいた時、ついにムームーが折れた。


「分かったから! 何があったか言うから!」

「そんな、ムームーさま!?」


決心したムームーを非難するクォンだが、それは話す事に対してではなく、なんで自分のあられもない姿を見てくれないのかという意味である。

しかし、興味がイタズラの方に移っていたミューゼには、何があったかなど関係無い。


「あ、その話はもういいんで」

「……へ?」


2つのやや控えめな山の前で寸止めされていた手が、そのまま容赦なく進み、クォンの脇へと差し込まれた。


「うりうりうりうり~♪」

「ひゃはっ!? きゃははははは! やめっやめえええっ!」


拷問が始まってしまった。クォンは呼吸が難しくなり、声を上げて苦しみ始める。上半身が固定されてしまっているので、下半身だけがジタバタともがく。

ムームーは、そんなバタバタクネクネ動く恋人の下半身を見て、茫然としながら顔を赤く染めていた。姉の趣味で隠すように命令されているが、中身はやはり男なのだ。

しばらくリビングに悲鳴が響き続け、クォンがぐったりした頃に解放された。


「はぁ、はぁ……」

「どう?」

「どう?じゃないよ!」


目が潤み、涙と涎を垂らし、息を荒くし、放心しているクォンの顔を、ムームーに見せたところ、絶叫が返ってきた。なかなかに酷い仕打ちである。


「いやぁ、アリエッタにやってあげると、子供とは思えないくらい色気出すから、大人のクォンだとどうかなーと思って」

「だから何やってんの!?」


子供との戯れで『くすぐる』という行為は、よくある事である。アリエッタの場合は、その美貌と涙目のせいで、保護者達を変な気分にさせてしまうという問題があるのだ。


「そんな事して、パフィは理性保ってるの?」

「ん? 今頃理性無くして、凄い事になってると思う」

「止めてあげて! ってゆーか今!?」


繰り返すが、子供との戯れで『くすぐる』という行為は、よくある事である!

パフィの部屋で現在何が起こっているのか。真実はパフィとアリエッタのみぞ知る。


「終わった後は、アリエッタが真っ赤になって、あたしに抱き着いてくるのよー。もう可愛くて可愛くて。しばらくしたら元通りだけど」

「………………」(この保護者、教育的に大丈夫なんだろうか……)


ムームーは、ピアーニャの苦労を心底理解した気がした。確かに時々、様子を見に来る必要があると思っていた。

そんな先輩の心境などつゆ知らず、ミューゼは未だにグッタリしているクォンを差し出した。


「じゃあはい、どうぞ」

「どうぞ!?」


蔦から解放されたムームーは、クォンを抱き留めた。薄い生地越しのやわらかい感触に、ちょっとドキドキしている。


「大丈夫。あたしもアリエッタと結婚する予定だし、女同士でもなんとかなりますって」

「…………ソウダネ」


ミューゼは、ムームーが男の娘である事を知らない。だからこそ、ムームーとクォンは自分達と同類だと思っている。

一方、ムームーの腕の中のクォンは内心喜び、ムームーもまんざらではない。色々と間違ってはいるが、想いはしっかり嚙み合っていた。

と、ここでムームーが1つ重要な事を思い出した。


「あ、結婚といえば、リリさんが結婚式の準備で、シーカーから人員を募ってたよ」

「おおっ」


ついにこの時が来たかと、ミューゼは純粋に喜ぶのだった。

からふるシーカーズ

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