📖 第10.5話「フラクタル訓練」
🚀 シーン1:戦いの前に
碧族の隠れ里にある訓練場。
昼下がりの太陽が、天井から差し込む。
ゼインは黒いジャケットの袖をまくり、ナイフを構えた。
その銀色の髪が微かに汗で張り付き、碧色の瞳は鋭い光を帯びている。
「さぁ、そろそろお前もフラクタルをまともに扱えるようにならねぇとな」
ナヴィスが、蒼い瞳を光らせながら腕を組んだ。
無造作に跳ねた黒髪が、陽の光を受けてきらめく。
「……まぁ、今までは何とか“感覚”でやってたからな」
ゼインは腕に刻まれた碧色の模様を見つめる。
まだ完全に自分の力になったとは言えないが、少しずつ馴染んできた気がする。
ナヴィスが軽く笑う。
「感覚だけで乗り切れるのは最初だけだ。フラクタルは、いかに効率よく最適化するかが勝負だぜ」
ゼインは小さく息をついた。
「じゃあ、頼むぜ……先生」
「お前が俺に敬語使うの、めっちゃ違和感あるな」
🚀 シーン2:フラクタルの基本
「まずは簡単な防御技からだ。お前、《オーバーライド》しか使ってねぇだろ?」
ナヴィスが手をかざすと、彼の周囲に薄い碧色のフィールドが展開された。
「これは《リバースバリア》。攻撃を反射する防御フラクタルだ」
ゼインは腕を組む。
「……それ、俺にも使えるか?」
「まぁ、原理はそんなに難しくない。問題は“効率”だ」
ナヴィスが説明を続ける。
「フラクタルは、いわばコードの羅列みたいなもんだ。
最適化されてねぇと、発動までの時間もエネルギー消費も無駄に増える」
ナヴィスは地面に指で文字を書く。
✅ 最適化されたコード
IF (INCOMING_ATTACK) THEN
ACTIVATE (BARRIER_REFLECT)
END
「このコードは最適化されてるから、エネルギー消費が少ない」
ナヴィスは続ける。
「でも、未熟なフラクタル使いは、無駄な処理を入れすぎる」
❌ 最適化されていないコード
IF (ATTACK_DETECTED) THEN
CHECK (ENERGY_LEVEL)
IF (ENERGY_LEVEL > 50%) THEN
GENERATE (BARRIER)
CALCULATE (REFLECTION_ANGLE)
IF (ANGLE > 90) THEN
MODIFY (FORCE)
END
ELSE
ALERT (“INSUFFICIENT ENERGY”)
END
END
ゼインは眺めながら、額に手を当てた。
「……えっと、要するに、シンプルな方が強いってことか?」
ナヴィスが親指を立てる。
「そういうこと! フラクタルは100文字以内のコードで書くってルールがあるだろ?
だから、どれだけ無駄を削れるかがカギになる」
ゼインは自分のフラクタルを見つめた。
確かに、発動までに一瞬の遅れを感じることがある。
「……つまり、俺の《オーバーライド》も、もっと効率よくできるってことか?」
「その通り!」
🚀 シーン3:実践訓練
「じゃあ、さっそくやってみようぜ」
ナヴィスが、不敵に笑いながら距離を取る。
両手を広げ、軽く拳を握った。
「俺が攻撃するから、お前は防御フラクタルを使ってみろ」
ゼインは身構えた。
「……こい!」
ナヴィスが地面を蹴る。
その瞬間、彼の姿がブレた。
《フォールトシフト》——位置を瞬時に入れ替えるフラクタル!
「!」
ゼインの背後にナヴィスの気配が現れる。
——しかし、ゼインは既に動いていた。
碧色の光が腕に収束し、ナヴィスの拳をギリギリで受け止める。
「おっ、やるじゃん」
「……まぁな」
ゼインは小さく息をつきながら、拳を振り解く。
「だが、まだ遅い」
ナヴィスが笑いながら、再び構えを取る。
「お前の防御フラクタル、まだ“最適化”されてねぇんじゃね?」
ゼインは悔しそうに拳を握る。
「……じゃあ、もう一回だ」
🚀 シーン4:成長の兆し
何度も訓練を繰り返す中で、ゼインの動きは少しずつ洗練されていった。
彼の《オーバーライド》も、不要な処理を削ぎ落とし、よりシンプルな形へと進化しつつある。
ナヴィスは満足そうに頷く。
「悪くねぇな」
ゼインは額の汗を拭いながら、ナヴィスを見た。
「……お前、手加減してただろ?」
ナヴィスはいたずらっぽく笑う。
「そりゃそうだろ。お前が本気でやるのは、次の戦場だからな」
ゼインは苦笑しながら、空を見上げた。
碧族になったことを、まだ完全には受け入れられていない。
だが、確実に——強くなっている。
「……そろそろ、次の戦いが始まるな」
ナヴィスが背中を伸ばしながら言う。
「ま、次も死ぬなよ」
ゼインは、拳を握った。
「……ああ」
——戦場がゼインを待っている。
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