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戻りたい

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戻りたい

1 - 戻りたい

♥

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2024年09月17日

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戻りたい





青水︎︎ ♀














水視点






今日、別れてからかなり時間が経った元カレと会う。





出張先が元カレの引っ越した県だと気づいたとき、僕は反射的に奥底へ眠っていた彼とのトークを引っ張り出していた。


一言送ってから無視されるかもな、とも思ったけれど、案外にも彼は

『いいよ、居酒屋予約しとく』と感情の読めないLINEをあっさりとよこして、他にやり取りすることもなく当日を迎えた。



彼と付き合っていた当時は、一時期同棲までしていた。結婚を意識するくらいには、好きという段階を超えてふたりの時間を過ごしていた。



別れてから言っても説得力ないなと思うけど、今思えば、僕たちの相性はものすごくよかったと思う。



大体好きになる曲は一緒だったし、テレビでツボに入るタイミングも近かったし、お互いに掃除が苦手だったし。



デートの日に寝坊して、焦って連絡しようとスマホを見たら、彼氏からも全く同じ時間に寝坊したってLINEが届いていた、なんて史上最低の奇跡が起きたこともあった。



要するに、お互いだらしなくて、どこか抜けていて、でもそんなゆるいところがテトリスみたいにうまくハマっていたんだなと思う。



まぁ、結局仕事の転勤やら、遠距離やら、降りかかってくる事情に勝てずに別れてしまったんだけど。



ぶっちゃけて言うと、まだ今も恋愛感情があるか、と聞かれたらはっきりと否定できない。



今日久しぶりに顔を合わせたら、もしかしたらまたいい感じになるかな、くらいには期待していた。



ちょっとだけ。









居酒屋の奥まったところの個室に彼はいた。



僕に気付くと、唇をとんがらせて声をかけてる。



「ひっさしぶりやん。まさか来てくれるとは思わんかった」



「こっちの台詞だよ。てか全然変わってないね」



「そっちも。むしろちょっと痩せた?」



彼はいい意味で何も変わっていなかった。



ちょっと低めの声も、笑うと目が優しく細まるところも、僕より先に店に来て待ってくれてるところも。



好きだったところは、丸っきり変わっていなかった。



「梅酒でよかったよな?」



「あ、うん。ありがとう」



「よっしゃ、んじゃ頼むな」



彼が店員を呼んで、すらすらと1杯目の注文をしてくれる。



僕たちが付き合っていた頃、僕はビールが飲めなかったから、1杯目は必ず梅酒を頼むようにしていた。



そんなちょっとしたことを覚えてくれていた事に抱えていた一抹の不安が一気に吹き飛ぶ。



「……そっちは相変わらずビールなんだね?」



「やっぱ酒の中じゃあビールが1番うめぇよ。

てかまだビール飲めねぇんだな」



「うるさいなぁ、僕は一生梅酒だけでいいの」



「ビールの美味しさが分からないなんて、

人生の半分損してるよ」



「出た、謎理論。さすが文系」



「やかましいわ。文系関係ねーし」



軽口を交わしながら、ああこれだ、この人の話し方とトーンが大好きだったんだと思い出す。



とにかく話しやすいというか、会話のテンポが小気味よいというか。



昔に戻ったような感覚が嬉しくて、ついついアルコールを口に運ぶペースも早くなっていく。



「最近仕事とかどうなの」



「まぁ、それなりにやっとるよ。繁忙期はうざいけどな。」



「え〜、うまくやってくれなきゃ困るよ。

僕を捨てて仕事の方選んだんだからね」



「ちょっとまて、捨てたって表現は語弊ありすぎる」



「あーあ、こんな可愛い彼女捨てるなんて……」



「だから捨ててないって、店員に勘違いされるからやめろ」




酔った勢いで彼に少し意地悪をしてみる。



そう、別れたきっかけは、彼氏の転勤だった。



地方に転勤しなきゃならない彼と、仕事の都合上都内に残らないといけない私。



皮肉にも、僕たちは「遠距離恋愛だけは絶対に耐えられない」という価値観までもが似ていて、そんな僕たちが恋人という関係を続けるのはほぼ不可能に近かった。



僕が仕事を辞めて彼についていく、なんて選択肢もあったけれど、ようやく仕事を任せられてきたその時期に、僕がその決心をするのは難しいことで、結局、物理的な距離が離れるのと同時に、僕たちの関係も終わりを告げた。



「もしもあのまま付き合ってたらさ、今頃結婚してたのかな」




「……あー、どうなんやろな」



意地悪な僕の問いかけを、彼は笑いながら流した。



と思いきや、僕の目をじっと覗き込みながら、彼は言葉を紡ぐ。



「俺は、今でも好きやけどな」



止まってた時間が、もう一度動き出すような予感がした。















その後のことはあまり記憶に残っていない。



彼からの今でも好きだという言葉が何度も頭の中で繰り返されて、ふわふわした頭のまま、ふたりで店をでた。



時間微妙だね、どうしよか、まだ帰るには早いよね、てか帰りたくないな、なんて茶番みたいな駆け引きをして、とりあえずアルコールのせいにして、どこにでもありそうなラブホテルに入った。







詳しくは語らないけれど、彼の抱き方は昔から何も変わっていなかった。



キスの仕方も、腕が嘘みたいに細いのも、そのくせ実は結構力が強いのも、お腹をくすぐると逃げていくところも、耳を触られると弱いのも何もかもがあの頃のままだった。



それがなんだか、時間が戻ったみたいで、愛おしくて仕方がなくて、バレないように少しだけ泣いた。



唯一、行為後に吸うタバコだけは、マルボロからアイコスに変わっていた。



「ねぇ」



「ん?」



自分でも面倒くさい質問だなと思いつつ、気かずにはいられない。




「付き合ってない人とも、いつもこんなことしてるの?」



「はっ、なにそれ。するわけないやん」



「……じゃあさ」



声が震えそうになって、息をひとつ呑み込む。



「もっかいやり直そうよ。ちゃんと、付き合いたい」



勇気を振り絞って、あの日言えなかった言葉を伝える。



ただ、彼からの答えは、期待していたものとは全く違っていた。



「ごめん、今彼女いる」



僕はもう彼の大切な人には戻れないらしい。











戻りたい



𝑒𝑛𝑑






























青くん視点も書こうと思ってます︎🫶🏻

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