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2セット目も終盤に差し掛かってきた。尾白さんのスパイクを何度も拾う。そして次の攻撃、音駒が返すだけになりこっちのチャンスボール。
たがここで夜久さんの本領発揮。彼から放たれる殺気と圧が尾白さんの攻撃をアウトにする。
尾白「あっちのリベロ怖いな」
赤木「やりおる」
守備の完成を目の当たりにした瞬間だった。
そして侑さんの焦りがジワジワと表に出始めた。俺は監督に目配せしチェンジを要求。俺と目が会い監督は頷く。
笛の音が響き稲荷崎高校メンバーチェンジ。侑さんに変わって、俺と同学年控えセッター猫目敦牙(たいが)が導入される。
孤爪「もう少しだったのに……」
黒尾「まぁまぁ」
敦牙は緊張で震えてる。でもアイツが入れば流れを変えられるはずだから大丈夫。でもやっぱ心配
摩浪『敦牙?大丈夫?』
猫目「これが大丈夫に見えるならお前は異常や」
摩浪『ひどい笑』
猫目「おれに侑くんの代わりなんて……」
摩浪『代わり?』
俺は敦牙の言葉にちょっと疑問を持ったけどすぐに理解した。
摩浪『お前、侑さんの代わりになるつもりだったの?』
猫目「え?いや、この流れだとそんな感じやろ」
摩浪『違うぞ?侑さんの化け物セットをお前までやるつもりなのか?』
侑「おいコラァ摩浪!化け物ってなんやねん!」
侑さんの声は聞こえてたが敦牙に話続ける。
摩浪『敦牙がここにいるのは代わりのためじゃない。というか稲荷崎に誰かの代わりなんて存在しないんだ。敦牙は敦牙なりのセットすればいい』
猫目「でも、やっぱ……!」
摩浪『なら聞くけど。俺はお前に侑さんみたいな化け物セットしろって言った?』
猫目「言ってないです」
摩浪『ブロックに捕まらないためのセットしてって言った?』
猫目「いいえ」
俺の質問に敬語で答える敦牙。緊張が少しでもほぐれるように。
摩浪『だろ?それにさ俺と一緒に稲荷崎スパイカーの打点把握練習したじゃん』
猫目「でした」
摩浪『俺、敦牙のトス好きだから打てる回数増えてむっちゃ嬉しい』
猫目「急に褒めんな照れるやろ//」
摩浪『どう?少しは緊張ほぐれた?』
猫目「あ、凄い」
敦牙が1番驚いてる。これなら大丈夫そう。
摩浪『平介には考えすぎって言ってたクセにお前も大概考えすぎなんだよ笑』
猫目「うっせ笑」
摩浪『あとさ俺が敦牙に何か言うとすれば……』
猫目「?」
摩浪『我はソナタが1番に信じて上げるトスを所望するってね笑』
猫目「ふはっ笑!なんやねんソレ!」
摩浪『お前のトス信じてるからな』
ハイタッチ後、定位置に戻る。大耳さんのサーブは福永さんが拾う。灰羽のアタックくる。
猫目「(うわっ、あのハーフ11番くる)」
摩浪『敦牙。俺と揃えて』
猫目「おん!」
摩浪『せぇーのっ』
タイミングを合わせブロックに跳ぶ。俺と治さんの間を抜かれたけど後ろで構えていた赤木さんがレシーブ。
俺は後ろに下がり助走。
摩浪『(迷ったら承知しないからな?)』
猫目「(圧かけんでも上げるわ!)」
敦牙のトスは俺の元へ。俺の打点にしっかり届いた。心配する必要なん無かっただろ?
摩浪『いいトスだよ』
猫目「拾われたけどな」
摩浪『うっせ。次だ次』
音駒を乱しこっちのチャンスボールになる。でも研磨の嫌な返球。
猫目「ヤバっ!(追いつかん)」
摩浪『繋ぐから待ってろ!』
夜久「(かっけぇな!おい!)」
レシーブ後すぐに床に手を付き立ち上がる。後ろに下がり助走無しでその場で跳ぶ。でも俺は囮。治さんにトスが上がりスパイク。
まだまだ繋いで来る音駒。もっかいチャンスボール。
侑「(音駒もしつこいてけど、摩浪のしつこさも負けんな)」
摩浪『敦牙、もっかi…』ズルッ
俺が跳ぶ瞬間足が滑り体勢を崩してしまった。なんとか上がってラストまでいけたけどブロックされる。
摩浪『すんません』
赤木「(このタイミングはきっついな)」
辛く長いラリーが続いた矢先に汗の散った床で滑る。俺のミスではあるけどチームにとってもかなりキツい。でも、なんでかな、何か顔がニヤニヤしてきた。
摩浪『やばい楽しい』
孤爪「????」
稲荷崎「(スイッチ入ってもうたな)」
俺は考えまくった結果、俺は敦牙に次上げて欲しいトスを伝える。
猫目「は!?本気で言うとるんか?」
摩浪『練習はしてるじゃん』
猫目「いや、でも、えぇ……」
摩浪『これならいけるから!それに今やっとけば侑さんに繋げるし』
猫目「わかった。やるけど高さは変わらんまま?」
摩浪『いやかなり高めでいいよ』
俺の要望に敦牙は少し戸惑ってるけど承諾してくれた。そして試合再開。福永さんサーブがネットインしこっちを乱す。でも敦牙の頭上まできた。
猫目「オープン!」
稲荷崎&音駒「!?」
俺の要望は「センターオープン」。助走からのジャンプもありだけど、その場で床を押して跳ぶのも好きなんだ。
摩浪『うん、コレコレパァ』
俺も高く跳び天井に届くように左手を伸ばす。右手はぐっと後ろに引き、振り落とす。
ブロックのはるかに上を行くスパイクで1点先取。
摩浪『ナイストース!』
猫目「あ、お、おん。ないすきー」ポカーン
摩浪『やっぱ敦牙に頼んで正解だった。ありがと』
猫目「おれ一瞬上げすぎたと思た」
摩浪『めっちゃドンピシャよ』
ここでローテ回ってこっちにサーブ権がきた。それと同時に敦牙と侑さんの交代。
猫目「あ、もう終わりか」
摩浪『終わりじゃない。次の準備しといでね』
猫目「! わかった!」
侑「猫目」
チェンジ前に侑さんは敦牙に声をかける。さっきまでと表情が違う。多分切り替え成功だ。
侑「ええトスやったで」
猫目「ありがとうございます!」
侑「まっ!俺には敵わんけどな!」
治「1回下げられたやつが偉そうに」
侑「何やと!?」
喧嘩始まりそうだけどほっとこ。そして敦牙が戻る前に俺はもう一度だけ。
摩浪『ありがとう敦牙』
猫目「こちらこそ、ありがとう」
ハイタッチ後、敦牙の背中を見送りコートに戻る。侑さんの調子も戻りつつあるし、さっきのオープンも直ぐに成功するはず。
侑さんのサーブはやっぱり上げられる。それでも長いラリーを終わらせるために俺はもう一度オープン攻撃。俺はさっき敦牙のトスが好きと言ったけど、この侑さんにしか出来ないトスも好きだ。
摩浪『やっぱこれも良い』
侑「ナイスキー!」
摩浪『ナイストス』
そして次は音駒のメンバーチェンジ。海さんに変わってミドルの犬岡が前衛に入ってきた。
犬岡「がんばるぞーっ!!!」
摩浪『元気ねー。(やっぱそっちで来るかー)』
犬岡「おわっ!ほんとに日向みたい!」
摩浪『ちっさいでしょ?フフッ』
犬岡「ちっちゃい!でも凄い!」
灰羽「次は止めてやるからな!」
摩浪『ふふ笑』
なんかこの2人って図体はデカイけど可愛いタイプなんだね。はしゃいでるトコロは猫というより本当に犬みたい。
試合再開。研磨のサーブは少しだけレフト寄り。これも見極めるて角名さんにレシーブを任せる。
摩浪『ナイス』
角名「(摩浪ばっかりに頼れないからね)」
もう一度俺のオープン。タイミングばっちりかと思ったけど犬岡がブロック。
侑「(コート入ったばっかやん!その反応の良さは何なん!?)」
治「摩浪!もっかいや!」
治さんの2段トス。ブロック3枚揃えるの速い。俺の目の前には高い壁が構築される。でも俺は先が見えてた。ブロックアウトで得点。
摩浪『甘いよお2人さん』
犬岡「次は止めるぞ!」
灰羽「おー!」
角名「摩浪って初対面の奴でも仲良くなれるの凄いよね」
摩浪『あの2人が可愛いからつい』
治「あのワンコくんコートに残るみたいやな。向こうの仏さんとチェンジせん」
角名「ちょw。ワンコと仏ってあの2人のこと?笑」
治「何か似とるやん」
摩浪『確かに』
治さんの言った通り、犬岡はそのまま残ってる。治さんのサーブもギリだけど上げた。そして灰羽の攻撃。ブロックは勿論だけど、レシーブもレベルが高いし穴になってない。
音駒のローテが回った時音駒のピンサ導入。初めて見る選手。敦牙と同じ1年控えセッター。ピンサで入るってことはかなりプレッシャーの筈だけど、彼は至って冷静だ。
そして次の瞬間ボールが天高く舞う。天井サーブは俺が昨日やった。烏野は1回戦でやったから何とか対応は出来た。でも稲荷崎はどうかな?まぁ大丈夫だと思う。
治さんがレシーブするが乱れる。侑さんのトスが繋がり尾白さんのスパイク。音駒は返すだけ、チャンスボールになりもっかい、稲荷崎から攻撃。
摩浪『(尾白さんのスパイク一発で上げた)』
孤爪「(体に当たったから痛いはず)」
犬岡の高さのあるブロックもたけど、もう1つは攻撃力。厄介厄介。
侑「(それでも高さはこっちだって負けへん!)」
大耳さんのブロック。チャンスボールからの尾白さん攻撃。それでも黒尾さんのキレキレブロックが止めてくる。音駒シンクロ攻撃。
摩浪『(取れる)』
ブロック間に合うけどストレートがら空き。俺は走って構えてレシーブ。少し間に合わなくて侑さんに繋ぐことなく音駒コートに返ってIN。
第2セットを取り返した。
摩浪『ありゃ』
赤木「ナイス!」
音駒相手にレシーブで点を取れた。位置取りも反応もちょっとズレたけど、これが逆にいい結果に繋がった。
第3セット開始。これが終わればどちらかの3年にとっては本当の終わり。俺は絶対にこのメンバーでテッペン取りたい。でもそれはアッチも同じこと。
摩浪『オープン』
治「すまん近い!」
摩浪『いけます』
灰羽の手にボールを当てリバウンド。もう一度、俺は囮として飛び、治さんのスパイクが決まる。
何度でも跳んで打ってを繰り返す。ブロックの隙間に待ち構えていた夜久さんにレシーブされ音駒の攻撃が決まる。
摩浪『凄い。道を作らせたんだ』
赤木「かっこええな!」
摩浪『ですね。でも赤木さんも負けませんから』
赤木「任せとき!」
赤木さんも凄いって自信を持って言える。彼はレシーブ後、バックアタックの助走路を素早く開け、尾白さんの攻撃にまで繋げた。
夜久「(持ち前の根性と不屈の精神が赤木のハイレベルな守備の根源。かっこいいな)」
赤木「(夜久の守備は絶対拾うって気迫も圧も半端ない。やっぱ、かっこええな)」
互いに賞賛してる事がわかる。なんか似てるもんな赤木さんも夜久さんも。でも、この2人だけじゃなかった。
大耳さんと黒尾さんは同じ3年でブロックの要。高さとスタミナを持つ大耳さん、先読みが長けておりオールラウンダーな黒尾さん。武器は違えどスパイカーが恐れ嫌がるブロッカーなんだ。
黒尾「(デカさじゃ勝てねぇな)」
大耳「(ネット際以外、敵わんわ)」
守備が輝いて見えた。守りって消極的なイメージがあるけど全然そうじゃない。ブロックは守ると同時に点を取れる。レシーブで点を取ることは難しいけど、点を取るために、次の攻撃に繋げるためには欠かせない。
摩浪『だから面白い』
試合が終わりに近づく。そんな時研磨のツーアタック。俺は速く跳びすぎてしまい、赤木さんは前に出過ぎてしまったが、赤木さんの足レシーブでそのまま音駒コートに落ちる。
全員の集中が途切れることなく試合は進む。ネットインしたボールがチャンスボールになり返ってくる。上がったトスを俺は右手を振り下ろす。
またも研磨の嫌な返球。上げたと思ったら、俺が倒れたタイミングでダイレクト。足使って何とか拾うけどダメだった。
孤爪「しつこいねフフッ」
摩浪『ヤラシイ返球するよね笑』
笑ってた。俺も研磨も。
音駒はメンバーチェンジ(海→犬岡)
2人の反応の速さも高さも厄介。捕まるかなって思う部分はいくつかあったからね。
俺は犬岡の腕の間にスパイクを打つ。上手く抜けてボールが音駒コートに叩き落とされる。
灰羽「犬岡「バンザイブロック」だめだぞ!」
犬岡「ごめん!」
黒尾「得意げに言いよるわ(つーかそこまで「バンザイ」じゃなかったろうよ)」
ローテ回り音駒のサーブ。ピンサの手白はもう一度天井サーブ。レシーブは乱れたが、侑さんのセットから尾白さんの攻撃。
でも繋がれるボール。
孤爪「(ネット越える、叩かれる、どうする、オーバーネット誘う、リバウンドとる、戻す?)」
摩浪『(こりゃ上がるな)』
研磨のすぐ後ろで黒尾さんが跳んだ。
研磨が手を伸ばす。ワンハンドトスから黒尾さんのアタックがブロックを突破。だが後ろにいた赤木さんのレシーブで繋がる。
侑「摩浪!」
摩浪『(ブロック高い、位置取り的にも打つトコロが無い……、いや、あった)』
強打だけじゃない、まだある。俺がボールに軽く触れた時、研磨が前に出てきた。
侑「(よまれた!)」
孤爪「(殺った)」
摩浪『(切り替えろ、切り替えろ)』
前に詰めれば後ろが空く。ロングプッシュでボールをコートに落とす。落ちる前に研磨が軽く触れてた。体勢崩れたままだったから手も届かなかったんだと思う。
稲荷崎に点が入る。
音駒コートを見ると研磨が倒れてた。次の瞬間、
孤爪「たーのしー」
この言葉を聞いた俺は嬉しくなった。そして
摩浪『先に言わせたぞ!翔陽!』
稲荷崎&観客「?」
稲荷崎も観客もなんのことか分かって居ない。分かっているのは音駒と俺だけ。
言わせたった。勝ったよ翔陽。
〈俺と翔陽の勝負
【研磨に「別に」以外を言わせる】〉