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『忘れてまった君へ』

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『忘れてまった君へ』

20 - 第20話  『遊園地までの道中 〜ゾムの記憶をなぞる導線〜』

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2025年06月11日

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ゾムはロボロの少し前を歩きながら、

時折振り返っては「こっちやで」と、自然なふうを装って道を選んでいく。


ロボロはその背を見つめながら、どこか不思議な既視感に戸惑っていた。


「なあ、ゾム」


「ん?」


「……ここってさ、初めて来た気がせぇへん。なんでやろ」


ゾムの足がほんの一瞬だけ止まりかけたが、すぐまた歩き出す。


「そっか。懐かしいんやったら、ええことやん」


何気ないふうに返したつもりだった。

でも声がほんの少し、掠れてしまっていたのをロボロは気づいていた。


──昔、初めて一緒に行ったときも、この道で迷った。

途中の分かれ道、古びた自販機、錆びたフェンス越しの空き地。


どれも全部、ゾムの中では鮮明に焼きついている。


だけどロボロは、それらを目にしながらも、「思い出」に届かない。

ふと、フェンスの前で足を止めた。


「ここ、見たことあるような……でも……」


目の奥がじんわりと痛む。

何かが、心の奥底をかすめていった気がする。でも掴めない。


ゾムは黙ってロボロの隣に立ち、そのフェンスを見つめた。


「ここでな、当時、迷って疲れてさ。俺ら、缶ジュース飲んだんよ。

ロボロが当たりつきのやつ選んで、見事に外してな。めっちゃ落ち込んでた」


「……そう、なん?」


「うん。俺は当たりやったんやけど、交換してやったら、

“ゾムってやさしいなぁ”って言われてな。あんとき、めっちゃ嬉しかってん」


ロボロは黙ってその言葉を聞いていた。


何も覚えていない。でも、

その記憶を語るゾムの声が、どこか懐かしい音に聞こえた。


「ごめんな、覚えてへんのに……」


「ええって。思い出させたくて話してるわけちゃう。

ただ、“あったんや”ってことだけでも、感じてくれたらそれで」


そう言って笑ったゾムの背中は、どこか小さく見えた。


──記憶の片鱗は、確かにそこにある。

でも、完全に戻ることはまだない。

けれど、ロボロの胸にぽつりと灯った「この感覚が懐かしい」という想いは、

確かに今、ゾムに繋がろうとしていた。


遊園地のゲートが、遠くに見え始める。

2人の距離は、まだ縮まりきっていない。

でも確かに、あの日とは違う一歩を踏み出していた。


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