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ゾムはロボロの少し前を歩きながら、
時折振り返っては「こっちやで」と、自然なふうを装って道を選んでいく。
ロボロはその背を見つめながら、どこか不思議な既視感に戸惑っていた。
「なあ、ゾム」
「ん?」
「……ここってさ、初めて来た気がせぇへん。なんでやろ」
ゾムの足がほんの一瞬だけ止まりかけたが、すぐまた歩き出す。
「そっか。懐かしいんやったら、ええことやん」
何気ないふうに返したつもりだった。
でも声がほんの少し、掠れてしまっていたのをロボロは気づいていた。
──昔、初めて一緒に行ったときも、この道で迷った。
途中の分かれ道、古びた自販機、錆びたフェンス越しの空き地。
どれも全部、ゾムの中では鮮明に焼きついている。
だけどロボロは、それらを目にしながらも、「思い出」に届かない。
ふと、フェンスの前で足を止めた。
「ここ、見たことあるような……でも……」
目の奥がじんわりと痛む。
何かが、心の奥底をかすめていった気がする。でも掴めない。
ゾムは黙ってロボロの隣に立ち、そのフェンスを見つめた。
「ここでな、当時、迷って疲れてさ。俺ら、缶ジュース飲んだんよ。
ロボロが当たりつきのやつ選んで、見事に外してな。めっちゃ落ち込んでた」
「……そう、なん?」
「うん。俺は当たりやったんやけど、交換してやったら、
“ゾムってやさしいなぁ”って言われてな。あんとき、めっちゃ嬉しかってん」
ロボロは黙ってその言葉を聞いていた。
何も覚えていない。でも、
その記憶を語るゾムの声が、どこか懐かしい音に聞こえた。
「ごめんな、覚えてへんのに……」
「ええって。思い出させたくて話してるわけちゃう。
ただ、“あったんや”ってことだけでも、感じてくれたらそれで」
そう言って笑ったゾムの背中は、どこか小さく見えた。
──記憶の片鱗は、確かにそこにある。
でも、完全に戻ることはまだない。
けれど、ロボロの胸にぽつりと灯った「この感覚が懐かしい」という想いは、
確かに今、ゾムに繋がろうとしていた。
遊園地のゲートが、遠くに見え始める。
2人の距離は、まだ縮まりきっていない。
でも確かに、あの日とは違う一歩を踏み出していた。