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#魔界
「ただいま~」
「おかえりなさい、お兄ちゃん。お仕事お疲れ様です」
ここ最近は本当にお仕事が落ち着いているのか、本日も早めに帰って来た兄。
鞄を受け取ってから、そのまま食卓へ~といういつも通りの流れだったのだが。
「あれ?」
兄に渡した分のお弁当箱二つを回収してみれば、なんか……既に洗ってあった。
ついでに言うと、片方のお弁当箱にはぎっしりお菓子が詰まっているのだが。
「弁当サンキュな、夢月。早乙女さんも物凄く喜んでたぞ?」
「あ、もしかして……これ、早乙女さんから? お礼って事なのかな……なんだか、逆に申し訳ないけど」
「おぉ、そんな事してあったのか。給湯室で洗ってたのは知ってたけど」
どうやらお兄ちゃんも知らなかったらしく、詰め込まれたお菓子を見て驚いている様子だった。
あとでお礼言っておかないと、などと思いつつお弁当箱は一旦片付けて、お夕飯の準備を始めていたのだが。
なんというか、妙に頬が緩んでしまっているのが分かる。
今日は凄い一日だった気がする。
最近で言うと、お兄ちゃん以外にお弁当を作ったのなんて本当に久しぶりだったので、色々と不安もあったのだが。
早乙女さんも喜んでくれたって話だし、黒沢君も凄く美味しそうに食べてくれた。
食べている間は、慣れない環境という事もあって緊張しっぱなしだったけど。
けど、どれを食べても美味しい美味しいって喜んでくれたし。
また作っても良いかと聞いた時には、申し訳ないって最初は遠慮したものの、それでも食べたいって言ってくれたのだ。
やっぱり、自分が得意な事……という程でも無いかもしれないけど。
そういうので喜んでもらえるのは、嬉しいもので。
「なんか嬉しそうだな?」
「え? あ、うん。早乙女さんも喜んでくれたみたいだし、良かったって思って。また作っても迷惑じゃないかな?」
「むしろ泣いて喜ぶんじゃないか? 俺等が暇な時でも、結構忙しい人だからな。家に帰っても飯が無いって嘆いてるくらいだ」
であれば、明日も作ってみようか。
それこそ早乙女さんがどういう物が好きとかも知りたいから、明日お兄ちゃんに聞いて来てもらおうかな。
そんな事を考えつつも、本日も兄と二人でお夕飯を済ませるのであった。
◆
『本当に、ほんっとぉぉぉに、ありがとうございました。6keyさんの作ったお弁当、凄く美味しかったです』
「あ、あはは……いえ、そこまで大したものでは。兄から大変な職場だと聞いていたので、少しくらいお役に立てればなぁと……私に出来る事って、これくらいなので」
明日お兄ちゃんに早乙女さんの好み聞いて来てもらおう、なんて考えていたのに。
パソコンを付けたら、早乙女さんからすぐに連絡が来た。
なんか物凄く丁寧なお礼のメッセージが届いてびっくりしている内に、何だかんだで通話する流れに。
迷惑じゃないかな? 時間とか大丈夫かな? なんて心配していたのだが。
どうやら本日は相手も既に帰宅しているらしく。
いや、そうなるのと家に帰ってまでお仕事してるって事にならない?
早乙女さんと私の関係って、運営と賞金首プレイヤーな訳だし。
とはいえ相手が時間を取ってくれたのだから、無駄遣いする訳にもいかず。
「ぇと、早乙女さんは好きな物とかありますか? ご迷惑でなければ、また作りたいなって……ホント、迷惑だったら言って下さいね? 喜んでくれたって言われて、ちょっと調子に乗っちゃっているだけなので……」
『良いんですか!? 是非、是非お願いしたいです! いやもう本当に美味しかったので……あ、今度食費とか手間賃も渡しますので。白川君……じゃなかった、6keyさんのお兄さんにお渡しする形で大丈夫ですか?』
「お、お金は別にいりませんよ!? あ、でも食費を出してくれているのはお兄ちゃんだから……えっと、手間賃とかは要りませんので、そういう所だけ兄と相談してもらって良いですか? お弁当を作るくらいなら、全然負担でも何でもありませんし」
『クッ! やっぱりウチにも6keyさんが欲しい……一家に一人欲しい』
「はい?」
よく分からない事を言われてしまったが、どうやら早乙女さんに好き嫌いは無いそうで。
加えていうのなら、お弁当らしいお弁当というか。
むしろ“子供っぽいお弁当”とか食べてみたいというリクエストまで引っ張り出せた。
『この歳になると、むしろそういうので嬉しいって気持ちを思い出したくなる時が結構ありまして……アハハハハハ』
という、乾いた笑い声まで頂いてしまったが。
なるほど、子供っぽい……というか、“子供が喜びそうなお弁当”という事で良いんだろうか?
だとすると、普段より見た目に時間を使った方が良いのかな。
などと、話しながら献立を考えていると。
『あぁ、そう言えば。こんな時に仕事の話をするのはアレなのですが……丁度良いタイミングなので、お知らせしておこうかと。今度の“賞金首イベント”の内容……というか方向性ですかね? それが大体決まりました』
「うぐっ!?」
早乙女さんの一言に、思わず妙な声を洩らしてしまった。
は、早くないですか?
ついこの間、チームイベントやったばっかりなんですけど……。
いやまぁ、需要があって運営がやれというのならやりますけども。
『そう警戒しないで下さい、ずっと激しい戦闘イベントばっかりでしたからね。ここらで一度、ファンサービス的なオマケイベントを挟んでも良いのかなと、そういう議題が上がっておりまして』
「ふぁ、ふぁんさーびす?」
ちょっと私には縁が無さすぎるお言葉が飛び出したのだが。
早乙女さん、疲れているのかな。
多分それ、私が参加するイベントじゃないと思う。
などと、ちょっと本気で相手の事を心配し始めてしまったが。
『6keyさんは、ガンサバイブオンラインの“クラフト機能”ってちゃんと使った事ありますか?』
「くらふと……機能」
先程の言葉の印象が強すぎて、半分くらいしか頭が回っていない気がするんだけど。
もはやオウム返しの状態で、相手の言葉を繰り返していると。
『こんな殺伐としたゲームですけど、結構出来る事は多いんですよ? 是非その時にでも6keyさんの得意な事を披露して、より多くのファンを集めて下さいね。今でも、凄い人気なんですけど』
ごめんなさい、ちょっと意味が分からないです。
◆
「現太ー? おーい、ちょっとコンビニ行くけど、お前も一緒に行くか――って、どうした? 在庫処分でもすんのか?」
弟の部屋に、ノックしてから顔を出してみると。
何故か、床にモデルガンを幾つも並べている弟が。
どうしたどうした、結構大事にコレクションしていただろうに。
むやみやたらに買ったりはしていないみたいだが、ほんの少し前までバイト代が入ったりすると、あっちが欲しいこっちが欲しいと騒いでいたのも記憶に新しい。
もしかして、白川妹とのデート資金にでも代えようとしているのだろうか?
だとするとちょっと勿体ない。
後で返せば良いからと言って、俺が金を貸してやるべきか? などと、お節介を焼きそうになってしまったが。
「ねぇ兄貴……女の子でも扱いやすそうな銃って、どれかな……」
「落ち着け、弟。いいか? 普通は女の子に銃をプレゼントしようとしたりしないんだよ。ソレをやって喜ぶのは、一部の特殊女子だけなんだよ」
急に何を言い出しているんだコイツは。
モデルガン並べて、真剣な表情まで浮かべて。
「白川さんでも使いやすそうな武器、どれかなぁって。やっぱリアルで手に馴染ませた方が、本人も使いやすいって言ってたし」
あ~なるほど、やっぱり白川妹か。
んでもって、VRあるあるの逆転現象に陥ったって訳だ。
正直、アイツは強い。
だけども、あまりにも慣れている武器が“極端過ぎる”とは思っていたが。
あのシスコン兄の事だ、妹に同じ銃買い与えたな?
ハンドガンに関しては、運営から俺も貰った限定モデルのヤツだろうけど。
あっちもそろそろゲーム内で、そしてリアルでも売り出されるっていうから。
そのタイミングで弟にくれてやろうとは思っていたのだが。
「あれ? あの子確か、前にガンショップ行った時何かの銃に興味示した、みたいな事言ってなかったっけ? それで良いんじゃないか?」
「俺がスパッと格好良く、プレゼントをその場で買えると思う? しかもそんな事したら、白川さんが絶対受け取らない。間違いなく遠慮する」
「二人共ドヘタレがよぉ!?」
コイツ等は、コイツ等は本当に。
だってアレだろ? 放課後デートして、しかもその後もファミレスとか行ったって嬉しそうにしてたじゃねぇか。
だったらプレゼントの一つくらいズバッと渡しちゃっても良いでしょうがい。
いやでも、二人共高校生だしな。
万単位の買い物じゃ、お互いに気を使うってのも理解は出来る。
ならもっと安い物とかさぁ、どっか休日に連れ出して遊びに行って来るとかあるじゃん。
前に渡した金を自分の事に使い切ったって訳じゃないのなら、また協力してやるってのに。
休日は昼間っからガンサバやって、VRで好きな子と遊んでばっかいる場合じゃないでしょうに。
思わず溜息を零してしまい、呆れた視線でジトーっと弟を眺めてしまったが。
「でも俺から“貸す”って形なら、結構あっさり受け取ってくれたからさ。そういう方向で渡してみようかなぁって。やっぱそうなって来ると、小型のマシンガンとか探して……」
「おーい、貸す前提で新しい物増やそうとすんなー? 相手の為だけに買ったってバレた時、余計に気まずくなるぞー? それならプレゼントの方がマシだ。あと、自分の財布とよく相談しろー?」
声を掛けてみると、弟もソレは分かっているのか。
物凄く悩みつつ、グネングネン頭を抱えたまま奇妙な動きをし始めたではないか。
だぁから、ガンサバ以外で遊びに付き合ってやれって言ってんのに。
出掛ける誘いをして、向こうもあっさり付いて来るって事は嫌われては無い証拠でしょうに。
んで、シックスの性格を考えればコイツを財布代わりにはしていない筈。
弟から話を聞く限り、向こうも遠慮してばっかりみたいだしな。
「でもなぁ……こっちは貰ったのに、俺は“貸してる”だけっていうのも……なんか、こう、ホラ」
「へぇ? なんか貰ったのか? 割と上手く行ってそうじゃないか。どんなプレゼント貰ったんだよ、思春期高校生は」
ケラケラと笑いつつ言い放つと、相手からは「揶揄うな」とばかりにジトッと睨まれてしまったが。
いやぁ、良いねぇ、甘酸っぱいねぇ。
ちょっと趣味嗜好がミリタリーに寄っているのが、何とも言えないが。
でもあっさりと弟が貰って来たって事は、そこまで高い物じゃ無いだろうし。
もしかして、向こうの兄とどこかに出掛けたお土産とかか?
とか、思っていたんだけど。
「お弁当、作って来てくれて……しかも、滅茶苦茶旨いの。ビックリしたよ、マジで。お弁当なのに、店で出されるヤツより旨いって思っちゃったもん。作り立てとかだったら、どれだけ旨いんだろうって思っちゃうくらいに」
「……は? ちょっと待った、お前弁当作って貰ったの? 付き合っても無いのに、高校生の女の子が、お前にわざわざ作ってくれたの?」
「う、うん。これまでのお礼だって言って……明日も、作って来てくれるって。毎日じゃないけど、たまにならって……そう、言ってた」
うん馬鹿野郎、少し待て。
今時居ねぇよ、というかそんな女子都市伝説だよ。
そういう子っていうのは、現実には生息してねぇのよ、恋愛漫画かラブコメの世界の住人なのよ。
だというのに、だというのにコイツ……コイツは。
そんな事までされて、まぁぁだウジウジやってんのか?
え、ウチの弟……本当に大丈夫?
仄暗い青春を送った男性諸君に知られたら、多分賞金首以上に狙われるぞお前。
「だから、こっちもそのお礼と言うか……何か、力になれたらなって。俺が知ってる限りだと、やっぱガンサバに協力する事くらいしか出来ないからさ……明日もただお弁当貰うだけじゃ、流石に悪いなって」
付き合っちゃえよ! もう!
普通高校生で付き合っても無い女の子から、弁当とか作って貰えねぇのよ!
いや彼氏彼女だったとしても、そんな事頼めば面倒だって思われんぞ!?
だって学生ですからねぇ、男女ともにお付き合いしたって遊び優先のお年頃ですからねぇ。
むしろ弁当なんて、自分で毎朝作る高校生も少ねぇよ! 物凄く稀だわそんな奴!
白川兄の方をシックスだと思い込んでいて、そっちに認められる為に~とか言って、俺に狙撃の教育を求めて来たけども。
ちっげぇのよ! お前がまず頑張るのは、ゲームじゃねぇのよ!
「ウチの弟……ホント馬鹿」
「なっ! 酷くない!? これでも必死に考えて――」
「あーはいはい、一回その回りくどすぎる思考回路止めろー? ホラ、コンビニ行くぞー。菓子でも買ってやるから、甘い物食ってもっとよく考えろー? もうアレだ、面倒くさいからスパッとデートにでも誘え。んで休日に二人で遊んで来い、ハイ解決」
「で、出来る訳ないでしょそんな事!」
「はいはいヘタレヘタレ。良いから片付けろー? 行くぞー?」
という事で、並べたモデルガンをとっとと片付けさせるのであった。
このお馬鹿に、一回ガンゲーばっかりじゃなくて、恋愛趣味レーションでもやってみなさいとアドバイスすべきか。
いやぁでも、あぁいうので変な恋愛知識付けられても余計拗れそうだしなぁ……。
やはりこればかりは“経験”になるので、なんとも言えないが。
思春期の取り扱いって、本当に難しいなオイ。
あとシックス、おいシックス。
お前裏表あり過ぎて大人でもびっくりするレベルだぞ。
その良妻スキル前面に出したら、絶対周りの男が放っておかないだろうに。
なぁんでウジウジしつつ自信無い女子高生やってるかね。
最近の若い子って、本当にわっかんねぇ……。
コメント
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わあ、このエピソード、すごくあたたかい気持ちになりました……! お弁当を喜んでもらえた嬉しさと、黒沢君のド真剣なモデルガン選びが対照的で、もう微笑ましくてたまらなかったです。特に、黒沢君のお兄ちゃんの「付き合っちゃえよ!」のツッコミが最高で、思わず声出して笑っちゃいました(笑)。早乙女さんからのお菓子のお礼も、兄視点の冷静なツッコミも、キャラの関係性がじんわり伝わってきて素敵な回でした。