私の勤める会社は『文映堂』という大手広告代理店。
25歳の私、森咲 恭香(もりさき きょうか)は、ここでコピーライターをしている。
まだまだ新米で勉強中だ。
覚えるべきことがたくさんあって、何とか必死で頑張っている。
背中まで伸びた少し茶色の髪をアップにまとめ、見た目は……たぶん普通。特に目立った特徴もなく、性格も至って普通だと思う。
同期の夏希は、アシスタントカメラマン。
こちらも駆け出し。
子供の頃からいろんなものを写真に収めるのが大好きで、この会社に入るのが夢だったらしい。
私が思いを寄せる嶋津 一弥(しまず かずや)先輩は、グラフィックデザイナーでありWebデザイナーも務める27歳。
私達の2年先輩だ。
仕事においてかなりの才能があり、人間性も良いので、先輩への信頼はとても厚い。しかも、ものすごくイケメンだから社内にファンも多い。
サラサラした黒髪で、二重の瞳、黒縁のメガネがとても良く似合っている。
広告代理店に入りたての頃は、まさかこんなにも好きになれる人ができるなんて思いもしなかった。
私がここに入社したのは、ただひとつの夢を叶えるためだった。
テレビの中の超一流のモデルや俳優を見て、世の中にはこんなにも素敵な人たちがいるんだと思った。
この人たちを自分が手がけるCMやポスターでもっともっと素敵にキラキラ輝かせたい――
いつしか、そんな夢を抱いていた。
超有名な大手の会社だけに倍率はかなり高かったけれど、奇跡的に入社を勝ち取り、今はコピーライターとして夢を少しだけ実現させることができた。
もちろん、甘い世界ではない。
失敗することもあるし、仕事がうまくいかないこともある。だけれど、悲しい時、つらい時、いつも優しい先輩が励ましてくれたから、ここまで頑張ってこれたと思う。
スタイルも良くて顔もカッコ良い一弥先輩。
ふと見せる笑顔がすごく可愛いくて……
気づけばよく先輩のことを見てドキドキしていた。
なのに、いったい私は、これから何を励みに生きていけばいいのだろう。
少し大げさだろうか?
でもきっと、それぐらい私は一弥先輩が好きだった。
やっぱり、先輩を忘れるには仕事を頑張るしかないのだろうか。
本当に……仕事に打ち込めば、忘れる事ができるのだろうか?
そんなことを考えてるうちに、チームを組んでいるメンバーが続々と部屋に集まってきた。
かなり広めのミーティングルーム。
内装はずいぶんオシャレで、一人ひとりのテーブルとイスもあり、会議用の円卓やくつろげるソファもある。
16階のせいか、大きめの窓から十分な明かりが入ってくる。
仕事場なのに景色も良く開放感があり、夜になると都会のキラキラした街並みが見下ろせて、まるでデートスポットのようだ。
個々の様々なアイディアがかき立てられるような、とても良い仕事場だと思う。
「みんな、早く集まって。さっさと朝礼始めるぞ」
チームの指揮を執る上司は、アートディレクターの石川良介さん、47歳。
普通の会社で言えば課長クラスになるのだろうか。
統率力はあるけれど、正直、私はあんまり……好きではない。
「おはよう。みんな集まってるかな。今日は午前中にクライアントとの会議がある。私と嶋津君、それから森咲さん、以上で対応する。それが済んだら全員でミーティング。よろしくお願いします」
「はい!」
こんな感じで、毎日の大まかなスケジュールが決まっていく……
「すみません! 遅れました」
その声と同時にドアが勢いよく開いた。
えっ!?
だ、誰なの?
この、ものすごく破壊力のある超イケメンは!
「ああ、本宮君か。さあ、こちらへ来て自己紹介をしてもらえるかな?」
石川さんが呼んだその人は、本宮さんという名前。
うん……本宮?
うちの社長と同じ苗字だけれど……
「遅れてすみません。初めまして、本宮 朋也(もとみや ともや)です。27歳、カメラマン。これからこちらでお世話になります。どうぞよろしくお願いします」
話し方は落ち着いていて、物静かなイメージ。
それにしても、見た目はモデルか俳優のようだ。
「本宮君は社長の息子さんだ。今までいろいろなところでカメラマンとしての技術を学んで、いよいよ我が社に戻ってこられた。まずは、今度うちのチームでやるプロジェクトに参加してもらう。本宮君、浜辺夏希さんがアシスタントカメラマンで付くのでよろしく頼んだよ」
やはり社長の……
ということは、この会社の御曹司!?
「あ、はい! 浜辺夏希です。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
急な指名に夏希は慌てている。
こんなに戸惑っている夏希を見たのは初めてかもしれない。
いきなりこんなとんでもないイケメンのアシスタントについてと言われたら、誰だってびっくりするだろう。
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