わんさかとポケットから溢れんばかりの飴玉たちが、まるではしゃぐ子供に与えられているようで、ぐち逸はむっすりしてしまう。伊藤刑事が、「ぐち逸、ほら」と、ドクロマークの包み紙に包まれた飴を差し出す。一瞬、地面に叩きつけてしまいたくなったが、食べ物に罪はない。飴を口に放り込み、ゴミは渡した人に突き返す。
受け取れ、それが報いだ、せいぜいガサガサの包み紙でポケットを圧迫してしまえばいい
「ありがとうございます。でも子供扱いはやめてください。そしてこの飴、美味しいですね。どこのですか?」
そう、季節はハロウィーン。ちいこいかわゆいオバケたちが、お菓子を強奪する祭りの日。死んだ人がよみがえる日。
元々サヴィン祭りといって死者を迎える日で、日本で言うお盆らしい。
街中はジャック・オー・ランタンや、おどろおどろしくも可愛いオレンジと黒のガーランドが街中を彩り、ハロウィーングッズが並び、なんだか楽しげだ。
窓の外を飾る、ひらひらと舞うコウモリのデコレーションに目を細める。
そして、楽しむ人がいるということは事件も起きるもので、先ほどから見知った番地から通知も来ている。
しょうがないと飴をかみ砕き飲み込む
「向かうか」
バイクのハンドルを握り、無免許ー!と叫ぶ、カボチャのお面を被った黄色の警官の声を風を切り裂き走らせる。
さっき取り締まれば良かっただろうに、わざわざ人命を無視して戻ってやる義務などないのだ。
バイクで走らせ急ぎすぎ、街角のゾンビの飾り付けに気を取られてぶつかってしまった為に、身体に包帯を所々巻きながら現場に到着。
見た目はまさに、ミイラに扮したマミ逸である。
現場には、あっという間にコンクリートとオトモダチになっている、特徴的な髪をした男性。そして、取り囲むわちゃわちゃとした、魔女の帽子を被ったウサギを肩にのせるピンク色の人。
レダーさんとケインさんだ。
「ほらレダー!! 絶対ぐっさん、5分以内に来てくれるって!」
「うわーぐち逸、遅れてこいよ!」
「うぇーいレダー!期間限定カボチャプリン!」
「はぁーマジかぁ」
人を勝手に賭けの対象にしていたらしいレダーさんは、しぶしぶ財布を掴みちらりと一瞥。なんだその目は。
「勝手に賭け事の対象にしないでください」
こちらは馬でもなんでもないのだとムッとする。
「しゃーない、ケイン行くよ」
「荷物持ちですね、了解しました」
二人がのそのそ出ていったのを確認し、放置されていた音成さんを治療する。
「あー打撲ですね、直ぐ治ります」
にっこりと笑ってやると、安心したのかひきつった笑みを見せる。彼の怪我は恒例行事になりつつある。
「ありがとー」
本当に懲りない人だ。
「ぐちゃぐちゃなのを今治してますからね」
「それは言わなくてエエよ」
苦笑いをしているのを横目にちゃっちゃか治し、請求を…待て、手をお金マークにして音成さんの前へ。
「音成さん、あります?コレ」
「あーない!」
「安くしときますね」
「ありがとー!お礼に飴ちゃんあげるわ」
「頂きます」
コロリと手に落とされたカラフルな包み紙を開くと、紫色の飴。血をイメージしたブドウ味だろうか?ラズベリーかもしれないし、ブルーベリーかも。
カロッと口にいれると、ブワッとスミレの香りと甘い蜂蜜のような味。なんとも言いがたいそれをコロコロ、ガリッと噛み砕く。単体で食べると正直キツさはあるが、徐々に癖になるというかなんというか。
神妙な顔をする私に、音成さんがにっこり笑う。
「それ、夕コに貰ったんやけど割と嫌いじゃないんよ。ハロウィーン限定の魔女の媚薬ってやつや」
「まあ、好みはありますからね」
「合わんかったかー!んじゃホイ」
渡されたチョコレートは棒つきで、にっこりとカボチャが笑っていた。
「子供扱いしないで下さい」
レダーさん達が来るまで後30秒、しぶしぶ彼らと一緒にハロウィンを楽しむのもいいだろう
道端に飾られた
カボチャがニヤリと笑った気がした
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