テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「勿論だよ。ゆっくり回って、何かつまむか?」
「はい! すぐお腹整えます」
「……やめろよ。だんだん人間に見えなくなってくる……」
「失礼ですね。こう……、立ってピョンピョンとジャンプしたら……」
「フードファイターか」
私たちはそんな会話をしながらドライブを楽しみ、宮島口へ向かった。
車を停めたのは、JR宮島口近くの駐車場で、尊さんは混み合うのを予想して予約していたらしい。抜かりのないミコだ。
「尊さん、あれなんだろ。おじさんいる」
私は駅前にある銅像を指さす。
銅像は金色の仮面を被り、チンギスハンみたいな金色の帽子を被って、中華系の緑の服を着ている。
|「蘭陵王《らんりょうおう》な」
「ん? 王様?」
「中国の|北斉《ほくせい》頃の皇子で、わずか五百騎で周の大群に勝った名将で、物凄い美形だったらしい。味方の兵までその美貌に見惚れてしまうから、仮面を被って戦に出ていたと言われている。ちなみに三十三歳で没」
「へええ……! 会ってみたかった」
「ニアミスしたみたいな言い方するなよ」
尊さんはケラケラ笑う。
「で、中国の皇子様が、どうして宮島に?」
「今の要素だけでも十分に話題の種になるだろ? 当時の人たちも同じ感覚で、舞楽というジャンルで蘭陵王の話を伝えていったそうだ。それが中国から日本に伝わって、平清盛が楽所を大阪の四天王から宮島に移してから、ここで他の演目と一緒に演じられるようになったらしい」
「すみません、先生。楽所とは?」
私は小さく挙手して尋ねる。
「昔から、貴族は笛などの音楽を嗜んでいたり、偉い人のために音楽を奏でる係がいたのはOK?」
「OK」
「お内裏(だいり)様の内裏は、ざっくりと昔の天皇の住まいを指すけど、内裏で|楽人《がくにん》が偉い人のために演奏をするが、楽所そいつらの控えの場所みたいなもん。音楽を奏で、舞うのは立派な仕事で、育成のための機関が作られて、偉い人に見せるために色んな曲や演目を学んでいったわけ。プロフェッショナルの楽人たちは世襲制で芸を受け継いで|楽家《がっけ》と呼ばれる家系も生まれていった」
私は蘭陵王の像を写真に撮りつつ、尊さんの説明を聞く。
「神様に奉納される色んな演舞があるが、その中に蘭陵王の演目もあって、人気がある……ってトコじゃないか?」
「ありがとう。ミコペディア」
「コンニャロ。家に帰ったらお前のシリに聞いてやるからな」
「やだも~。セクハラ~」
「セクハラとか言うなよ。立場的に毎日ビクビクしてるんだから」
「ひひひ。弱みみーっけ」
私たちはそんな会話をしつつ、フェリーのターミナルに向かう。
途中で立派なあなごめしのお店を見つけ、ピーンとセンサーが立った。
「はいはい、分かった。あなごめしな」
何も言わずとも、尊さんは私が見ているもので理解してくれる。
フェリーに乗る前にお土産屋さんを覗いていたら、一面の赤い野球チームのグッズがあったり、もみじ饅頭も普通の餡子だけじゃなく、チョコやクリームなどもあるし、チョコでコーティングされたのもあった。
お土産は帰りに買うとして、時間が迫ったのでフェリーに乗る事にする。
十分の道のりの間、私は好奇心のまま階段を上がっていく。
七月で暑いけれど、海を見ているとなんだか涼しく思えるから不思議だ。
「尊さん、なんか浮いてる」
海の上に木か何かがあり、私はそれを指さす。
「多分、牡蠣の養殖か何かに使ってるんじゃないか?」
「なるほど。牡蠣は美味しい」
「……なんか、お前と話してると、胃袋と会話しているように思える」
「アカリン・ストマック・ウエムラ」
「……いかん。アメリカに移住したら、バケツみたいなアイス食ってそうだ」
「私は日本食が大好きなので、日本から離れませんよ~」
「俺も和食好きだけどな」
そんな会話をしていると、フェリーはあっという間に宮島に着いた。