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また、やってしまった()
※この作品には(多分)全体的に不快と思わせる部分や、ショッキングな表現がされています。検索してはいけない言葉オールスターと合コンしてる様な感覚になるので合コンが苦手な方は逃げて下さい。
「愛って何?」
なんて、くだらない。
なんてくだらない。
あーあ。
くだんないね。
…気怠げにあしらわないと生きていけない私が、
一番、惨めで、くだらないのに。
部屋の姿見を見る。
今日も変わらず「私」が写る。
金髪碧眼、小さく幼い身体、いつも通り。
どう見たって、ここには一人しか居ない。
素肌には未だ九年前からの傷が残っている。
殴られた蹴られた切られた、諸々。
内側は最早、人間の形をしていない。
昔、「女の子なのに可哀想」だと言われた。
殿方なら、可哀想ではないのだろうか。
気になって仕方なくなったので、あれ以来
他人に言うのはやめた。
前の壁に手を当てて、姿見をじっと見つめる。
あの時の、女の子らしかった私とは面影も無い。筈。
傷の位置だけが、確かめる頼りか。
…私もあの子みたいに、見てみたい。
白昼夢を。
戻れる筈の無い精神逃避行。
一度逃げたら、戻れない。
私が崩れる
薬を飲む様な感覚
視界が暗くなる。
あ
ああ
あ……?
……………
………………
────────
見慣れた小窓に桜が落ちる。
風に吹かれてこの部屋に舞い降りた。
外を見れば、明るい桜で埋め尽くされていた。
うちの庭だ。“此処”に来る前は彼処でよく遊んでいた。
そして、桜に覆われて見えなくなった一つの木、
月下美人。一年に一度程咲く、大きな白色の花。
昔お父様に連れられて一緒にみた事がある。
あの花を。
お父様は花をこよなく愛した。
特に、あの庭に佇む、月下美人を。
お母様は、あの花だ。
あの花のように白い。
そういう病気だ。アルビノの比ではない。
生まれた時から、白く成りつつある。
いつかは骨に成る。
そんなお母様を、お父様は救った。
…救った?
お母様の病状を、遅らせた…?
そんな筈は無い。
寧ろ早めたのだ。
白く成る様子を、精密な機械の歯車を見つめる様に、
一つ一つ、舐め回すように、
あの人はお母様を自分の作品だと思っているのだろう。
───────
齢五つ
私の髪はまだ、金色とは言えない枇杷茶色だった。
そうだ。私も同じくあの人の「作品予定」だった。
最早、娘ですらない。
ならば私も内心では貴方を父とは認めないでいよう。
当時の私はその位で済んだ。
只少し、「父」を嫌う程度。
それ以外は家族達と楽しく暮らしていた。
私が未だ家に住まうハリボテに仮初に愛されていた頃。
部屋に戻る。
大量の玩具や家具が部屋を埋め尽くしている。
私の部屋。捨てるものは無い。
戸を叩く音がした。
「どうぞ」
戸が開く。
すると、一人の男児が入ってきた。
「こんばんは。」
「あら、お兄様でしたか。」
私のお兄様、
お兄様。ちょっとばかり私に対して心配性。
外に出ようとするといつも付いてくる。
黒髪に黒目、と言いたいところだが、瞳は少し青に近い。
綺麗だなぁ、と思いながら見ていた。
「ん?どうした、いい事でもあったのか?」
「んーん、お兄様の青くて綺麗なお目々が好きなの」
「ははは、ありがとう。」
「それで、どうしたんです?」
「ああ、そう。お前の意見も聞きたくて。」
「?はい、何でしょう」
お兄様は一瞬にして、真剣な顔になったので、
私も真面目に聞く事にした。
「お父様を、“どう思う”?」
「…!」
お父様。私達のお父様。
彼をどう思うか。
きっとお兄様も気付いている
お父様の気色悪い違和感。
泥沼に手を突っ込むような、不快感。
同時に、探ってはいけないもの。
でも、気付かないフリをしたら、
お兄様を裏切る事になってしまう。
正直に応えよう。
「…余り、触れたくはない方、ね…。
…正直、私は…好きではありません。」
「うん、うん。ありがとう。よかった。
お前はそう言ってくれると思ってたよ。」
お兄様はほっとした顔で私の頭を撫でた。
人の嫌味で同情するのもどうかと思うが、
ここは少しばかり、仕方ない。
誰が見たって、
可怪しいのはあの人なのだから。
「俺もあの人は狂ってると思うよ。
女中らは何も言わなかったけど、皆、心の中では
思ってんだ。お父様は異常者だと。」
「…。」
「判ってるだろ、
お母様の病気の症状の進みが、
段々と早くなっている事に。
お母様、もう足が動かないって…。」
「……。」
「………お前も…
そんな髪色じゃ無かった。
俺と同じ、黒髪で…」
「………。
お父様が私を“愛さなく”なったら、
どうなるでしょうか。」
「え?」
私が今までお母様の病状の進行を
黙っていた理由。
「お兄様はこの家の跡継ぎとして、大切に育てられている
ものの、方や私はお父様が後に愛す為の花、
玩具ではないですか。」
病気の娘をわざわざ嫁に入れる所だって、
大分限られる。
「……」
「私がお父様に愛される唯一つの理由は、
私がお母様のように白くなるから…。
それが無くなったら、」
私の病状が止まってしまったら
私がお父様に「愛されなく」なったら
「私はどうなるでしょうか…
私は…誰に…」
「……
俺は………」
私がお兄様とお母様以外、誰にも愛されていないのは
とっくに解っていた。
誰もが私を見て、哀れや顰蹙や、期待される事もなく、
只私は、上辺だけ、溌剌と取り繕っていた。
もう正直、二人でこの家を出て行きたかった。
二人で、死ぬまで…何処かへ。
だが、そうするには余りにも壁が在りすぎた。
「お兄様……。
何処にも行かないでね…」
「…うん。」