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「延長は倍額、プラス深夜手当。妥当なところだ」


延長は倍額の10万円?

深夜手当が1時間に5万円?

明らかに多いんですけど……


「…電話して……いいですか?」

「どうぞ」


そう言った男が向かいに座って、ソファーにゆったりともたれる。

もう私に触れるつもりはないようだが、あまりにじっと見つめられ、私はそっと珈琲を男の方に置いた。

ふと、男の表情が緩んだ気配がしたけれど、電話が繋がったので男を見ることもなく


「もしもし…」


とだけ言う。

電話番号で私だと分かっているはずなので、男の前で名乗らない。


‘はい。あと10分ほどですが、もうお迎えでよろしいですか?’

「伺いたいことがあってお電話しました」

‘はい’

「お客様が、延長は倍額、プラス深夜手当という支払いを申し出ておられるのですが、そこの料金設定を確認していなくて……すみません」

‘それでいいです。受け取ってください’

「ぇ…深夜手当なんて…元々、深夜のお仕事…」

‘お客様の前でそれ以上は失礼になります。受け取ってください’

「はい、すみません」

‘10分後に降りて来てください’

「はい。お願いします…」


そう言いながらスマホを耳から離し、男を見ると


‘あってるだろ?’


と言わんばかりに首を傾げ、相変わらず視線は真っ直ぐに私を見ている。


男の引き締まった身体にはスーツも似合うだろう。

動きを見ていると、姿勢と体幹がいいと感じるから、きっと何らかのトレーニングをしているはず。


視線を交わしながらも男の体のことが思い浮かぶのは、私自身が自分の体のバランスがとても気になるからであって、男の体に特別な興味がある訳ではない。

スクールでも男女関係なく、美しい筋肉は日々見ているからね。


「はい…失礼な確認をして申し訳ありません」

「ここにいるということは金がいるんだろ?でも、わからない金を掴むのは嫌」

「はい」

「はっきりしていて俺好みだ」

「…そうですか…生理的に無理な人が来なくて良かったですね」


もうこれ以上、話をする必要はない。


「迎えが来ますので失礼します。ありがとうございました」


立ち上がって、ステージのように深くお辞儀をすると、上体を起こした時には……男に優しく抱きしめられていた。


男は私の頭をそっと抱えて抱き寄せ、まだ湿っている髪を小さく撫で…何か言うのかと待ったけれど、何も言わない。


「ぁ……の…」

「ん、送る」


送る?

今抱きしめながら半分寝ていたの?

寝ぼけてる?


バスローブ姿で私の手首を握って玄関まで歩く男の形のいい耳を見ながら、右耳にピアスホールが2個って私と同じだな、と思う。

そしてバスローブで送るって、玄関までのことだったのかと理解して、寝ぼけてると思ってごめんなさいと心の中で謝った。


が、


カチャ………


ん……?出るのは私なんですが…


「履けたか?」


手首を握ったままの男がかかとのないスリッポンを履いてドアを開けたので、思わず立ち止まった私は普通の感覚だと思う。

でももう話をするつもりはないし、下には迎えが来ているからいいやと思ってドアから出た。

そしてすぐ目の前にあるエレベーターのボタンを押した男が


「ここまでだな。1階までどこにも止まらないから大丈夫だ」


私の手首を引くと、軽く抱きしめてからエレベーターに乗せてくれた。

そういうことか、と理解した時には扉が閉まりきる寸前で、私は慌てて頭を下げる。


来た時には緊張していて気づかなかったけど、最上階のワンフロア全てが男の部屋で直通のエレベーターは最上階と1階と地下にしか止まらないのだろう。

だから、あそこまでバスローブで出ようが、全裸で出ようが問題ないのだと思う。


「お疲れ様でした。どうぞ」

「ありがとうございます。追加で頂いた分のうち、どれだけをお渡しすればいいでしょうか?」

「全部取っておいてもらって大丈夫です」


お迎えの人はそう言うけれど、この人も1時間延長業務のはずで、いくらか渡さないといけないと思うけど……


「本当に大丈夫ですから取っておいて下さい。ご自宅まで送ります」

「…お願いします…」

Kingの寵愛 ~一夜のお仕事だったのに…捕獲されたの?~

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バスローブ姿に引き締まった身体、形のいい耳の右にピアス2個のこの男は一体… ただのお客様ではない、彼女を気に入ったとかではなくて、ちょっとした行動に気持ちが想いがあるように感じる。

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