私、大島才花はプロダンサーとして活動はしていないけれど、アルバイト程度の仕事は受けることがある。
プロになった知り合いも多い。
だから芸能人と繋がりのある人も多く、そういう人たちからこの仕事を伝え聞いたのだが…まあいいか、もう二度と登録することはない。
「ありがとうございました」
「お疲れ様でした」
これで終わりだ。
車から降りてハイツという名前の古いアパートの2階への階段を音を立てないように上がり、バッグから手探りで鍵を取り出しながらアパート前を見下ろすとまだ車は止まっている。
次のお迎え待ちだろうか?
暗い部屋に電気を点けてから、今日受け取った30万円を畳の上に並べる。
あの男はいつもこうして女性を抱くのだろう。
だから料金設定までよく知っていたんだね。
立場によっては本当に快適なシステムだもの。
お金持ちや有名人ほど不自由なこともあるのだろう。
これで航空券と宿泊ホテルの予約が出来る。
これも慣れた作業だからそれほど時間はかからない。
今やってしまおう。
スクールの先生がアメリカ人なので子どもの頃から英語だけは一生懸命勉強した。
教わるのはダンスで、先生も踊って見せてくれるし、先生も日本にいるうちにカタコトの日本語は話せるようになったから必要か?と言う人もいたけれど、私は先生の体感や表現をダイレクトに感じたかったから、英語だけは習得した。
それに、世界大会を目指すなら周りとのコミュニケーションに英語は欠かせないツールだから。
アルバイトとレッスンの毎日、週に二度は叔母の家で夕食を食べる。
これが私のここ4年間の日常生活だ。
アルバイト先はセルフの郊外型カフェ。
表は大きな通りに面して駐車場がある。
私は最初、幹線道路に面していると思っていたのだけれど、これは幹線道路と住宅地を結ぶ生活道路だとパートさんが教えてくれた。
生活道路はどんなに広い道路でも、国道や市道を経由して駅などにつながるので幹線道路と言わないらしい。
そしてカフェの裏には用水路があり、カフェと用水路の間にはパラソルの立つテーブルがあるので店内でも外でも、テイクアウトでもオーケーというカフェだ。
私は基本的にここで7時から15時まで働く。
「いらっしゃいませ、こんにちは」
「才花ちゃん、お疲れ様。ラテ、Mサイズでお願い」
「ラテはフォームミルク多めですか?」
「分かってるねぇ、お願い」
「かしこまりました。460円になります」
隣のお弁当屋さんの店長さんはいつも来てくれるのでお好みは把握している。
ここで4年以上アルバイトしているので、顔見知りのお客様も多い。
彼女はラテを持って外に出ると、いつもお弁当屋さんの裏にあるテーブルに行って休憩する。
どこの商品を食べてる、飲んでると、お互いの店が厳しく注意していないので、カフェの裏でお弁当を食べている人もたまにいるが皆が容認している。
そこから夕方はスクールに通うのだ。
スクールでのレッスンは大変なことも多いけれど、結果的に楽しいと感じることの方が断然多い。
達成感や爽快感というのも、私は家庭や学校でではなくダンススクールで覚えた。
メイクやヘアアレンジなども同じように、家庭や学校でではなくダンススクールの先輩や仲間とあれこれ実践する中で覚えた。
中学卒業まではチームで大会に参加していた。
チームの皆でお揃いのコーンロウにしたり、衣装に合わせてネイルをして、そのまま学校に行くので先生には怒られたり、同級生や先輩がいろいろ言うこともあったけれど、週末の大会前に仕上げているので‘すみません’‘ごめんなさい’で済ませていた。
我ながら、口では謝っても堂々としていたと思う。
そのうち‘大会前なんだね、頑張って’と言ってくれる人が何人か出来た。
大会が終わると‘大会の公式配信で見たよ、カッコ良かった’と言ってくれる人が何人か出来た。
もちろん悪口も言われ続けたけれど、校則というものがある限り仕方ない。
日本の義務教育の場は、目立つ者は叩くという現場なのだから。
高校生になると、ペア部門にもチャレンジしたあと、今はソロでのエントリーだ。
大会前の緊張感と高揚感は、心地良く感じる日と食事がつらくなるほどのプレッシャーに感じる日を交互に運んでくる。
それはずっと変わらない。
それでも、今年も自信を持って準備をしている。
夢みる優勝が現実になるという自信は、ある日突然持てるものではないから日々努力だ。
コメント
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才花ちゃんは幼少期から踊ってて、その中で成長してきたんだね。学校は…そう校則ね💦でも堂々としていたから周りも応援してくれるようになってったと思うし、ずっと続けるって並大抵な事じゃないのよ。素晴らしい✨できないのよ、ほんとに。しっかりとした目標があって、ダンスは才花ちゃんの一部、才花ちゃんそのものだね!断然応援したくなるよ(ノ*>▽<)ノ{ガンバレ~!! だからあのバイトについてはなんともも思わないし批判なんてない。通常のバイトも続けてて、それは日々のルーティンの一つになってるから崩さない方がいいね!そう!日々の努力!それしかない💪