Side黒
「北斗、俺気づいてるぞ」
何に、と思ったときには樹はもう歩き出している。
「ちょっ、待てよ」
腕をつかんで引き止めるが、口の片端を上げて笑うばかり。
「――今日、俺ん家来い」
また耳元に顔を寄せ、言った。
その後は別々の仕事があったため、体が空いたのは夜になった。
マネージャーさんの車に乗り込むと、「樹の家までお願いします」
え、と案の定驚いて振り返ってくる。「何でですか?」
「誘われたんですよ」
珍しいですね、と言って車を発進させる。
樹がなぜ誘ったのかは、だいたい察しがつく。きっと既にわかっていて、その話をするのだろう。
でも本当に同じ気持ちなのか。断られるのではないか、と不安がつきまとった。
インターホンの電子音のあと、聞き慣れた樹の声がする。
「今開ける」
なぜだろう。何回か行ったことのある家なのに、ずっと一緒にいるメンバーなのに、心臓の鼓動が速くなる。
ガチャリとドアが開き、樹が顔を出した。
「どうぞ」
手で促され、「おじゃまします…」と他人行儀に玄関をくぐる。
「ごめんな、急に誘って」
「ううん。会いたかった」
言ってから、はっと息を呑む。おかしなことを口走ったと思った。
でも樹は笑っている。
「……ねえ、気づいてるって何に?」
樹はそれには答えず、ソファーを勧める。黒い革張りの、いかにも彼らしい調度品だ。
隣に座ると、腕を肩に回してきて少し動揺する。
最近は散々冷たい態度を取られていたのに、何だこの距離感は。
脳内が思考でぐるぐるしていると、やっと樹が口を開く。
「北斗、俺のこと好きだろ」
いきなりの、そしてドストレートな言葉にぎくりとなる。やはりバレていたのだ。
言葉を発しようとした俺の唇を、樹の人差し指がふさぐ。
「俺も好き」
驚いて顔を見返す。
その瞳は、まるで獲物を狩るライオンのように鋭くて力強い。
「…北斗が俺にアピールしようとしてるのに気づいて、泳がせてた。子犬みたいで、かわいかったなぁ」
そこでやっと我に返り、「何だよお前…ずるいぞ」
「お前こそ早く言ってこねーのが悪いんだよ」
男同士の屈託のない言葉が交わされる。
これでもいいんだ、と思えた。受け入れてくれた、というか先を越されていたことにどこか安心する。
「じゃあ、別に嫌いになったってわけじゃない?」
俺の問いに、「はっ?」と真剣な顔で訊き返される。
「だって最近めっちゃ冷たかったじゃん」
「ああ…。それに関してはごめん。ふてくされる北斗がかわいくて」
何だ、とため息を漏らした。いらない心配をしてしまったようだ。
「じゃ…行こうか」
恐らく寝室だろう方向を指さし、片頬を上げてニヤリと笑う。ああ、こういう笑い方がずるい。
立ち上がったときには、もう服を脱ぎ始めている。
細いけれど筋肉質な上体が露わになった。
シングルベッドはまさにシンプル。意外とシーツが真っ白なことに驚く。
「北斗の体格、好きなんだよな」
俺も、と言おうとしたが樹に押し倒される。
確かに樹なら上側かもな、なんて絶妙に腑に落ちる。
そこで、ファーストキスすらしていないことに気が付いた。それをぶっ飛ばしてベッドまで来るなんて、まあ樹らしい。
「あとお前の低い声も好き」
どっちも低いけどな、と笑うと、
「北斗のほうが低音出るじゃん」
今夜はたっぷり浴びせろよ、なんて言うから、
「ああ」
騙された分を取り戻してやる、とほくそ笑んだ。
終わり
コメント
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主様の小説ストーリーほんっっっと大好きです....( ;;)