✧≡≡ FILE_040: 避雷針 ≡≡✧
ワイミーは車のブレーキをかけた。
ウィンチェスター大学──誰もいない。避難命令はすでに行き渡っていたのだろう。
彼はすぐさま後部座席から袋を掴み、校内へ走った。
中は不気味なほど静かで、掲示板の紙が風でめくれる音だけが聞こえる。
目指すのは──爆弾が設置されている3階の物理実験室。
ローライトが示した通り、ルミライト爆弾は“中に電気が蓄えられている”。
その電気が熱と光になれば暴走が起きる。
ならば、その電気を抜く──“電位差”を作ることが唯一の解除方法だ。
❅❅❅
ウィンチェスター大学・理工学部棟──3階、物理実験室。
普段なら、学生たちが電気抵抗や回路演算を学ぶ部屋だ。
しかし今、その部屋の中央に置かれていたのは、人類を焼き尽くす可能性を持つ金属──ルミライトの光爆弾だった。
ワイミーは慎重に教室へ入り、用意した工具と回路素子の入ったケースを広げる。
爆弾にはコードが繋がれており、外部の主幹線と連結されていた。
彼は爆弾の下部を覗き込み、電圧モニターを確認する。
内部電圧:302V
温度は26.5℃──間もなく臨界温度だ。
(今、止めなければ──)
ワイミーは床下にある非常電源切替盤を開く。
この建物には、ディーゼル発電機が非常用バックアップとして設置されている。(商用電力──国の電力会社から電気を受けているため、逆流して電気を返すことができる)
それは停電時、自動で切り替わるが──今は“逆流モード”に切り替えられるよう細工した。
さらに、屋上の避雷針ルートを通じて、電気を“地面に流す”接地極(アース)に直結できる回路を作っておいた。
「……問題は、流量だ」
蓄積された電気が一気に流れれば、配線が焼け、電気が途絶える。
電気が途絶えたら、爆発──
しかし、避雷針ルートは雷と同等の放電を想定して設計されている。
十分に持つだろう。
ワイミーは深呼吸し、切替レバーに手をかけた。
「──行くぞ」
ガチン。
レバーを倒すと同時に、機械が唸った。
金属の奥から、「ビィィィ……ィ……ィ……ッ」という、沈むような共鳴音。
ルミライトが、微かに発光し、そして──徐々に徐々に光を失っていく。
モニターの数字がみるみる下がる。
302V → 190V → 60V → ……0V。
ワイミーは、固唾を呑んで見守った。
そして──数分で放電完了。
ルミライトの発光は止まり、表面の温度は25.8℃へと下がっていった。
臨界点に届くことなく、内部の電気はすべて大地に還元されたのだ。
「……止まった……」
ワイミーは力なく、胸を撫で下ろすと、最後の爆弾へ目を向けた。
ウィンチェスター大聖堂。
少年が今向かっているところだ。
後に向かうとは言っていたが、あんな子供一人を爆弾の近くに行かせるなんて無茶だった。
早く迎えに行かなくては──






