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「なぁ、本当にこれで良いんだろうな?」 「そのはず……だけど」
タウルスと二人で、川のように流れる水を辿る。
最近ジョリーが作った、広いプールのエリア。濡れたプールサイドを歩いて、奥地へと進んでいく。
構造がやたら入り組んでいるので迷いそうだが、タウルスが言うには、この流れるプールを辿っていけば、最初の位置には戻れるとのこと。
まあ理論的にいけば正しいのだけど、何せジョリーが作った空間。そんなルールは通用しないんじゃなかろうか。
「ここ、さっき通らなかったか……?」
「あー……そうかも……」
こんな調子だ。
「クィーバーくん、どこに行ったんだろう?」
今はクィーバーを探している。
というのも、怪我人である彼女まで泳ぎに来てしまったらしく、心配になったからだ。此処には彼女の骨折が悪化する要因なんていくらでもある。
「あー……タウルス、ちょっと手分けしよう」
「そ、そうだね……」
来た道を通ってきたと思ったら、なぜか知らない分かれ道に遭遇する。俺は右に、タウルスは左に進んだ。
クィーバーは、どこに行ったのだろう。浮き輪を嵌めて流れるプールに入った所までは見掛けたが、それ以降何処に行ったのか見当もつかない。
キノコの形の噴水や、ビーチボールがぽつぽつと配置されている。塗装された橋の上に立って、暫くぼんやりしてみる。
白や青のタイルで構成された、さっぱりとした空間。癒されるような音楽が流れて水の音と混ざり、居心地はそれなりに快適だった。
ふと奥を見ると、運良く──誰かが奥から流されてきた。
クィーバーだ。
浮輪にすっぽり嵌まりながら、目を閉じて、ただ流れに身を任せている。半ば放心状態なのか、俺に気付いていないようだ。
花筏みたいに流されて、俺のいる橋の下を通過していく。
俺が橋を降りて後を追い掛けると、クィーバーはようやく気付いて振り向いた。
「あれ、イースター……いつのまに?」
「さっきからいたけど」
「そうなんだー」
ほわほわした口調でそう言い、彼女はまた目を閉じる。水流に無抵抗に弄ばれるのを楽しんでいるようだ。
俺はプールサイドから流れるプールにそっと入り、クィーバーの後を追う。俺はいつもの服装だったけど、まあすぐ上がればいいだろう。
「気持ちよくて良いねー」
近付くと、水に浸かった彼女の身体が見えるようになる。
白いスカートの水着が揺らめいていて、浮いた布の隙間から、桃色の肌が覗いていた。手足の濡れた黒い毛が、きらきらと光っている。
「うわっ!?」
周到に観察していたら、勢いよく水を掛けられた。頭がたちまちびしょ濡れになる。
目を開けたら、クィーバーが鋭い目で俺を見据えていた。
「じろじろ見ないでくれる?」
「す、すまん」
俺の視線に気付いて、ぷいっと顔を背ける彼女。髪でよく見えないが、頬に赤みが掛かっている。さほど露出は多くないとはいえ、流石に見られすぎるのは嫌らしい。
「もう……これだから思春期ボーイは」
「思春期じゃない……いや、うん。似合ってるよ」
これだけは伝えておきたくて、半ば無理やり言葉を繋げる。
本心だった。クィーバーが着ている水着は、まるで彼女だけの為に拵えたもののように思える。艶やかすぎず単純すぎずで、つまるところ丁度いい。まあ多分、ジョリーが用意したんだろうけど。
俺の言葉に、クィーバーはポカンとした表情を見せた。
「え? あ、うん……ありがとう……?」
ただ呆然とした様子で言われた。喜んでいるって訳でもなさげで、困惑気味にまた視線が逸らされる。
「そう……そうなんだ…………」
クィーバーは何かボソボソ言いながら流されている。彼女の尻尾の先が揺れて水面を掻き、水しぶきが飛んできた。
なんだか恥じらいを伴った、思わせぶりな流し目を送ってくる。
「ありがとー…………ふふふ」
「……? あぁ」
からかい混じりな口調で笑われた。キョトンとして見つめ返すけど、彼女の目を見ても思惑までは読めない。
「カワイイねー、イースター」
「……は?」
なんでそうなる、と聞き返すより先に、クィーバーは蠱惑的に首を傾げた。
「イースター、顔赤いねー」
「え、いや……」
「もう…………思春期ボーイはこれだから」
「思春期じゃ、ない……」
「うふふっ。さぁて、どうかな?」
彼女は機嫌も上々に、浮輪を嵌めたままプールから出る。
勝ち誇ったように、濡れた尻尾が揺れていた。