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#婚約破棄
霞花怜
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うわあ、もう、この甘さ……! 読み終わったあと、頬が緩んでしまいました。柊吾さんが「幸せだな」って自分で驚くところ、すごく胸に刺さりました。あんなに不安だった人が、こんなに柔らかい気持ちになれるんだなあって。母を迎えに行くまでの時間、瑞樹さんが一緒に来てくれるって言ったときの、慌てて視線を逸らす柊吾さんが可愛すぎて……! 幸せに浸ってばかりはいられないって自分を叱るところも、リアルで好きです。
あのあとも、すぐには離れられなかった。
瑞樹の甘い誘惑と色気にすっかり流され、もう一度、深く肌を重ねてしまった。途中で何度も「母さんが帰ってくる前に」と思い出したはずなのに、そのたび、耳元で囁かれる声や、触れる指先の熱に思考を攫われていく。
気づけば、時計の針は予定よりずっと先へ進んでいた。
身体の奥には、まだ瑞樹の熱がじんわりと残っている。力が抜けた手足も、火照った頬も、少し動くたびに蘇る昨夜の記憶も、どれひとつとして現実へ戻ることを許してくれない。
着替えを済ませても、頭の中はまだ瑞樹の腕の中に置き去りにされたままだった。
(……幸せ、だな)
ふいに浮かんだその感情に、自分で驚く。
こんなふうに誰かに求められて、朝まで一緒にいて、しかもこれから母を迎えに行くまで隣にいてくれる。そんな当たり前のような時間を、自分が手にしていることが信じられなかった。
けれど、幸せに浸ってばかりはいられない。
ふと、壁時計へ視線が向いた。
もうすぐ母が帰ってくる。
今夜の夕食はどうしよう。冷蔵庫の中身も、何を作るかも、まだ何ひとつ考えていない。浮かれている場合じゃない。いつものように、迎える準備をしなければ。
(ダメだ……ちゃんとしなきゃ)
伸びかけた幸福感を胸の奥へ押し戻すように、柊吾は両頬をパチンと強く叩いた。
じん、とした痛みが広がる。それでも、瑞樹に抱き締められた身体の熱までは、簡単に消えてくれなかった。
「そろそろ戻らないと……」
借りていたシャツを脱ぎ、自分の服へ着替える。乱れた髪を手櫛で整え、何度も深呼吸をしてから、玄関へ向かった。
その時、送迎車の到着予定時刻まで、あと五分だと気づく。
靴を履こうとした柊吾の腕を、瑞樹がそっと引いた。
「柊吾さん、ちょっと待って。送迎車が来る前に……あと少しだけ」
「え、あ……んっ」
深く、蕩けるほど濃密な口づけが落ちてくる。膝から力が抜けそうになり、柊吾は咄嗟に瑞樹の腕へ縋った。
数秒後、ようやく唇が離れる。
「じゃぁ、行きましょうか」
「えっ? 黒瀬さんも、来るんですか?」
「だめ、ですか?」
捨てられた子犬のような目で見つめられると、柊吾は強く断ることができなかった。
「同僚に、今日のお母様の様子を聞いておきたいんです。引き継ぎもありますから」
「……それなら」
本当は、もう少しだけ瑞樹と一緒にいたかった。そんな本音を悟られないように、柊吾は慌てて視線を逸らす。
「一緒に来ても、いいです」
「ありがとうございます」
瑞樹は嬉しそうに微笑み、柊吾の手を取った。
その指先が、誰にも見られないようにそっと絡められる。誰かに見られていないか内心ドキドキしつつ、柊吾は瑞樹と並んでアパートの前に立った。