テラーノベル
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翠は、ずっと眠ったままだった。
泣き疲れた子どもみたいに、
時々小さく息が震えるだけで、目は開かない。
桃はソファの横に座ったまま、
スマホを握っているけど、ほとんど見ていない。
茈はダイニングの椅子を引き寄せて、
翠の足元側に座っている。
部屋は静か。
「……寝れてるな」
桃が小さく言う。
「深いな。たぶん、相当削れてたんだろ」
茈の声は落ち着いてるけど、
目はずっと翠から離れない。
時計の針が進む。
夕方。
玄関の鍵が開く音。
「ただいまー……」
赫の声。
少し抑えめ。
「……ただいま」
黈。
「ただいまぁ!」
瑞。
でも、リビングの空気で、すぐ察する。
三人とも足音が自然と静かになる。
リビングに入ってきて、
ソファの翠を見た瞬間、
赫の眉がぎゅっと寄る。
「……寝てんの?」
桃が頷く。
「うん。昼からずっとな」
瑞が小声で近づく。
「翠にぃ、まだつらいの?」
茈が答える。
「体も心もな」
黈がそっとソファの横にしゃがむ。
翠の顔を覗き込む。
「……泣いた?」
桃は一瞬だけ迷って、でも隠さない。
「うん」
赫が目を伏せる。
ぎゅっと拳を握るけど、何も言わない。
黈が、そっとすちの手に触れる。
冷えてはいない。
呼吸は落ち着いてる。
それを確認して、少し安心した顔になる。
「起こさない方がいいよね」
「そうだな」
茈が即答する。
瑞は鞄をそっと床に置く。
いつもみたいにドンって置かない。
「瑞、今日は静かじゃん」
赫が小さく言う。
「そりゃ、すちにぃ寝てる時ぐらい静かにするよ」
その言い方が、少しだけ明るくて、でも優しい。
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赫はソファの背にもたれかかる。
「……俺ら、何すればいい?」
桃は少し考えて、言う。
「いつも通りでいい。
でも、うるさすぎない程度にな」
茈が補足する。
「普通が一番安心する」
三人はうなずく。
黈が立ち上がる。
「夕飯、俺手伝う」
赫がすぐ反応する。
「俺もやる」
瑞もぴょこんと手を上げる。
「瑞も!」
桃は一瞬目を丸くして、それから少し笑う。
「助かる」
キッチンで、三人がぎこちなく動く。
包丁の扱いはまだちょっと不安定。
火加減も、いるまが横からそっと見てる。
でも、みんな真剣。
ガチャガチャ音がしないように、なるべく静かに。
その気遣いが、ちゃんと年相応で、ちゃんと家族。
ソファでは、翠が少しだけ寝返りを打つ。
「……黈ちゃん……」
寝言。
黈が振り返る。
すぐに駆け寄るわけじゃない。
でも、そっと近くに座る。
「いるよ」
小さく答える。
翠は目を覚まさない。
でも、呼吸が少し穏やかになる。
赫がそれを見て、ぽつり。
「……ちゃんと聞こえてんじゃん」
瑞が小さく笑う。
「翠にぃ、耳いいもんね」
桃はその光景を見ながら、
胸の奥がじわっとする。
茈が静かに言う。
「今日は全員、早めに寝るか」
赫が頷く。
「俺らもそばにいればいいんだろ」
「うん」
黈は、翠の手を握ったまま、静かに言う。
「今度は俺たちの番だから」
夕方の光が、
ゆっくり部屋をオレンジに染めていく。
翠はまだ眠っている。
でも、もう一人じゃない。
ちゃんと、五人分の気配に囲まれてる。
コメント
3件
投稿ありがとうございます😭 今回も最高です! これからも自分のペースで投稿頑張ってください!!
ふわあ……今日の話、すごく好きでした。 翠が寝てるだけで成立する静かな家族の空気、ちゃんと伝わってきました。 特に黈ちゃんが「いるよ」って言ったところ、もう目頭が熱くなりました。 寝言で名前を呼ばれるのって、心の奥で信頼してる証拠だと思うんです。 赫くんが「ちゃんと聞こえてんじゃん」って気づくところも、瑞が静かにしてるのも、みんな成長したんだなって。 桃ちゃんが胸の奥じわっとしたってところ、すごく共感しました。 桃ちゃんもようやく「ひとりじゃない」って実感できたのかな。 こはゆさん、今日も温かい夜をお届けありがとうございます🌙