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「もう少しでトンネルですね」
コンの背に揺られること数時間。
無事、北西部と北東部を繋ぐトンネルがあるところまで来ることが出来た。
「ミランは疲れていないか?」
「はい!まだまだ元気です!」
「ははっ!そうか。じゃあトンネルを越えたところにある宿泊施設まで頑張ろうか」
『頑張るのは妾じゃ!』と聞こえた気がしたが、気のせいだろう。
この街道は国の威信を掛けたもの。
その為、警邏の兵士も数多くいて、すれ違うたびに身構えられたが、コンの背に乗っているのが俺とミランだということに気づくと、道の端に寄り、敬礼をして見送ってくれた。
流石聖奈。教育が行き届いている。
本日はトンネルを越えた先にある新しく作った宿場町で一泊することになった。
「漸くアーメッド共王国に入ったな」
自国では一泊のみで、隣国であるアーメッド共王国との国境を跨いだところだ。
アーメッド共王には連絡なしでの入国なので、身分は冒険者としてのものだ。
共王国では以前商人としての身分で暴れてしまったので、今回は使いづらかったのだ。
「はい!この辺りまでなら来たことがありますが、王都へは伺ったことがないので楽しみです!」
「そうか。ここはそこまでではないが、共王国はいろんな文化が混ざっていて、見ているだけでも楽しいぞ」
ここは国境付近。
北西部の獣人を見慣れない人達も多く訪れている。
人種も違えば価値観も違う。
トラブル減少の目的から、この国境付近には人族に慣れた獣人や共王国の人族が多い。
『懐かしい匂いがするのじゃ』
「獣人の国だからな。ただ、コンが知っている獣人とは少し違うぞ」
『にゃ?どう違うのじゃ?』
「コンの知っている獣人は野生に近いんだ。こっちの獣人は文化人だな。一番の違いは喧嘩を我慢できることだと思うぞ?」
コンの山の麓に住んでる獣人をよく知らないが、コンから聞く話では喧嘩は日常茶飯事らしい。
それに狩猟が殆どで、農業はあまりしないと聞いた。
この国の獣人とは大違いだろう。
もちろんどちらが良いとか悪いとかは全く思わないがな。
「とりあえず王都ターミナルを目指そう」
「はいっ!」『わかったのじゃっ!!』
コンからも良い返事が出たな!頑張ってくれっ!
『ひぃっ!?なんで追ってくるのじゃぁ!?』
乗り心地の良かったタクシーは見る影もない。
追っ手から逃れるために全力で駆けるものだから、前に乗るミランが飛んでいってしまいそうだ…あぶねーな。
「魔物と勘違いされているのだろうな」
「っ!!」
この国の獣人は文化人だが、根が戦闘狂なことには変わりない。
コンを見かける度に新たな獣人が増え、追いかけ回されているんだ。
流石は神獣、すぐに置き去りにするんだけど、向けられた殺気でプチパニック状態だ。
ミランはコンの乱暴な速さに、目を瞑って口を一文字に引き締めている。
『妾は魔物ではなく、神獣じゃあぁああっ!!』
「そのまま真っ直ぐでいいぞぉ」
コンはパニック、ミランは可愛くびびっていて、俺はのんびり指示を出す。
この調子なら早く着きそうだな。
王都までは、後二日。(聖調べ)
「わぁ…城壁がありませんね…」
俺がいつぞや来た王都ターミナルを見下ろせる丘へ、俺たち3人はやって来ていた。
眼下に広がるのは、河沿いから放射状に広がる街並み。
遠くには変わらず海が見える。
「敵がいないからな。魔物すらすぐに駆逐されてしまう国だし」
「平和なのか乱暴なのかわかりませんね」
「良くも悪くもわかりやすい国民性だな。中には豚みたいな貴族もいるから気をつけるんだぞ?」
いや、豚獣人だったか……
「ブータメン殿のことでしょうか?今ではバーランドの食肉の5%をブータメン殿から輸入していますね」
「豚さん…頑張ってたんだな…」
ウチの食肉の5%ってかなりの量だぞ。
態度は悪いが仕事の出来る豚さんだったのか……
『ここで眺めていてもつまらないのじゃ』
「そうだな。行こうか」
「はいっ!!」
俺は久しぶりのターミナルへと足を踏み出した。
ターミナルを軽く散策した後、以前泊まっていた宿にまた泊まることとなった。
「綺麗ですね」
「この辺りでも高級な宿だからな。…それよりも、やっぱり同室なのか?」
コンはペットだからどこでもいいのだが、旅の間は同じ部屋で寝ると、ミランが譲らなかった。
目的は定かではないが『離れている間に何かあれば、仲間達に顔向けできません』なんて言われたら断れないよ……
「…私と一緒は、嫌…ですか?」
「嬉しいなぁっ!!久しぶりの2人きりだぜっ!!」
そんな悲しそうな顔をしないでっ!!
『妾もいるのじゃっ!』
うるせえっ!!今は黙ってろ駄狐!!
急に始まったこの旅だが、目的がないわけではない。
聖奈のやりたいことに繋がる情報を集めることが目的なのだが、基本は旅を楽しむ。
ミランとの旅は楽しいのだが、時折異性をアピールしてくるので気は休まらない。
せめて寝る時くらいはと、交渉したのだが……
そんな潤んだ瞳で見つめられたら、おじさん何も言えないよ………
「よ、よし。じゃあ寝ようか」
「はいっ!」
ミランは元気に答えると俺のベッドに潜って来た。
同室はわかる。
俺が依存症を発症したら困るもんな。
でもな、何故ツインではなくダブルなんだ……
俺の睡眠不足の旅は幕を開けたばかりだ。
「すごい熱気です」
今日はオークション会場へ、ミランを連れてやって来た。
宿の目の前だから迷わないしな!
「何でも競売にかけられるからな。人生をかけている奴、道楽で来ている奴、みんなそれぞれの想いで参加している。共通点は皆が大金を持って来ているということくらいだ」
販売物はそれこそ奴隷から魔導具と多岐に渡る。
今日は魔導具の日だから奴隷は売られていないがな。
最低落札価格はどの品もバーランド国民の平均年収ほど。
そりゃあ熱気も凄かろうて。
「ミランは何か欲しい物があるのか?」
「いえ。あ…婚約指輪が…」
俺は難聴系主人公だからな。
何言ってんのか聞こえねーぜ!
ちなみに俺は今回で十回目の参加だ。
何故こんなにも多いのかと言うと、聖奈命令で一時期魔法の鞄を落札する為に通っていたからだ。
お陰様で今では五つの魔法の鞄を俺たちは所持している。
ミランの腰にも容量は少な目だが、魔法の鞄がぶら下がっている。
「おっ。アレはまさか…」
俺は次の競売品に目を奪われていた。
「はい。あれはエリーさんの発明品ですね」
「やはりか…凄いな、エリーは。こんな異国でも価値が認められて、みんなに欲しがられているのだから」
「はい。同じ仲間として誇らしいです」
こういう時、ミランは決して卑屈にならない。
今回も悔しさ嫉み羨望などは感じられない。
優しい笑みで誇らしく思っているのがありありと感じられた。
ホント、良い子だよ。ミランは。
俺なら仲間が頑張っているのに、俺は…って卑屈に思いそうだもんな。
まぁポンコツには嫉妬なんかしないけど……
『それでは!本日の目玉の紹介になります!』
そろそろ帰ろうかと思えば、司会者のそんな声が聞こえた。
『この金属球は炸裂の魔導具です!その殺傷・・・・』
その競売品に目を向けると、司会者の声は耳へ入らなくなった。
「あ、あれは…」
「はい…手榴弾、ですね」
そう。その競売品とは、俺が地球から持ち込んだ手榴弾だった。
どうしてあれがこの街に流れているのか、その理由はすぐにわかることとなる。
はぁ…聖奈の指示以外は、ただ楽しく旅をするつもりだったのに……
俺は苛立ちを込めて、手榴弾を落札した。