テラーノベル
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なんなんだ、コイツは。
それが、雨井すずねという女への印象だった。
俺、霧島葵は、13年間のうち半分以上は、この病院で過ごしている。
ずっと難病を患っていて、治るかも分からない。
20歳まで生きられるかも分からないそうだ。
それを聞くと、同情するような目で見てくる奴らもいるが、俺は生きる理由もない。
笑わず、泣かず、悲しまず、生きているか、死んでいるかすらわからないほどの空白な日々。
俺の死を悲しむ人がいるかすら、わからない。
家族すら、俺のことを見ていないのだがら。
俺の母親は、来るたびに泣きながら謝ってくる。
俺の父親はそれをなだめながら、早々と義務的なことを済ませ、病室から出ていく。
この流れが、いつも通りの光景。
いつしか、俺は家族が来る時は寝たふりをするようになった。
それで、だいぶ楽になった。
母親は黙っていたし、父親もいつもより早くに出ていっていた。
...けれど、なぜか妹のりおだけが、暗い顔をしていた。
いつも、母親の後ろで隠れていたりおが、泣きそうな顔で俺を見つめていた。
分からない、分からないんだ。
俺は、必要ないはずだ。
なのに何で、そんな泣きそうな顔をするんだろう。
そう、悩んでいた日のことだった。
その日は、父親と母親だけが来ていた。
いつにもまして、暗い表情だった。
俺はどうしても気になり、久しぶりに母親に話しかけた。
「母さん、なにかあったのか?」
母親は目を見開き、少し遅れて返答をした。
「・・・実は」
それは、りおがトラックにひかれかけた、というものだった。
いや、通りすがりの少女にかばわれた、が正解だろう。
ソイツは、たいそう立派な人なんだろう。
俺みたいにひねくれた人間とは真逆の、自己犠牲になってでも、知らない誰かを助ける勇気ある人間。
俺と同じ病院に入院していて、なかなか目を覚まさないらしい。
俺はそいつのことが気になり、何度か病室を抜け出しては、様子を見に行っていた。
今日も、そいつの様子を見ようとふらりとその病室に立ち寄った。
だが今日は、安らかな寝顔ではなく、目をパッチリ開けて窓を見つめていた。
「起きたんだな、お前。」
俺がそういうと、俺の顔を見上げるそいつ。
目を真ん丸にして見上げている顔は小動物を思わせるような容姿で、気が弱そうに見える。
本当に、目の前にいる奴がりおを守ったんだな、と思うと、心底優しい奴なんだと感心する。
恵まれてきたんだろうな、こいつは。
そう、思っていたんだ。
「ねえ、りおちゃん」
「私ね、とっても嫌なことがあったんだ。」
一つ、深呼吸をして淡々と話すソイツ。
「辛くて苦しくて、もう消えたいと思ったんだ。」
お前も、同じだったんだな。
「でも、りおちゃんの笑った顔を見て、素敵だなって思ったんだ」
「それが消えることが、すごく怖かった。」
それでも、りおを守りたいと思って、かばったんだな。
「私、守りたかったんだ。りおちゃんのことを。」
知らない誰かのために、つらくても、苦しくても、前に飛び出したんだな。
「守れて、良かった。」
そう、アイツは優しく笑った。
なんて、綺麗なんだろう。
なんて、気高いんだろう。
なんて、尊い人なんだろう。
弱いはずなのに、怖いはずなのに、小さな体で守ったんだ。
自分がボロボロでも、誰かのために動くやつなんだ。
でも、アイツは誰から助けてもらうんだ。
そう考えていると、後ろから足音が聞こえ、自分の病室に戻った。
聞くと、アイツの名前は、天井すずねというらしい。
綺麗な響きの名前で、名は体を表すとはよく言ったものだと思った。
俺も、彼女と話がしたい。
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