甚壱を倒し、工場内の空気が静寂に包まれたその瞬間、奨也の背後に冷たい声が響いた。
「扇、甚壱、あの二人を倒すとはね。やっぱり君は禪院家にとって厄介な存在だ。」
奨也が振り返ると、そこには長身で冷ややかな眼差しを持つ男が立っていた。彼の名は禪院蘭太。本家の中でも特殊な術式を持つ精鋭であり、彼の存在は奨也にとって初耳だった。
「君が次の相手か。」奨也は冷静に言葉を返しながらハンドスピナーを回し始めた。
蘭太は微笑みながら前に進み出る。
「僕の術式は、君のような術式使いには天敵かもしれないね。」
蘭太が一歩踏み出すたびに、空間が歪むような感覚が奨也を襲った。突然、奨也の正面に巨大な「目」が浮かび上がった。その目は禍々しく光り、じっと奨也を見つめている。
「これが僕の術式、『正眼』だよ。睨まれた相手の動きを完全に止める。」蘭太が静かに言った瞬間、奨也の体がピタリと動きを止められた。
ハンドスピナーが手の中で止まり、術式を発動することもできない。
「…動けない。」奨也は内心で驚愕したが、外に感情を出すことはなかった。蘭太はそれを見透かしたようにさらに近づく。
「君がどれだけ術式を極めても、この『正眼』の前では無力だ。」
奨也は内心で考えを巡らせていた。
(動けなくても、術式そのものが消されるわけではない。正眼が動きを封じるだけなら、別のアプローチが必要だ。)
蘭太は自信に満ちた笑みを浮かべ、奨也にとどめを刺そうとする。しかし、彼の術式には一つの弱点があった。「正眼」が相手を睨んでいる間、蘭太自身は術式の制御に全神経を集中させるため、完全に無防備になるのだ。
奨也は術式の特性を利用し、ハンドスピナーを「気体化」させ、その微粒子を自分の周囲に漂わせた。その状態で蘭太に向けてゆっくりと広がる術式を仕掛ける。
蘭太はそれに気づくことなく、さらに力を込めて「正眼」の視線を強めた。
「…君の動きが完全に止まった。これで終わりだ。」蘭太がそう呟いた瞬間、奨也の術式が完成した。
「動きを止められたら、気体で動けばいい。」奨也が静かに呟くと、彼の周囲に漂う気体が蘭太を包み込んだ。その気体は冷却され、霧のように凝縮されていく。
「なにっ…これは…!」蘭太が驚きの声を上げた時、奨也は気体を一気に高圧状態にして爆発させた。
「術式の制御に集中しすぎて無防備になる。それが『正眼』の弱点だ。」
爆発の衝撃で蘭太は吹き飛ばされ、術式が解除された。奨也は素早く距離を詰め、蘭太にハンドスピナーを突きつけた。
「これ以上本家の命令で動くな。次は命を奪う。」
蘭太は息を荒げながら、奨也を睨んだ。
「お前がここまでの術師とは…認めたくないが、本家も動きを変えざるを得ないだろう。」
蘭太はそう言い残し、地面に倒れ込んだ。
蘭太を倒し、奨也は冷静にその場を離れた。しかし、彼の心には一つの疑問が残った。
(本家がこれほどまでの力を使ってまで分家を潰そうとする理由は何だ…?ただの権力争いではないはず。)
福岡分校に戻ると、教頭が険しい表情で迎えた。
「奨也、君に伝えるべきことがある。次に来るのは…本家の最強の使い手だ。」
奨也はハンドスピナーを握りしめ、静かにうなずいた。戦いの終わりは、まだ見えていない。
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