「ただいまー」
「あ、おかえりーめめ!」
「おかえりー、宮舘くんも久々やなー」
「…」
「ってか舘さん痩せたねー…ちゃんと食べてた?」
「……いや、あんま…」
「駄目じゃん、ちゃんと食べないとー!」
「…」
「…最近の行動や今の現状で宮舘くんの精神状態が大体分かった。」
「…はい。」
「…宮舘くんはこんな小さい病院じゃなくて、もっと大きな病院で薬とか使わないと治せないところまで来てるんよ。」
「…」
「でも…俺らから紹介状を書いたとして宮舘くんが絶対にそこに行けるとは俺は思わん。」
「…何で。」
「宮舘くんを連れてきた友達がいたやろ。確か…翔太くん、だったっけ?」
「…」
「まぁその子から最近の状況を聞いたんよ。連絡も繋がらなくてカーテンも閉め切ってて、部屋も暗い。…完全に心を閉ざした人の行動なんよね。」
「…」
「…この状態やと、多分宮舘くんは俺らももう信用してないやろ?」
「…え…?」
「だからここまで世話を焼くのはもう最後。…後は宮舘くんの好きにしたらええよ。」
そこまで言うと、向井さんは座っていた席を立ちどこかに行ってしまった。…今度こそ見捨てられた。俺が悪い子だったから?…俺が、イラナイコだったから?
「…っ…」
「…舘さん…」
「…ぅ、はぁ、ひゅ…っ…」
「舘さん?」
「かひゅ…ひゅー…は、っ…」
「舘さん!?」
いつの間にか息ができなくなっていた。苦しい、怖い。それだけが頭を埋め尽くす。足の力が抜けて床に座り込む。耳鳴りがして、目の前が真っ白に染まる。周りが騒がしいけど、何言ってるかは分からない。そしてそのまま意識を手放した。
「…ん…」
「…あ、起きた?」
「目黒、さん…」
「うん。…舘さん過呼吸になったと思ったら顔を真っ青にして倒れたから。今は昼くらいかな、対して時間は経ってないよ。」
「…そう、ですか…」
「…うん。」
「…あの…」
「…ん?」
「話したいこと、ある…」
「…うん。俺でいいなら聞くよ。」
「…さっき、向井さんに、好きにしたらいいって言われた。」
「うん、そうだね。」
「…捨てられたのかなって思った。」
「…」
「俺が、悪い子だった、から…見放された、のかなって…怖かったっ…」
いつの間にか泣いていた。ポロポロと溢れる涙を目黒さんは指先で掬いながら話を聞いてくれた。
「…康二が好きにしていいって言ったのは舘さんが悪い子だからってことではないよ。」
「え…?」
「あれは康二なりの気遣い。もしもう俺らが嫌になったのなら逃げていいよっていう優しさ。…不器用すぎるけどね。」
「…っ、」
「多分、康二ももっと舘さんと話したいと思っているよ。だけど…自分が苦しい思いをしたからこそ舘さんにはそんな思いをさせたくはなかったんだと思う。だからわざと突き放すような言い方をしたんだろうね。」
「…おれ、っ…」
「…」
「まだ話したいっ…」
「…うん。」
「…向井さん、とも目黒さんとも…ラウールさんともっ…話したいっ…」
「…だってよ。康二、ラウール。」
「え…」
目黒さんがドアの方を向いて呼びかけるように話す。数秒後、2人が恐る恐る顔を覗かせた。
「向井さ…ラウールさ、ん…」
「ほら、康二くん。」
「…さっきはごめんな。あんな言い方して。」
「…っ…」
「…嬉しかった。宮舘くんがまだ俺らと話したいって言ってくれて。」
「ふ…っ…うぅ…」
「…まだ話そう。俺らもまだ宮舘くんと話したい。…だって、俺ら…特にめめが、こんなに心を開いたのは久々だから。」
「…ぅ、あぁ…っ」
本格的に泣き始めた俺を向井さんは抱きしめてくれた。ラウールさんは頭を撫でてくれて、目黒さんは手を握ってくれた。
落ち着いた頃にはもう夕方だった。あれから数時間泣き続けたというのに、3人はずっと俺の傍にいてくれた。
「…ははっ、舘さん目真っ赤ー」
「っ、だって…」
「分かっとるよ。ごめんな。」
「…も、いいよ。」
「…へ?」
「…また、お話できるなら、それでいい。」
そう言って俺は微笑んだ。
「…もー!可愛ええなぁ!」
「可愛いって…」
「…なぁ宮舘くん。俺らから提案があるんよ。」
「…なに?」
「…こっちに住まん?」
「…え?」
「前にも言ったろ?孤独が1番の敵やって。」
「あ…」
「宮舘くんが1人でまた抱え込まないように。一緒に暮らさない?っていう提案。」
「…」
「嫌だったらええんやで!決定権は宮舘くんにあるから!」
そう慌てて言う向井さんに思わず吹き出す。
「ちょ、笑わんでもええやんかー!」
「ごめん、あまりにも慌ててるようだったから…」
「まぁ、ええけど…」
「…逆にいいの?」
「…え?」
「俺なんかと一緒に暮らすの。」
「ええから提案したんよ?ちなみに1番最初に言ったのあの2人やからな。」
そう言って向井さんは、ラウールさんと目黒さんの方を向いた。…ラウールさんならともかく、目黒さんが言い出したのは意外だった。
「…俺が言い出したのが意外?」
「…っ、心読まれた…」
「ははっ!そんな顔してたよ。…まぁそう思ったからとしか説明はできないけどね。」
「めめがなんだかんだずっと傍にいたしねー」
「まぁな。…で、一緒に住んでくれる?」
不安そうな3人の顔に笑みを零しながらゆっくり頷くと、3人は今まで見たことがないくらいの笑顔を見せてくれた。