テラーノベル
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公安特別捜査隊専従班にも休日はある。
上野の映画館に来た桜祐警部と千代田春警部は、劇場ですたぷりの映画のチケットを買い、席で予告編を見ていた。
すたぷりとは6人組の顔出ししないアイドルユニットである。
すたぷりの映画のネタバレは踏まないようにしていたが、おそらく彼らがスターの座を駆け上がるサクセスストーリーだろう。
上映前には当然予告編や広告が流れる。
『新人歌い手グループめろすた! 来月東京ドーム単独ツアー!』
千代田春の顔が綻ぶ。
打って変わって、海上自衛隊をモチーフとした映画シーマンシップの予告が流れる。
イージス艦きりしまがテロリストにジャックされる映画だ。
桜祐は違和感を覚えた。防衛省海上自衛隊全面協力と示されていたからだ。
……上映が終わり、劇場を後にした祐と春はゲームセンターに立ち寄る。
賑やかなゲームセンターに一瞬くらりとする。
桜祐は早速クレーンゲームをプレイするがなかなか取れない。
「何やってんの? 何これ? 水鉄砲? おもちゃの銃?」
「ん、まあ」
「どうしてこれを?」
祐は獲ろうとした理由を濁し、春は怪訝な面持ちになる。
諦めて台から去ろうとするが、千代田春が待ったをかけた。
「貸して」
ゲームセンターで玩具銃を手に入れた。
彼らの奇妙なデートは終わった。
* *
秋葉原の公安特別捜査隊専従班アジトの朝は早い。
桜祐と千代田春が出勤すると、君塚信一、乃木康信がデスクワークにいそしんでいる。
大河内がにやつきながら待ち構える。
「デートどうだった?」
桜祐が楽しげに報告する。
「すたぷりの劇場版見に行きましたよ。彼ら6人がスターへの道を駆け上がるサクセスストーリーでした。ただ……」
「ただ?」
「大河内さん自衛隊別班で、モデルガンにも詳しいらしいですね」
「それが?」
いぶかしむ大河内。
「このおもちゃの銃、改造したら手製銃になりそうですね」
おもちゃの銃が机に置かれる。
「プッ」
笑う春。
「それはおかしいよ祐君、おもちゃの銃だよ?」
「だけどおととしの黒部元首相銃撃事件では手製銃が使われたんです」
おもちゃの銃を吟味していた大河内が口をはさむ。
「まあ、ガスガンに改造可能というところだな。秋葉原で部品が揃いそうだ」
千代田春は押し黙るが、やがて口を開く。
「そういえば私も自衛隊の大河内さんに聞きたいことがあったんだけど」
「ほう」
映画シーマンシップのチラシを見せる春。
「これって防衛省自衛隊は快諾してるの?」
「確かに。イージス艦がテロリストに強奪されるっていう内容だろ?」
「まさか本物のテロだったりして」
「まさか!」
考え込む祐、春、大河内。
君塚信一がパソコンのキーボードを叩き、立ち上がる。
「中国共産党やテロ組織アバンギャルドは固く密封された缶だ。開ける方法を考えよう。今の話がプルトップになるかもしれない」
君塚はそう助言した。一同が君塚の周りをぐるりと囲み、指示を承る。
「乃木首席調査官には公安調査庁でゲームセンターの手製銃について調べてもらえるようお願いできますか」
「承知した」
「大河内二等陸佐は防衛省自衛隊の線で怪しい映画撮影企画について調べてくれ」
「了解しました」
「桜警部と千代田警部には潜入捜査をお願いする」
桜警部と千代田警部は顔を見合わせた。
「「潜入捜査?」」
「映画シーマンシップの撮影現場に潜入捜査するのさ」
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