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ゆ(旧「ゆゆゆゆ」)
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ゆ(旧「ゆゆゆゆ」)
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「……チップの流れは悪くない。ディーラーの手元も乱れてない。……今夜は平和すぎて、逆に気味が悪いな」
VIPフロアの絨毯を踏み締めて歩く男――マフィオソ。
仕立ての良い最高級のカシミアコートを揺らし、縦縞のフェドラ帽の影から、全てを見透かすような鋭い隻眼を走らせる。
その圧倒的な首領(ドン)の威圧感、放たれる冷徹なオーラだけで、行き交う客もディーラーも自然と背筋を伸ばし、息を呑んで道をあけた。
ソネリーノ・ファミリーのボス。
この淫靡で絢爛なカジノそのものを支配し、夜の法を司る絶対権力者だ。
だが。
「……は?」
その絶対的な鉄の仮面が、一瞬で融解する。
VIPフロアの最奥。
普段は限られた国家元首や大富豪しか近寄らせない最高額のブラックジャックテーブルに、異様な人だかりと、肌を焦がすような熱気が満ちていた。
下俗な歓声。
品のない口笛。
充満する高価な酒と、肌にまとわりつくような、熱っぽい空気。
「さあさ、お次のゲーム。今夜の運命、俺に預けてみるかい?」
聞き覚えしかない、鼓膜を甘く、そして不遜に撫でる声。
マフィオソが忌々しげに人混みを押し退けた瞬間、テーブルの中央に立つ“そいつ”と視線が真っ向からぶつかった。
「……チャンス」
「やぁ、ボス」
にっこり。
あまりにも不敵で、最悪なくらいに艶やかな笑顔だった。
チャンスの姿は、ディーラー服をベースにしながらも、完全に独自の“趣味”へと冒涜されていた。
背中が腰の骨の近くまで大きくV字に開いたベストからは、照明を浴びて滑らかに輝く肌が惜しげもなく晒されている。
緩められたストライプのネクタイは、まるでこれから始まる情事を誘う結び目のようだ 。
コルセットのように引き締まった腰、そして、指先の輪郭を艶っぽく強調する黒い革手袋。
何よりマフィオソの目を引いたのは、その頭の上で扇情的にぴこぴこと揺れる、黒いシルク製のバニー耳だった。
「貴様ァッ!?」
マフィオソの怒号がフロアの重厚な天井を揺らす。
だが、すでにチャンスの術中にハマった客たちは「ドンが動揺してるぞ!」「今夜は最高だ、いくらでも賭ける!」と大盛り上がりだ。
チャンスは銀のトレイで口元を隠しながら、くすくすと肩を震わせる。
「そんな怒るなよ。今日は特別イベント。“ラッキーバニー・ナイト”ってやつ」
「誰が許可した!!」
「俺」
「却下だ!!」
しかしチャンスは、ボスの拒絶などどこ吹く風で、カードを扇のように滑らかに広げた。
しなやかな指先が、流麗な手つきでカードをシャッフルしていく。
「で? ボス直々に勝負してくれるのかい? もし俺が勝ったら……今夜の残り時間、お前の全部を俺に頂戴」
挑発的に潤んだ視線が、マフィオソの瞳を射抜く。
観客からの怒涛の煽りを受け、マフィオソは吐き捨てるように重い息を漏らすと、帽子の庇を深く引き下げ、ドサリと席へ腰を下ろした。
「……後悔するなよ、チャンス。お前がその身をすべて失うことになる」
「それ、負けフラグっぽいぜ?」
「黙れ、配れ」
ゲームが開始され、静寂と緊張が卓上を支配する――はずだった。
「ヒットするかい? ボス」
チャンスが、わざとらしく胸元をはだけるようにして身を乗り出す。
近い。あまりにも近すぎる。
微かに汗ばんだ肌の熱気と、甘く濃厚なムスクの香水の匂いがマフィオソの嗅覚を容赦なく支配する。
明らかに、彼を狂わせるために強く身につけられた香りだ。
「……普通に配れ」
「照れてる?」
「照れてない」
「耳赤いけど?」
「照れてない!!」
外野の笑い声など、もう二人の耳には届いていなかった。
マフィオソの理性が限界を迎えようとした、その瞬間。
カジノテーブルの厚い絨毯の下で、滑らかな「何か」が、マフィオソの脚に触れた。
「……っ!?」
チャンスの足だった。
靴を脱ぎ捨てたのだろう、薄いストッキング越しのような滑らかな感触の細長い脚が、するりとスラックスの裾を割って入り込んできたのだ。
ふくらはぎを愛撫するように這い上がり、そのままマフィオソの膝を、ぎゅっと肉感的に挟み込んでくる。
「おい……」
「ん?」
「やめろ」
「何を?」
「とぼけるな」
チャンスは完全に知らん顔のまま、流れるような手つきでカードを配り続けている。
しかし、テーブルの下の肉体は、さらに深く絡みついてきた。
チャンスのつま先が、マフィオソの太ももの内側、最も敏感な場所へと向かって、じわじわと這い上がってくる。
マフィオソの完璧だったポーカーフェイスが、熱を帯びて劇的に崩れていく――ように見えた。
「……貴様、イカサマ以前の問題だろうが……」
「カジノは心理戦だぜ?」
「色情戦の間違いだ…!!」
さらにチャンスは、カードを差し出すフリをして、マフィオソの手の甲をじっくりと撫で上げた。
革手袋同士が擦れ合う、小さな音。
チャンスの指先が、マフィオソの手首の脈所に触れ、そこからシャツの袖へ滑り込もうとする。
「……お前さ」
チャンスが、限界まで顔を近づけ、耳元で吐息を吹きかける。
「さっきから全然カード見てない。ずっと俺の身体、見てる」
「見てない!!」
「じゃあ……この耳、後でどうしてほしい?」
ぴこ、と動いた黒い耳。
それと同時に、テーブルの下でチャンスの足の指が、マフィオソの太ももの付け根をきつく圧迫した。
誰もがチャンスの勝利を確信し、マフィオソがその色香に溺れ、完全に押し切られていると思った。
だが。
ソネリーノ・ファミリーの首領が、ただ狼狽えるだけの男であるはずがなかった。
マフィオソの唇の端が、昏い愉悦に歪む。
「……捕まえたぞ」
「え――」
次の瞬間、テーブルの下で、マフィオソの両脚が猛猛しく動いた。
逃げようとしたチャンスの脚を、外側から鉄の万力のような力で挟み込み、完全にロックしたのだ。
ビクン、とチャンスの身体が跳ねる。
「……っ、」
「カジノは心理戦、だったな?」
マフィオソは、チャンスの手首を掴んでいた手袋を外し、剥き出しの手で、チャンスの手首を容赦なく極めてテーブルに組み伏せた。
逃げられない。
テーブルの下も、上も。
チャンスの自由は一瞬で奪い去られた。
「ボス……っ!? 離せ……っ」
「離さない。お前が仕掛けた勝負だ、チャンス。ディーラーなら、最後までカードをめくれ」
マフィオソの隻眼が、冷徹な捕食者の輝きを放つ。
彼は空いた方の手で、自分の伏せられていたカードを、優雅に裏返した。
卓上に示されたのは。
「――ブラックジャック」
静寂。
そして、一拍遅れてフロア全体が割れんばかりの、先ほどとは比べ物にならない怒濤の歓声に包まれた。
ドン・ソネリーノの完全なる、圧倒的な逆転勝利。
チャンスは息を荒くし、顔を真っ赤に染めて身を震わせている。
テーブルの下でマフィオソの膝が、チャンスの太ももを、じりじりと、制裁を科すように強く圧迫していた。
マフィオソは、手首を掴んだままチャンスの顔を自分の方へと引き寄せる。
フェドラ帽の庇の影で、二人の唇が触れ合うほどの距離。
「約束通り、今夜の残り時間……いや、明日の朝まで、お前の身体も、心も、その生意気な耳も。全部俺が、根こそぎ喰い尽くしてやる」
「……っ、なぁ、ボス……ちょっと悪ノリが過ぎたっていうか、これはイベントで……」
怯えたように揺れるチャンスの瞳を見つめながら、マフィオソは耳元で低く、至高の笑みを漏らした。
「営業終了後、泣いても絶対に許さんと言ったはずだ。……延長戦、たっぷり可愛がってやる」
テーブルの下では、最後まで。
完全に自由を奪われたチャンスの脚が、マフィオソの強靭な脚に、これ以上ないほど深く、支配されるように絡め取られていた。
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