奨也が加茂律己との戦いを終え、加茂家の本拠地を後にしようとしたそのとき、彼の背後から重々しい気配が迫った。
「待ちなさい。」
振り返ると、そこには一人の青年が立っていた。その男は、冷静かつ鋭い目つきで奨也を見つめていた。
「俺の名は加茂憲紀。次代当主として君を迎え撃つ。」
加茂憲紀は、加茂家の次代当主として育てられたエリートであり、京都呪術高専三年生。彼は「血液操作」の術式を加茂家の誰よりも精密かつ強力に使いこなしていた。
憲紀は戦いを始める前に静かに告げる。
「君が禪院家と加茂家を相手にここまでやるとは驚きだ。だが、加茂家の誇りを傷つけた代償は重い。」
奨也はハンドスピナーを取り出し、軽く回しながら挑発するように答えた。
「誇り?そんなものにしがみついてるから御三家はいつまでも変われないんだ。」
憲紀の血液操作は他の術師と一線を画していた。彼は血液を液体、固体、気体の三態に自在に変化させ、それぞれを同時に制御する技術を持っていた。その結果、攻撃のバリエーションは無限に近いものとなり、防御も容易には突破できない強固なものだった。
憲紀は腕を一振りすると、空中に無数の血液の刃を作り出した。それらは軌道を予測できないように複雑に動き、奨也に迫った。
「これが次代当主の力だ。」
奨也は冷静にそれを見極めながら、術式の応用を考える。
「なるほど。三態を自在に操るか…。だが、俺の術式も物質の三態を基本にしている。」
奨也はハンドスピナーを最大限に加速させることで、術式の媒介として使う空気の密度と温度を操作し始めた。高速回転により空間を収縮させ、憲紀の血液の刃を気体状態に変化させて無効化する。
「俺の術式だって三態だ。お前の動きくらい、読めないわけがない。」
憲紀は笑みを浮かべる。
「読めるからといって、対応できるとは限らない。」
彼は血液を気体に変化させ、毒ガスのように周囲に広げると同時に、自身の体を防御する鎧を固体の血液で形成した。
激しい攻防の中、奨也はある事実に気づいた。
「お前の術式、血液量には限界があるんじゃないか?」
奨也は憲紀の攻撃のタイミングと術式の動きを注意深く観察していた。そして、その隙を突くように高速で回転するハンドスピナーを憲紀の防御の隙間に投げ込む。
「何っ!?」
ハンドスピナーが生み出した圧縮空気が憲紀の防御を崩壊させ、彼を吹き飛ばした。憲紀は地面に倒れ込み、起き上がることができなかった。
「次代当主ってのも大したことないな。」奨也はハンドスピナーを手に取りながら呟いた。
奨也がその場を去ろうとしたとき、憲紀は微かに声を漏らした。
「御三家の争いが目的じゃない…裏で操る黒幕がいる…」
奨也は振り返り、問い詰める。
「黒幕だと?」
しかし憲紀はそれ以上何も言わず、意識を失った。奨也は憲紀の言葉に不穏な気配を感じながら、次の一手を考えるのだった。
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