奨也が加茂憲紀との戦いを終え、加茂家を後にしようとしたそのとき、空間が歪むような異様な気配が辺りを包んだ。
「やっぱり君がここにいると思った。」
現れたのは――五条悟。
白髪に覆面、そしてどこか飄々とした態度。それでも彼の放つ圧倒的な存在感は、場を支配するのに十分だった。
「おいおい、分家を潰しに来たって噂、ホントなの?奨也くん。」
奨也は額に手を当て、ため息をつく。
「…何しに来たんですか、五条先生。」
五条は肩をすくめ、周囲を見回す。
「加茂家もずいぶん荒らされたみたいだねぇ。東京校の生徒にまで噂が届いてるよ。」
五条がここに現れた理由は二つ。
一つ目は奨也の行動が呪術界に与える影響を確認すること。二つ目は、彼を次なる計画に巻き込むことだった。
「君、やりすぎなんだよ。御三家を壊すのは賛成だけど、手を煩わせないでくれる?」
奨也は五条を睨みつける。
「なら、あんたがなんとかすればいいだろ。俺は自分のやり方で動いてる。」
五条はニヤリと笑う。
「それがまずいんだって。御三家だけじゃなくて、裏で動いてる奴らがいるって知ってるだろ?」
奨也の眉がピクリと動いた。
「…黒幕のことを知ってるのか?」
五条は周囲の空気を感じ取るように少し黙り、再び口を開いた。
「黒幕、いるよ。でも簡単に言っちゃつまらないからヒントだけね。」
彼は指を一本立てる。
「一つ目。そいつは御三家を統一しようとしてる。分家を潰すなんて言ってるけど、真の狙いはもっと違うところにある。」
二本目の指を立てる。
「二つ目。俺の知ってる限り、その計画には君も含まれてる。」
奨也は拳を握り締めた。
「…つまり、俺を利用してるってことか。」
五条は軽く手を振った。
「そんなに怒るなって。利用されるのは術師の宿命みたいなもんだから。」
五条は突然、両手をポケットに突っ込んだまま、少し挑発するような笑みを浮かべた。
「で、君がどれくらい進化したのか見せてくれない?言っとくけど、俺、加減しないよ。」
奨也は驚いた表情を見せる。
「何を言い出すかと思えば…。相手になってやる。」
五条の「無下限呪術」に対して、奨也の術式がどこまで通じるのか――それを試すような戦いが始まった。
奨也はハンドスピナーを最大加速で回転させ、空間を圧縮することで五条の術式に干渉しようとする。だが、五条の術式はその圧縮空間すらも吸収するかのように無効化してしまう。
「さすがだな。」奨也は呟く。
「それだけ?もっと本気出してよ。」五条は軽く手を振ると、術式反転「赫」のエネルギーを放った。
奨也は五条の圧倒的な力の前に膝をつきそうになるが、最後の力を振り絞り、ハンドスピナーの回転速度を限界まで引き上げる。術式の進化によって、奨也は五条の「無下限呪術」に干渉する一瞬の隙を作ることに成功する。
「やるじゃん。奨也くん。」五条はその隙を楽しむように微笑み、戦いを終わらせる。
「…俺の勝ちだな。」
奨也は悔しそうな顔を浮かべながらも、五条の力を再確認するのだった。